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研修期間
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「あんな高いところに……お兄ちゃん、どうやってとるの?」
「それを今考えてる!」
この子から離れるなと言われたし、この建物から見るとハシゴも建物内から外に出る扉も無さそう。
というか壁と配管の隙間に引っかかってくれてる間に取らないとまた飛ばされるかも……
「そうだ!二郎君、一度中に戻るけど、すぐにここに戻るから着いてきて」
「なにするの?」
「俺的名案!」
案内所まで戻って、いちばん近い掃除道具入れを教えてもらい、モップの柄の部分だけを外してそれをガムテープと紐でしっかりと巻き付けていると、周りから見たら図工の工作にしか見えないかもしれないが、帽子取り用棒の出来上がり!
「よし!行こっか」
「それじゃあ長さが足りないんじゃ……」
「いいのいいの」
外に出て、配管の隙間に足をかけて二段分登り、「二郎君、棒を上にあげてー」と何とか渡してもらい、棒を伸ばして帽子に……引っかかってくれと何度か隙間に棒を入れ込む。
「お、かかった!」
「お兄ちゃん!危ないよっ!」
「え?」
ギシギシと音がして、足をかけているところがグラグラしているのがわかったので、帽子がしっかり引っかかったのを確認して棒を引き抜く。
「二郎君どいてどいて!」
棒を下の方にスルスルと手から離して帽子をつかみ、先に棒を手から離して二郎君に当たってないのを確認して急いで降りる。
「危なかったぁ」
「あの棒いがんじゃった……」
「誰かに直してもらうよ。はい、帽子」と頭に乗せてあげると「お兄ちゃんありがとう」と満面の笑み。
あご紐をしっかりとかけて中に戻り、洗面所で手を洗ってから食堂に戻ると、ワンピースを着たきゅうり……
「おかあちゃーん」
「心配したのよ?」
「あのねあのね」
「大宜都様から聞いたわ。井筒さん、ありがとうございます」ときゅうりにペコペコ。
いや、河童母から何度もありがとうと言われたが、緑のワンピースはやめてくれ!
「何処にあったんだい?」
「外で帽子をとったみたいで、風で飛ばされたみたいです。近くの壁と配管の間に引っかかってて、モップの柄の部分で引っ掛けてとりましたけど、ちょっと歪んじゃって」
「直すように行っておくよ。二郎君、はい、お土産は忘れちゃだめだよ」
「あっ。おかあちゃん、あのね、僕おやつ貰って……」
「それも聞いたわ。お使いもできて偉かったわね」
「へへっ」
良かったよ優しいお母さんで。
でも帰る時はまた泳いで帰るんだろうか?
それがかなり気になって仕方なかったのに、「お待たせぇー。車の用意ができました……あ、丈史何してたのよ」と八上さん。
「帽子探しの旅に二郎君と行ってました」
「そう」
「帰りは車なんですか?」
「ええ。同じ方向の人達とバスでね。そろそろ出発だから」
「じゃあ行きましょうか。井筒さん本当にありがとうございました」
「お兄ちゃんありがとう」
「またね」と手を振り、食堂の椅子に座って疲れたぁと言っていると、「あんた、モップ解体したなら元に戻さないと。夜勤の掃除の人が困っちゃうよ」と言われ、そうだった!とガムテープを剥がし、またモップにつけて道具入れに入れ、時間を見ると九時過ぎ。
「食堂でいっか」
食堂に戻るとお先にー!とお盆を持った八上さん。
「大宜都さん、夕飯何?」
「今日はそうめんチャンプルーだよ」
「最近選べてないから残念」
「この時間は夕食時間すぎてるからね」
「あ、そうか。土日は選べるじゃん」
「お楽しみも必要だよ!ほら、食べて食べて」
具沢山のそうめんチャンプルーにスープ、大根の漬物に小さいけどおにぎりが二つ。
「おにぎりはサービス」
「いただきます!」
今日は最後に外で体を動かしたからか、河童君を連れて緊張したのか、ご飯が進む!
「大宜都さんのご飯美味しい」
「ほら、ゆっくり食べないと。ほら、お茶飲んで」
「ありがとう」
お茶を飲んで、また食べていると八上さんがじーっと見てくるので「見つめないで」と冗談を言うと、「丈史……」と言われ、何かやらかしたか?とそうめんをちゅるちゅる。
「河童の好物知ってる?」といきなり聞かれたので、きゅうりと答えると、カエルも食べるのよと言われて吹き出す。
「汚いわねー!」
「飯中に言うな!!!」
何とか食べ終わり、お茶を飲みながら「こんな事ってよくある?」と聞くと、子供が使いでくることは珍しくはないが、帽子探しは初めてだという。
「まあ、丈史がバイトしてくれて良かったわよ」
「もう一週間経ちましたし」
「大宜都さん、やっぱりこの子天然ですよね」
「そうだねぇ。ま、そこがいい所なんだけど」
何の話か分からないが、「明日は俺休みなんで」としっかりとアピールしておく。
「それを今考えてる!」
この子から離れるなと言われたし、この建物から見るとハシゴも建物内から外に出る扉も無さそう。
というか壁と配管の隙間に引っかかってくれてる間に取らないとまた飛ばされるかも……
「そうだ!二郎君、一度中に戻るけど、すぐにここに戻るから着いてきて」
「なにするの?」
「俺的名案!」
案内所まで戻って、いちばん近い掃除道具入れを教えてもらい、モップの柄の部分だけを外してそれをガムテープと紐でしっかりと巻き付けていると、周りから見たら図工の工作にしか見えないかもしれないが、帽子取り用棒の出来上がり!
「よし!行こっか」
「それじゃあ長さが足りないんじゃ……」
「いいのいいの」
外に出て、配管の隙間に足をかけて二段分登り、「二郎君、棒を上にあげてー」と何とか渡してもらい、棒を伸ばして帽子に……引っかかってくれと何度か隙間に棒を入れ込む。
「お、かかった!」
「お兄ちゃん!危ないよっ!」
「え?」
ギシギシと音がして、足をかけているところがグラグラしているのがわかったので、帽子がしっかり引っかかったのを確認して棒を引き抜く。
「二郎君どいてどいて!」
棒を下の方にスルスルと手から離して帽子をつかみ、先に棒を手から離して二郎君に当たってないのを確認して急いで降りる。
「危なかったぁ」
「あの棒いがんじゃった……」
「誰かに直してもらうよ。はい、帽子」と頭に乗せてあげると「お兄ちゃんありがとう」と満面の笑み。
あご紐をしっかりとかけて中に戻り、洗面所で手を洗ってから食堂に戻ると、ワンピースを着たきゅうり……
「おかあちゃーん」
「心配したのよ?」
「あのねあのね」
「大宜都様から聞いたわ。井筒さん、ありがとうございます」ときゅうりにペコペコ。
いや、河童母から何度もありがとうと言われたが、緑のワンピースはやめてくれ!
「何処にあったんだい?」
「外で帽子をとったみたいで、風で飛ばされたみたいです。近くの壁と配管の間に引っかかってて、モップの柄の部分で引っ掛けてとりましたけど、ちょっと歪んじゃって」
「直すように行っておくよ。二郎君、はい、お土産は忘れちゃだめだよ」
「あっ。おかあちゃん、あのね、僕おやつ貰って……」
「それも聞いたわ。お使いもできて偉かったわね」
「へへっ」
良かったよ優しいお母さんで。
でも帰る時はまた泳いで帰るんだろうか?
それがかなり気になって仕方なかったのに、「お待たせぇー。車の用意ができました……あ、丈史何してたのよ」と八上さん。
「帽子探しの旅に二郎君と行ってました」
「そう」
「帰りは車なんですか?」
「ええ。同じ方向の人達とバスでね。そろそろ出発だから」
「じゃあ行きましょうか。井筒さん本当にありがとうございました」
「お兄ちゃんありがとう」
「またね」と手を振り、食堂の椅子に座って疲れたぁと言っていると、「あんた、モップ解体したなら元に戻さないと。夜勤の掃除の人が困っちゃうよ」と言われ、そうだった!とガムテープを剥がし、またモップにつけて道具入れに入れ、時間を見ると九時過ぎ。
「食堂でいっか」
食堂に戻るとお先にー!とお盆を持った八上さん。
「大宜都さん、夕飯何?」
「今日はそうめんチャンプルーだよ」
「最近選べてないから残念」
「この時間は夕食時間すぎてるからね」
「あ、そうか。土日は選べるじゃん」
「お楽しみも必要だよ!ほら、食べて食べて」
具沢山のそうめんチャンプルーにスープ、大根の漬物に小さいけどおにぎりが二つ。
「おにぎりはサービス」
「いただきます!」
今日は最後に外で体を動かしたからか、河童君を連れて緊張したのか、ご飯が進む!
「大宜都さんのご飯美味しい」
「ほら、ゆっくり食べないと。ほら、お茶飲んで」
「ありがとう」
お茶を飲んで、また食べていると八上さんがじーっと見てくるので「見つめないで」と冗談を言うと、「丈史……」と言われ、何かやらかしたか?とそうめんをちゅるちゅる。
「河童の好物知ってる?」といきなり聞かれたので、きゅうりと答えると、カエルも食べるのよと言われて吹き出す。
「汚いわねー!」
「飯中に言うな!!!」
何とか食べ終わり、お茶を飲みながら「こんな事ってよくある?」と聞くと、子供が使いでくることは珍しくはないが、帽子探しは初めてだという。
「まあ、丈史がバイトしてくれて良かったわよ」
「もう一週間経ちましたし」
「大宜都さん、やっぱりこの子天然ですよね」
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何の話か分からないが、「明日は俺休みなんで」としっかりとアピールしておく。
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