下宿屋 東風荘

浅井 ことは

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居候

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 食事が終わってから、一度部屋を見に行き、確認する。

「本当に片付いてますねぇ……キッチン用品が足りないようですけど」

「こちらで買いなさいってお金を渡されたんですけど」

「では明日にでも買いに行きましょうか 。後、カーテンも絨毯と同じ色なんですねぇ。だからスッキリと見えるんでしょうか」

「あ、炬燵は閉まってあって、折りたたみのテーブルがひとつ。ベッドの隙間に入れてあるんですだから広く見えるのかも」

「そうですか。お母さんにお伝えしておいたものは預かってきてますか?」

「はい」

「では、付いてきてください」

 狭い下宿だが一通り案内し、土間から自宅の入口までを通って来てもらう。

 囲炉裏の前でお茶を出して、一通りのルールを教え、用意していた日用品を渡す。

「トイレットペーパーとティッシュ。それと、スーパーの袋なんですが、このゴミ箱と一緒に使って下さい。毎週、月曜と木曜が燃えるゴミの日なので、さっき教えた場所に捨ててください。スーパーの袋も少ないので、見られたくないものは縛って捨ててもらっても構いませんけど、そうでなければなるべく使いまわしてくださいね。プラスチックゴミは火曜です。缶やペットボトルも捨てるゴミ箱があるのでそこにお願いします。」

「日用品置場から勝手に持っていってもいいんですか?トイレットペーパーとか……」

「ええ。定期的に配達に来てもらってますから。それと、具合の悪い時は早めに言ってくださいね」

 雪翔から渡された封筒の中を確認する。
 認印、保険証、委任状など。

「たしかに預かりました。今日から親御さんに変わって私が保護者代理ですので、何でも言ってください」

「はい、後これなんですけど」

 封筒を渡されて中をみると、お金が10万円入っている。

「これは?」

「大金だから預かってもらいなさいって。そこから必要なものを買うように言われました」

「分かりました。レシートと残金も預かっておきますね。所で、昨日のことですが……」

「秋彪さんはもう怪我の方はいいと。でも、狐ちゃん達がまだダメだと言ってて、伝言で一匹貸してくれと言われました」

「そうですか。お前達みんな出てきなさい」

 突然9匹が出てきて囲まれたので驚いたのだろうが怖がってはいない。

「雪翔は紫が好きなのかい?」

「え?あ、好きです。花とかも紫色の花とか好きですし」

「じゃぁ、紫狐にしようかねぇ」

紫狐 しこ?」

「うちの こは色違いの半纏を着ているだろう?色に合わせた名前をつけてるんだよ。私には着ていなくても見分けはつくけど、他の者からは分からないからねぇ」

「色ですか?ならこの狐は赤狐?」

「残念!朱狐 しゅこです。藍狐 らんこ橙狐 とうこって感じに名前が付いてます。そのうち覚えると思います。その紫狐は穏やかだけど、力もある狐だから守ってくれます。紫狐、雪翔のことは頼みますよ」

「はい。雪翔様、常に影からお守りいたしますので、御用の際はお呼びください」

 それだけ言って雪翔の影の中に消える。

「え?居なくなった?」

「居ますよ?名前を呼んでみてください」

「紫狐さん?」

 影から頭だけを出し、お呼びですか?とくつくつと笑う。

「これ、紫狐も遊ばないでちゃんとしなさい。お守りは持っているね?」

「あ、いつの間にかあったお守り……もしかして?」

「神社に来た時にこっそりとね。普段社で願いを聞いてはいますが、本当に聞くだけなんですよねぇ。でも雪翔の参拝が面白かったから少し力を貸しただけです。それに、それのお陰で悪いモノも余り憑いてはいないし」

「やっぱり体が重かったのって……」

「自覚はあったんですか?」

「婆ちゃんのお母さんがイタコって聞いたことがあって、僕が似てるって話を前に聞きました」

「うん、とても似てると思いますよ?お婆さんも心配していたけどちゃんと成仏しましたしねぇ。これからは毎日紫狐が守ってくれるから安心するといいです。雑用も任せていいですよ?」

「そんな事は出来ないです。は、話し相手になってくれたらいいかな……」

「好きに使うといい」そう言って葉狐を出し、秋彪のもとへと行かせる。

「追々色々なことを教えよう。今日はゆっくりしておいで。初めての日は疲れるからねぇ」

「はい。じゃぁ、これお借りします」

 新品のゴミ箱に日用品を詰めて両手で抱えて戻っていく。

 戸が閉まったのを確認し、白狐の琥珀と黒狐の漆を呼ぶ。

「久しぶりに出されたと思ったらなんだい?あの子で飛べるのかい?」と琥珀に言われ、「先がわからんではないか!後少しで千年祭ぞ!」と漆に叱られる。
 この社に来る前からの……まだ旅をしていた頃からの眷属だが、この千年近く小姑のように煩いのは変わらない。

「だから、紫狐をつけたんですよ?あれは気も利くし口煩くもないし頭もいい。全く、あなた方を調伏した時は苦労しましたけどねぇ、まさかこんなに口煩いとは思いませんでした」

「失礼だね!あんたの考えなんぞお見通しさね。社に行っていればいいんだろう?」

「然し、今は冬弥の言う通りだ。我ら二人離れても構わんのか?」

「ええ、他の子達もいますし、少しは信用してください」

 ならばと琥珀 こはく うるしが姿を消す。これで社は大丈夫だろう。
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