下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
15 / 73
居候

.

しおりを挟む
 予定よりも早くトラックが着き、荷物を降ろしていく。

絨毯の色はラベンダー。
どんな部屋になるのだろうと思いながら、お昼の支度に取り掛かる。

炊飯器に米を入れ、水の量は米の分量より少しだけ少なく合わせて入れコンソメと塩コショウを入れて味を見る。
少し濃いぐらいにして、バターを大さじ1ほど入れて混ぜてから、冷凍のミックスベジタブルと海老、マッシュルームを入れスイッチを押す。
炊飯器二つ分。
二升分を炊くので子供6人の胃袋の大きさに最初は驚かされたが、もうそれも慣れてしまった。

ミックスベジタブルはとうもろこしを買った時に、人参やサヤエンドウを剥いて茹でて冷凍しておくと使い勝手がいいが、今は安く買えるのでつい頼ってしまう万能なものだと思っている。

ご飯が炊けたら終わりだが、1人の時や残った時に冷凍しておいたものは、少し炒めた方が美味しい。
なのでエビピラフではあるが、炊飯器でするのでピラフと呼んでいいのか少し微妙だ。

「あ、堀内君。みんな呼んできてくれないかい?」

「良いですよ」

みんなが集まったところで、引越しの片付けをみんなに頼む。

「一人でもできるだろうけど、早く終わらせてあげた方がいいと思ってねぇ」

「俺手伝ってくるよ。この前片付けてもらったし」そう言うとみんなで行っても仕方ないからと、隆弘と海都の二人が手伝うことになり、今年卒業のこの引越しも近かったので他のものは、そちらのダンボール詰めを手伝ってもらうことにした。

引越しの時期が近付くと下宿屋も賑やかになる。

「さて、今のうちに買い物に行きましょうかねぇ」

こんなときに商店街が近いと助かると思い、陶器屋に行き、茶碗に汁椀、湯呑みに箸と選び、絨毯に合わせて薄い紫色に桜の絵が書いてあるセットを買うことにした。
取り皿だけは共有だが、入る子のイメージに合わせて毎回買いに来ている。

「新しい子かい?」と店主が話しかけてくる。

「ええ、高校一年生になる子です」

「前の子は何色だったかねぇ?」

「たまに高校生の海都がお使いにここまで来るんですが、その子のはお茶碗が大きいものを買いましたね。白のしっかりとした、薄茶で渦の書いてある……」

「あぁ、覚えてるよ。セットにはならなかったけど、同じ作品のを買ってもらって。みんな色が違ったよね?」

「私の趣味になるんですけどね。家族のように暮らしてますから自然と」

「これでいいのかい?」

「もうひとり増えるかもしれないのでその時はまた来ます」

お会計をし、雪翔が高校に受かるのは分かっていたので、魚屋によって鯛を中心にお刺身を明日届けてもらえるように頼み、ついでにと酒屋にも寄って定期的に買っているビールの追加と、日本酒にジュースを頼んで帰宅する。

「ただいま。みんなどうしたんだい?」

「お腹空いた……」

時間を見るとお昼は回っており、申し訳ないと炊飯器の中を確認する。

杓文字で混ぜ、お皿によそってみんなに取りに来てもらう。

その間に軽く茶碗などを洗って拭き、雪翔に渡す。

「今日からみんなが家族だから、困ったことがあればみんなに頼るといいよ」

「ありがとうございます」

「あ、俺の時地味だったのに!」

「海都は量だったでしょう?割れにくいものを選んだんですよ?」

「俺のも長く持ってるもんな」等と言いながらも食事を始める。

「もう片付けは終ったんですか?」

「俺、布団のシーツセットしただけ。毛布とか布団新品だったから、ベッドに置いただけだな……」

「俺も押し入れに突っ張り棒つけて、引越しの箱からそのまま服掛けただけかも」

「じゃあ、終わってないんじゃ……」

「それが終わったの。俺の時一日かかったのに」

「漫画が多かったですからねぇ。ほかの皆さんもパズルとか、模型とかたくさんで驚いたものです」

「それに荷物少ないんだよ。トラック来た時は多そうだったんだけど」

「あの、遅くなったんですけど、これ母から皆さんにと……」と菓子折を渡してくるが、人数が多いと聞いたからか、3箱大きな菓子折が出された。

「ありがとうございます。みなさん、ちゃんと分けてくださいね?」

賢司に隆弘、海都くらいしか食べないが、たまに和菓子だと堀内も飛びつく。

「あ、開けるのは食事が終わってからです」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

下宿屋 東風荘 5

浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆ 下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。 車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。 そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。 彼にも何かの能力が? そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__ 雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!? ☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆ イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜

天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。 行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。 けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。 そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。 氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。 「茶をお持ちいたしましょう」 それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。 冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。 遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。 そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、 梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。 香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。 濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...