下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
25 / 73
居候

.

しおりを挟む
もう一本つけようと酒の瓶を持つと、陰から羽織を引っ張られるので、土間の奥へと移動する。

「冬弥様、秋彪様がお出でです」

「社にかい?後で行くと伝えて来ておくれ」

そのまま違う酒を出して席に戻る。

「あの、お狐ちゃんが……」

「大丈夫だよ、伝言を頼んできたからねぇ。それより、ちゃんと食べたかい?昨日も見たと思うけど、凄いでしょう?夕餉の時間は全員そろうとあっという間になくなってしまうんですよねぇ」

「いつもは?」

「大学生の子達はバイトもしてるし、堀内くんは大学に残って働くんです。だからこの三人は居たり居なかったりです」

「僕も、このまま大学に行きたいんですけど、話では二年生から授業が難しくなると聞きました。就職と進学とコースが分かれるんだそうです」

「海都」

「なに?」

「海都は進学でしたっけ?」

「そうだよ!」

「雪翔もだそうですよ」

「お前頭良さそうだもんなぁ。俺堀内さんに教えて貰ってるんだけど、数学だけ駄目なんだよ」

「理数系に行くんですか?」

「俺、文系。でも期末の成績でバイトが出来るかどうかの瀬戸際なんだ」

「僕、ついていけるかなぁ?」

「大丈夫じゃないですか?もっと自信を持ってください。変なモノは紫狐が祓ってくれますから、後は雪翔次第ですよ」

「雪翔は休み中どうするんだ?」と賢司が言うが、「下宿屋の手伝いを……」と下を向いて話してしまう。

「おい、何か賢司がいじめてるみたいになってるじゃん」

「そ、そんなことは……」

「嘘だって!顔を上げて話さないと、声が前に行かないから聞こえにくくなるし、弱く見られるぞ?自信持てよ」とほろ酔い加減の隆弘が元気づけているが、あまり人と関わるのが好きではないのか返事だけして、みんなのやり取りを見ているだけだった。

22時にはいつもお開きとするため、酔っていないものに運んでもらい洗い物をする。

宴会の時は酔いつぶれたものは自分で洗えないので、つい手を貸してしまうが、その分草むしりなどを手伝ってもらっている。

「さて、手伝いはもういいですよ。皆さん暖かくして寝てくださいね?暖房もちゃんと切って寝ないとだめですよ?」

はーい!と返事だけ元気にしてみんなが戻るので、そのまま社に行き、秋彪と会う。

「怪我はもういいのですか?」

「遅かったからもらってるよ」とお神酒と揚げをつまみながらゴロンと横になっている。

懐から酒を出し、御猪口に注いで飲みながら、この後のことを話す。

「なぁ、雪翔だっけ?あいつ変わってるな」

「変わってるとは?」

「ここの狐が見えていても、他の狐には警戒するのが普通だろ?」

「普通そうですよねぇ」

「うちの狐が懐いちまったよ。雪のところに行かないのかうるさくてさ」

「もう寝てますよ?」

「雪翔で飛べるのか?」

「飛びます」

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは
キャラ文芸
※※※※※ 下宿屋を営み、趣味は料理と酒と言う変わり者の主。 毎日の夕餉を楽しみに下宿屋を営むも、千年祭の祭りで無事に鳥居を飛んだ冬弥。 そして雪翔を息子に迎えこれからの生活を夢見るも、天狐となった冬弥は修行でなかなか下宿に戻れず。 その間に息子の雪翔は高校生になりはしたが、離れていたために苦労している息子を助けることも出来ず、後悔ばかりしていたが、やっとの事で再会を果たし、新しく下宿屋を建て替えるが___ ※※※※※

処理中です...