ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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婚約

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ユラは心の中で高揚する感情を顔に出さないようにするのが精一杯だった。

この場には貴社達以外に、絢爛会のメンバーもいる。

ここで決着をつけ、自分がエルヴィスの伴侶となって地位も羨望も、ほしいもの全てを手に入れる。

「まあ、さすがに困りますよね?わたしが望むのは一つのみです。あなたがエルヴィスさんのそばから離れることです」

「は、は………?」

ユラはここでアロンにトドメを刺すつもりだった。

「正直言ってあなたはあの方の伴侶としてふさわしくありません。それはわたしだけが思うことではないんですよ?それに先ほどの記者会見でわたしはすでに名実ともにエルヴィスさんの婚約者となりました」

その言葉にアロンが目を見開き、言葉は理解できるのにその意味を理解できなかった。

「こ、婚約者……?」

「ええ、そうです。そして明日より共に住むことになります。婚約者の身としてあなたがエルヴィスさんにふさわしくないと思います」

ユラはやたらと婚約者という部分を強調した。

その情報にアロンは一瞬後ろによろめいた。

「アロン!!」

その時、カメラの音と人々のささやきをかき分けるようにエルヴィスの声が響いてきた。

「アロン!平気かい!?」

エルヴィスは走り寄り、アロンを守るように抱き寄せて人々の視線から隠した。

そしてユラを振り返り、どこか責めるような口調で言った。

「ユラさん、これはどういうことですか?アロンに危害を加えるなんて聞いていない」

「エルヴィスさん……わ、わたしはただあなたを思って行動しているんです!だって彼のせいであなたは迷惑しているでしょう?」

「アロンはわたしの伴侶だ。何をしても味方でいる。それに動画の内容は悪意のもとで編集されている。信憑性を確認もせずにこんなことをしてアロンを怖がらせるなんて、なぜこんなこんな酷いことをする!」

エルヴィスの到着にアロンがほんの安心感を取り戻した。しかしーー

「わたしはあなたの婚約者ですよ!?どうして彼ばかりかばうのですか!何よりあなたの立場を落とし、エ……エルドの存在まで、作らせるんだから……」

エルヴィスは目つきを鋭くし、厳しい声で言った。

「エルドのことはあまり表立って言いたくない。彼の存在はしっかりとした手続を踏んでいる。何一つ後ろめたいことはない。逆に今回のことで動画もエルドの存在も全て今の状況と逆になったらあなたはどうするつもりですか」

「それはもちろん謝ります」

ユラには確信があった。確かに動画は編集して出した。人気配信者を買収して宣伝し、自分が証言者役をこなしていた。

動画のことは嘘でもエルドが違法アンドロイドなのには確信がある。

もしエルドが違法でなければ自分の提案には乗らないはず。そして立場上アロンを手に入れられない。伴侶型アンドロイドでは支配階級の職務型アンドロイドには太刀打ちできない。

そう考えるとユラはまた自信を取り戻した。

そしてなるべく毅然とした態度で言う。

「エルヴィスさん、わたしだってあなたを愛しています。アロンさんよりもずっと。せめてわたしにはちゃんとした出自があります。貧困区出身のアロンさんとは違います」

貧困区と聞いて周りがよりいっそうと騒がしくなった。

実を言えばこの場にいる記者達は全員人間である。

アンドロイドが気になるのはアンドロイドによる関心や興味ではない。人間の関心や興味である。そのため、ニュースや娯楽ものの中心にいるのは基本人間である。

彼ら彼女らはエルヴィスの身分とその伴侶であるアロンに配慮して何も聞けずにいる。ここは取材場ではないし、支配階級のアンドロイドに不敬を働くと何かと罰が下される。

これが違法アンドロイドならともかく、エルヴィスには強気に出られない。動画やこの後作成するニュースや記事で書くことができても、支配階級のアンドロイドの眼前で無礼な真似を挑戦する人は誰もいない。

ゆえに聞きたいことを我慢するしかない。

そしてエルヴィスがアロンを助ける今の場面、人々は黙っていたことを幸いに思った。

「出身は関係ない。アロンは何があろうとも私の伴侶であり、妻だ。誰だろうと傷つけることは許さない」

ユラはぎゅっと唇を噛んだ。

エルヴィスがここまでかばうとは予想しなかった。本来利益優先の職務型アンドロイドであれば、この状況下で自分を選ぶはずだと考えていた。

しかしエルヴィスはそうしなかった。

ユラには理由がわからない。やはり周りが言うような伴侶型アンドロイド以外では愛を知らないというのは嘘なのだろうか?

そうとすればユラはどうしてもエルヴィスの愛を欲しいと思った。

心の中に沸いた激しい感情を深呼吸で押さえ込み、なんとか優しい笑顔を意識して笑った。

「うらやましいです。本当ならアロンさんがあなたから離れられるなら一番だと思っていましたが、そうでもなかったようです。勝手に記者達をここに呼んで来てしまって申し訳ありません。一緒に入ってこられるのを見たので、つい
……。それではお先に失礼します。明日の引越し手続は通常通りでお願いします」

ユラが記者達と共に退いていくと、待合室にはアロンとエルヴィスのみになった。

エルヴィスは抱きしめていたアロンを離し、逆にその手をつかんでその場でひざをついた。

「すまない、アロン!記者会見が終わったあと質疑応答をしていたんだ!ユラさんはお手洗いに行くと言って席を離れたまま戻ってこないから、おかしいと思って来てみれば、まさか他にも記者を呼んでいたとは思わなかったんだ!」

「お前弁明するところそこなのか?」

「あ……そうだね。ユラさんとの婚約は本当だよ」

「………なんで婚約したんだ?」

「それはまだ言えない」

アロンは唇を引き結んで視線をそらした。そして迷ってから聞きたいことを言った。

「その、俺はどうなるんだ……?明日ユラが引っ越してくるんだろ?」

「そうだけど、でもだからってアロンを追い出したり部屋を渡すようにとか絶対に言わない!今まで通り過ごしてくれたらいいよ!」

「本当か?」

「もちろん!」

「……わかった」

アロンがそう言うとエルヴィスの顔がパァと明るくなった。

「きみがもっと怒るのかと思っていた。よかった……本当によかった」

エルヴィスはアロンをふたたび抱きしめ、その頭をなでながら続けた。

「大丈夫。きみを傷つける人は誰1人許さない。いくら相手が人間だからといって見逃さない。アロン、愛しているよ」

「そ、そうか……」

追い出される心配はないようである。

しかしなんだか言葉に妙な不穏を漂わせていることが気になった。

そして明日引っ越してくるユラを思うと心配のほうが勝る。






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