ゴミ拾いで3体の夫ができた人間

那原涼

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アロンの気持ち

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アロンがベッドの上で目線を泳がせていると、目の前でパチンと指を鳴らされた。

「っ!なんだよ。驚かせやがって」

「そんなに難しく考えるな。ずるずると関係を続けているのは……単純に忙しくてやる暇がなかったんだ」

思い返せばライネスは確かに忙しいひとだった。基本帰ってきても気がつけば軍部に戻ってそのまま長い期間空けることが多い。その職業を思えば当たり前かも知れないが。

「あんたと母さんの関係はどうなんだ?仲はいいのか?」

「そうだな……お前の母親のおかげで関係は悪くなかったはずだ。俺がやらかしたことを除けばな」

「お前何をやらかしたんだ?」

「お前の母親を殺そうとした」

アロンが思わず目を見開いた。

今なんだって?母さんを殺そうとした?

「お前の母親は……アレアは俺を試そうと、グレイシーの誘いに乗ったんだ」

「母さんとグレイシー……やっぱり繋がりがあったのか。だから母さんのこと知っている口ぶりをするのかアイツ。でもなんでお前を試そうとしたんだ?」

アロンにとってライネスが母さんを殺そうとしたことがにわかに信じがたいことだった。が、自分を窓から落とそうとしたことがあるせいか、自分で自分の考えに疑問を持ち始めた。

「……グレイシーに、俺はアレアとメモリーカードのあいだでメモリーカードを選ぶと言われたらしい」

「………どっちを選んだんだ?」

「メモリーカード。……職業上メモリーカードは絶対にテロ集団の手の中に渡ってはいけないものだから守らなければいけなかった。アレアのことは記憶をデータ化していい体をみつくろうつもりだった。ただ、最後はグレイシーに逃げられ、アレアの首につけられた首輪が装着された病原体を打ち込んでいた。本来なら病院に連れて行きたかったが、アレアは接触を拒んできた。雨の中で離れていく姿が今も記憶データとして残している。あの時は今の医療技術で問題ないと思っていた。てっきり実家に帰ってあの兄に頼ると思っていた。だからあのまま離れさせた。心配だからあの兄にも連絡を入れた……だけど……」

その判断がずっと後悔するものになった。

「おそらくアレアは兄のもとから逃げ出したんだ。その後にグレイシーに一度捕まっている。しかし貧困区に逃げてからの消息が一切不明となった。エルヴィスとエルドの権限はこの市でしか使えない。貧困区は俺の管轄外だ。調べる手立ては何もなくなった」

ライネスは心臓の位置に手を置いた。そこに心臓という臓器などないが、アレアの心臓の鼓動と繋げたインプラントを埋め込んだ場所である。

あの華々しい心臓の音がだんだんと弱まり、そして消えた時、ライネスはしばらく我に返れなかった。

「お前の母親は病で死んだと言ったな。あの時グレイシーに打ち込まれた病原体のせいだろうな。貧困区でまともな治療ができるとは思えない」

アロンはうつむいたまま難しい顔で黙った。そして戸惑うように小さい声で言った。

「俺の父親が誰か、わかるか?」

「ああ」

「もしかしてなんだけど、あのクロードという男か?」

緊張した面持ちで答えを待っていると、

「その通りだ」

雷に打たれたかのようにアロンは固まった。

「クロードとアレアは兄妹で間違いない。お前達はきょうだいでの結びつきを避けるべきなのに、あの男は……あの家の者はどこか理に反することばかりをしでかす」

「………母さんがクロードという名前を怖がる意味がわかった……。なんでお前達やグレイシーが母さんのことを知っているのか、なんで母さんは頼れる場所があるのに帰らないのか、なんであんな……死に方をしなければいけなかったのか……っ、全部、わかった……!」

アロンの声が震え、涙がポロポロとあふれてきた。

ライネスはこの光景を前に依然として何をすればいいのかわからない。

涙をぬぐえばいいのだろうが、今の自分はそういった行為をしないほうがいい気がした。

ただ視線を伏せてそのすすり泣きを聞いていたが、ふいに視界の端でアロンが動いたのを察した。

こちらに近づいてくるのを感じ取りながらライネスが待っていると、脚に登ってきて頭がぐいっと包まれた。

訳がわからずに眉をしかめるとアロンの泣き混じりな声が聞こえてきた。

「あんたも、つらかっただろ……?」

その言葉にライネスは思わず目を見開いた。

この話をしていろんな想像はした。アロンが怒りをぶつける場面、泣きながら恨み言を言う場面。いろんなパターンを想像したが、今の反応は予想外だった。

「前にもらったあのアルバム、声がなかっただろ?」

アロンはライネスの頭を抱きしめながら思い出すように続けた。

「あのアルバムに映っている母さん、いつも幸せそうだった。カメラに向かって笑う姿が本当に、俺といた時とまったく同じなんだ。たぶん本気で幸せだと感じているはずだ。あの映像と写真たちを撮ったのはあんただろ?」

「………」

「母さんはあんたのことが好きだから、愛しているからあんな顔をしているんだ。きっとあっちも愛されていると感じているから、どんな写真や映像でも笑っている。だから、母さんがそんなことになって、本当はつらかったんだろ?」

ライネスの目が動揺に揺れた。

アレアに関する記憶を9割も抜き出した時のことを思い出した。

確かいつまでもアレアのことが頭から離れず、あの騒々しくも華やかな心臓音がなくなった時、ライネスはとてつもない喪失感に襲われた。

慣れない感覚に何をするべきなのか瞬時にわかった。

アレアに関することを忘れなければいけない。だがいざアレアに関することを抜き出そうとした時、何を思ったのか部分的な記憶を残した。

ライネスでもそうした意味がわからない。単純に考えて効率が良くない。忘れるなら何もかも忘れたほうがいい。

だができなかった。

ライネスは頭をなでていく手を感じた。

「あんたはアンドロイドだから、人間の考えや行動はわからないところがあると思う。だけど、母さんのことを本気で大事にしていることは、見ていないけどわかる。あの映像や写真たちからよくわかる」

頭のなかで残っているわずかなアレアに関する記憶が横切っていく。最後に現れたのは最初に見たーー

「………アロン」

ライネスは初めて自分の声が震えた気がした。




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