ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

文字の大きさ
128 / 163

エラー

しおりを挟む
突然鳴り響いた高い音にアロンがパッと手を離して周りを見回した。

「な、なんだ今の音……」

アロンは視線をエルヴィスに向けた。

視線を向けられた当の本人は目を見開いたまま固まっている。

「今の音、お前から出てなかったか?」

「え……?ああ……そうだね。エラーが出てしまったみたい」

「エラー?」

「処理しきれないことやデータ容量を超えると起こるんだけど、ウイルス感染しても起こるんだ。今のはたぶんウイルス感染ではない」

エルヴィスはいつも通りに話しているが、その顔はどこか上の空である。

「お前本当に大丈夫か?」

エルヴィスはじっとアロンを見つめたまま答えなかった。

そして何を思ったのか、突然自分の顔を覆った。

「エルヴィス?」

「な、なんでもない………今日は不安にさせてごめんね。ゆっくり休んで」

そう言って立ち上がると振り返りもせずに部屋を出て行ってしまった。

いつもは追い出さない限り出ようとしないのに今日はやけにすんなりである。

「なんなんだあいつ……」
















——————————————————
———————————————




ピィーーーーーーッ……

ピィーーーーーーッ…………

………………………………………………………

ピィーーーーーーーーッ………





鳴り止まないエラー音にエルヴィスは部屋の中央でうずくまっていた。

定期メンテナンスは受け続けている。最新機種の体ではないものの、アップデートを怠ったこともない。

なのにこのエラーと今頭の中に起こっているにこんがらがりそうだった。

なぜかアロンを思い出すたびにエラー音が鳴り響く。



アロンの視線

ピィーーーーーーッ



アロンの声

ピィーーーーーーッ



アロンの体温

ピィーーーーーーッ



「お前達のこと…………あい……愛したい」

「お前達とこれから一緒に生活して、楽しいことも悲しかったことも共有していきたい……」

「俺は何もないけど……でも、愛していると言ってくれるお前達と本気で家族になりたい」



アロンの言葉

ピィーーーーーーッ




「家族に……なりたい」

ピィーーーーーーッ


「私達を愛したい……」

ピィーーーーーーッ




アロン……

ピィーーーーーーッ


アロン………

ピィーーーーーーッ



人間を本気で理解できないと言われ続けてきた。

だがデータを集め、行動と心理を分析すれば伴侶型以外のアンドロイドにも人間と愛し合うことは可能だと信じてきた。

その行動の理由をわかれば状況に応じた言動を取れば人間によろこばれる。

実際伴侶型や補助型はそのように人間のそばに立っている。

人間は自分を裏切らない存在を探そうする。

人間は自分の味方でいてくれる存在に依存する。

人間は自分を守る存在に甘え、本質をさらけ出す。

だから人間に味方だと言い続け、愛していると言い続け、裏切らないと言い続け、守ると言い続けている。

エルヴィスは思わず笑った口もとを手で覆い隠した。

「やはり……間違いじゃなかった!」

最初はあんなに警戒して心を開かなかったアロンが今じゃ自分達を愛したいと言っている。

「アロンが……」

ピィーーーーーーッ

「私達を愛し、家族になろうとしている」

ピィーーーーーーッ


エルヴィスですら今自分の心境をうまく言葉にできなかった。

高揚感に似た何かが全ての思考回路を支配し、アロンに関するいろんな思い出が横切っていく。

「ああ……アロン……」

エルヴィスは立ち上がり窓辺に歩き寄った。

「アロン……」

ダンーーと手が窓ガラスに叩きつけられた。

窓には手の向こうに隠れたエルヴィスの表情がある。

愉快げに歪められた目だけが夜の街の上に映し出されていた。

「足りない……まだ足りない」














翌日の朝、なぜかエルヴィスが朝食の席にいた。

アロンは口の中で咀嚼そしゃくしていたものを飲み込んだ。そして視線をチラチラと向いに投げかける。

「お前………その、なんでいるんだよ」

昨晩からフィンジャーとシラキはまだ帰ってきていない。

「きみの顔が見たいんだ」

エルヴィスがニコニコとした笑顔でそう言う。しかしアロンにはさっきから無視できないことがある。

「あのさ、鳴っているんだけど……」

「うん、みたいだね」

ピィーーーーーーッという音がさっきからずっと鳴っている。

「そのエラーだっけ、直ってないのか?」

「今日一度検査に行くつもりだよ」

「ここにいないで早くいけよ」

「もう少しだけ。もう少しだけきみを見ていたい」

ピィーーーーーーッ

「そうかよ」

ピィーーーーーーッ

気になりすぎて食事があまり進まない。

しかし顔を上げればエルヴィスの顔がある。少しでも食べなくなるとすぐに心配されるため、少量だとしても食べ進めなければいけない。

「あんまり見てくるなよ……食べずらいだろ」

「ごめんね。でもきみがあまりにも可愛いから。おいしいかい?」

「ああ……」

いつもと変わらないのになんだかエルヴィスが以前と少し違って見える。

もしかしたらそのエラーのせいかもしれない。

「そういえば絢爛会からお誘いがきているんだよね」

「きていた。それがどうかしたのか?」

「その日はシラキを連れていくといい」

「シラキ?」

意外な名前が出てきたことでアロンが眉をひそめた。

「なんでだ」

「話によると彼はああいった交流の場に慣れているらしい。助けになると思うんだ」

「シラキが?」

にわかに信じがたい。だが自分一人でユラの前に立つのも不安である。

「まあ、誰かにいてほしいな。シラキでもいいか」

「………」

「どうした?」

エルヴィスが急にその場で固まった。

そして胸を押さえてエラー音とともにどこか不思議そうな顔をする。

「いや、なんでもない。ただ、きみがシラキを選んだことになんだか不愉快なものを感じた」

「はあ?シラキを連れていけと言ったのはお前だろ」

「それもそうだね!」

「なんなんだ……体の調子が悪いなら早く直してこい」

「うん。そうする。アロン、愛しているよ」

突然の愛しているに今度はアロンが固まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。

志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。 美形×平凡。 乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。 崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。 転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。 そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。 え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。

処理中です...