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連絡
しおりを挟む部屋にフィンジャーは帰ってきたが、なぜかシラキは帰ってこなかった。そしてまたたく間に絢爛会のお誘いの日が来てしまった。
ずっと戻ってこないシラキもこの日の朝にはイアンとともに部屋に現れた。
アロンが視線を向けるとギョッと目を剥いた。
シラキがベストを着付けた正装スタイルでそこに立っていたからである。
「お前…どうした、その格好」
「無理やり服ひん剥かれてしまったんだよ」
「変な言い方をしないでもらえますか?」
イアンが目をすがめてシラキを見た。
「あなたみたいなチンピラのような人を人様にしてあげたのに、感謝しないんですか?」
「2週間近く拘束しといてよく言うぜ」
「アロンさんに迷惑をかけないためです」
「でも俺の所作は完璧だったろ?」
「完璧とは言いませんが、確かにチンピラにしてはよくできています。お茶会ではくれぐれもアロンさんに迷惑をかけず、しっかりと守ってくださいね」
「安心しろ。俺の得意分野だ」
イアンが思い切り信じていない目を向けた。
「自分で言いますか。自信過大な方ですね」
「お前はあのクラックと違って言葉遣いは丁寧だが、言葉に棘含まれすぎだ」
「私とクラックは別機体なのだから、違いがあるのは当たり前です」
「人間様みたいに違いを作っているのか?」
その言葉が発された瞬間イアンの目が鋭くなった。
「いいですか、この犬が。私達はお前と違って人間に危害を加えない。お前のような殺人犯には理解できないでしょうけど」
シラキはその視線を受けながらもヘラヘラした笑いをやめなかった。
「おー、怖い怖い。でも一つ訂正すると俺は犬じゃなくて狼だ。狼を飼い慣らすのは難しいぞ」
「私もそう思います。飼い慣らせないなら貴様を元の場所に戻すだけですからね」
シラキは軽く肩をすくめるとそれ以上何も言わなかった。
イアンは冷たい目をやめ、アロンのほうを向いた。
「お見苦しいところをお見せしてしまいすみません。もしよければこちらをどうぞ」
イアンが取り出したのは端末である。
「お茶会の時間になりましたらまたお迎えに上がります。それまでは少々お待ちください。こちらの端末は専用連絡機であり、データ入力された特定の人物の指紋でしか操作できません。アロンさんのデータは入力済みです。こちらの端末を通してある方からご連絡が入るかと思います。その際はご対応をお願いします」
「誰が連絡してくるんだ?」
「シラキを黙らせるお方です」
アロンが訝しげな目をシラキに向けた。しかしあちらはただ肩をすくめて頭を振るだけである。誰なのか知らないらしい。
なんでお前が知らないんだよ……。
アロンはとりあえず了承したことを言い、端末をベッドに置いた。
イアンがアロンの着替えを手伝い終わると出ていき、残されたアロンは用意されたお茶菓子に手をつけた。
「なあ、今のどが乾いたんだ。そのお茶飲まないならくれよ」
シラキが壁に寄りかかりながらお茶を指さした。
その近くの隅のスペースでフィンジャーが何やらぶつぶつとつぶやきながら壁に面して丸まっていた。
「なんでそんなに尊大なんだよ。好きに取れ。今部屋の中を自由に行動できるんだろ?というか、フィンジャーは何があったんだ?」
シラキはテーブルに置かれたお茶を取るとそのまま向いの椅子に我が物顔で座った。
「俺達が部屋から連れ出されてからあいつは一度エルヴィスに呼び出されている。そしたら帰ってきたあとにはもうああなっていた」
「お前も何が起きたのか知らないのか」
「まあ、アンドロイドは人間には危害加えないから体は大丈夫だろ。精神面は知らねぇけど」
「そーかよ……」
いったいエルヴィスに何をされたのかいまだに知らない。
シラキの話しにそえて言えば個別に呼び出されたのはフィンジャーのみらしい。いったいフィンジャーにだけ何をしていたのかすごく気になる。
その時である。
イアンに渡された端末が振動した。
アロンは、来たか、と端末を取って覚えた操作方法で通話ボタンを押した。
すると空中にパッと透明な蛍光青の画面が投げ出され、そこに誰かの姿が映し出される。しかしその人物はカメラに近づき過ぎてお腹しか見えていない。
『ああ、それでいいよ』
どこか意図して抑えられ気味の聞いたことある声にアロンが首を傾げた。
この声って……。
『囚人達にも通達するように……ん?しまった!もう通話状態か!』
その人物が数歩下がって椅子に座ると顔を見せた。
『やっほー!アロンさんお久しぶりだね!』
明るめの長い茶髪を後ろで束ねたネビュラがそこにいた。
その明るく跳ねた声に向かいでお茶を飲んでいたシラキが突然「ブウッ!!」と茶を吹き出した。
『おや?そこにいるのは………ハッ!?僕の婚約者ではないか!!』
「こ、婚約者?」
『そう!婚約者!婚活の最終プログラムで心に決めようとした囚人をその場で半殺しにして僕に熱烈な愛を伝えた僕の可愛い婚約者じゃないですか!アロンさん!もっとカメラを寄せて!シラキ!僕はここだよ!見える!?』
アロンは言われた通りに端末の画面を向けた。カメラが端末のどこにあるのか知らないので、自分から見て通話できている正面の画面を向けた。
するとシラキは見せたことのない表情で顔を引きつらせた。
『シラキ!可愛いね!久しぶりだね!そっちではよく過ごせているかい!?恋しくなったらいつでも帰っておいで!きみはもとから舌がないから体の部位や機能が一つなくなることに対して普通の囚人と比べて……と、ライネスとの約束でこれはアロンさんの前で言っちゃいけないのだった……。とにかく、僕はきみがすごく恋しいよ!シラキ!きみがいなくなってからすごく退屈なんだ!さっきは部下と仕事のやり取りで厳しく装っているけど、本当はもっと今の状態で話したいんだ!だから怖がらないでね!きみと語り合いたいこともたくさんある!いつ帰ってこれるんだい?僕はきみのためならいつでも時間を………』
言えば言うほどどんどん白熱してネビュラのひとり語りになった。
シラキは苦虫を噛み潰した表情で通話ボタンの終了を押そうとしたが、データ入力されていないために自分の指では押せない。
『ああ!本当に可愛いなシラキは!その表情も素敵だよ!ねぇ!帰っておいでよ!きみ好みのお部屋も準備するし、退屈しないように欲しいもの全部準備するし、僕も時間があればすぐに会いに行く!だから……』
「アロン!閉じろ!早く!」
シラキに急かされてアロンは慌てて終了ボタンを押した。
興奮したネビュラの声が瞬時になくなり、部屋の中にはフィンジャーのぶつぶつ声しか聞こえなくなってきた。
「なんの用事で連絡してきたのか聞いてなかったな……」
「いや、聞かなくていい。……俺への警告だ」
「は?」
「さっきイアンが言ったろ?俺が言うことを聞かないと監獄に送り返すっていう警告だ。ネビュラの野郎に関してはたぶん俺に会うのが目的だ」
シラキは煩わしそうに髪をかき上げた。
「お前ってネビュラの婚約者の身分なんだな。てっきり結婚そのものがなくなったのかと思っていた」
「はっ、俺もそう願いたいけどな。お前の優しい優しい旦那様達が脅し材料として俺にはネビュラの婚約者の身分でいさせ、何か変な行動をすれば送り返すってさ」
シラキは疲れたようにため息を吐き出した。
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