転生と未来の悪役

那原涼

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第一章

猫?

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カナトーー
中高ともに反抗期が終わらず、大学中退するとタクシードライバーを目指して勉強に励み、見事受かった。だが、初仕事とという時に飲酒運転に車ごと橋から川に突き落とされた。享年23であった。









——————————————————

使用人の朝は早い。慌ただしく動く人々に混じって1人だけ、やけに緩慢かんまんな少年がいた。

あくびをしてから手に持った雑巾を動かす。だが床を拭くその雑巾はさっきから同じ場所を行き来しているだけであった。

少年の名前はカナト。ついひと月前に来たばかりである。この屋敷にはもちろん、この世界に来たのもひと月前である。

ここはカナトが生前に読んでいたWEB連載のネット小説であり、BLをテーマにした18禁内容である。本作の実に約半分がセッセしていた。

「くそっ、なんで俺がこんなことを」

ぼやきながら真面目に同じ場所しかふかない。

カナトはこちらの世界で目覚めたのは川の中だった。たまたま近くを通りかかった闇堕ち前の悪役が拾い上げて屋敷へ連れ帰った。しかし、カナトの悪態に手を余した教育係りは悪役に相談し、その罰としてメイド服を着せられた。

今もメイド服のまま地べたであぐらをかき、不満げに掃除をしている。

カナトはこの悪役の罰に対して闇落ち後のクズっぷりの片鱗がうかがえた気がした。

周りの使用人にあきられながら不真面目なそうじを終わらせ、カナトはバケツの水を捨てにいった。その帰り、ふと水汲み場の近くで猫の鳴き声を聞いた。

ピンっと背筋を伸ばして耳を澄ませる。

ふたたび猫の鳴き声が聞こえて、おお!と心の中で興奮する。

この世界に来てから心癒すものがなかったため、猫という共通の生き物に心を躍らせた。

月の下、バケツを置いて忍足で猫の姿を探していると、猫の声とは別に「はは!」という楽しげな笑い声が聞こえた。

ピタッと足が止まる。

カナトが固まっていると、あちらの方からカナトの存在に気づいた。

「誰かそこにいるのか?」

「い、いねぇよ」

焦ってとっさに出た言葉である。

言ってから後悔し、恥ずかしさに顔を覆う。

「あれ?屋敷のメイド?」

カナトは自分が着ているのがメイド服だと思い出してますます気まずくなる。顔を見られないよう、手のひらで隠しながら言った。

「そ、そうだ、です」

「緊張しているのか?驚かせる気はなかったんだ。ただ飼っているオウムがここに来てしまって」

そう言って指に乗せたオウムを掲げて見せた。

オウム?

カナトは手の隙間からちらっとのぞくと、背の高い男らしき人が指に乗せたオウムを少し掲げるように持ち上げていた。

本当にオウムだった。そのオウムが、にゃん、と鳴いた。

……………ちくしょう。

「もしかして、猫だと思った?」

「べ、別に?」

「猫が好きなのか?」

「別に……」

「おわびに次会う時は猫を連れて来ようか?猫も飼っているんだ」

「……本当か?」

「もちろん。代わりに、顔を見せてくれないか?」

「顔!?」

カナトが焦った。男がメイド服着るなど変に思われないか冷や冷やとしている。

しかし、相手はさらに追い討ちをかける。

「見せてくれるなら生まれたばかりの子猫も見せれるよ」

「こね………だ、ダメだ!」

危うく子猫の誘惑に負けそうなところでカナトが我に返る。

「そっか、残念だな。でもこの楽しみは誰かと共有したいから、次もここで会わないか?生まれたばかりの子猫はふわふわですごくかわいいんだ。誰かに見せたくてしょうがない」

「………いいのか?」

「もちろん。別の条件として、少しだけ話に付き合ってほしい。ほんの少しだけでいい」

考えてからカナトはふわふわの子猫を想像して、わかった、と了承した。近くに来て欲しいというお願いを聞き入れて、顔をさえぎりながら男の隣に座る。

「僕はアレン、きみは?」

「か、カナ?」

「カナか。いい名前だね」

「………おう」

カナトはぎこちなくしてキョロキョロと視線をさまよわせた。

「それで、どんな話したいんだよ」

「そうだなぁ、愚痴?」

「いいぞ。言えよ、聞いてやるから」

アレンはその言葉にほんの身を固くした。どこか迷うような空白を開けてから、

「僕は……」

だが待てと続きの言葉が出て来ず、カナトが不思議そうに手の隙間からのぞいた。

隣に座っているせいでうつむいたその横顔が見える。暗いが、暗さに慣れて来た目がしっかりと相手の横顔を捉えた。

金髪と思われる髪を短く切り整え、どこか人に涼やかな印象を与える目をしていた。まだ少しだけ幼さのある顔立ちだが、その顔つきは十分この世界の成人年齢に達しているように見える。いや、そうでもないかもしれない。背が高いだけという可能性もある。

衣服は簡素で、胸元が編み上げのシャツと細身のズボンのみを着ている。なんとなく、役職だけで言えば自分より高いだろうとカナトは思った。

仲良くなって今後何かやらかした際に助けてもらえるかもしれないという下心で、カナトは我慢強く言葉の続きを待った。

しかし、アレンは「あはは!」と笑って頭をかいた。

「なんだが一瞬だけ変な空気になったな!申し訳ない。今まで誰かにそう言ってもらったことなかったから、つい他のことを考えてしまった」

「……愚痴より悩みがあるんじゃないか?」

「…っ!」

アレンはどこかハッとしたような表情で固まった。

「俺、お前のこと知らないし、顔もどうせ覚えられないから打ち明けてみろよ。楽になるかも知れないだろ?」

「いいの、か?」

「約束通りお前の飼い猫と子猫を見せてくれるならな」

「は……ふふ、そうだな。子猫は4匹もいる。全部見せるよ」

アレンはそう言うと深呼吸して、心に溜めていたことを吐き出した。

「最近、とう……じゃなくて、父親が変なんだ」

「父親?」

「ああ。何かをしているとわかっているが、いても何も言ってくれない。こんなことは初めてだ」

アレンが両手を握りしめた。

「ずっと後継者として育てられて来たから、何事も僕の意見を優先的に聞いてくれる。けど、最近はなぜか僕の意見を聞かなくなった。何を言っても否定されて、まるで最初の頃に戻ったようだ」

最初の頃とはいつを指しているのかカナトにはわからないが、後継者と出ている時点で相手の身分はただ者じゃないとわかった。

気に入られている御者ぎょしゃの息子や執事とかの息子かもしれない。その息子が将来ここで働かせてもらえるよう約束することはあると他の使用人から聞かされたことがある。

相手もそうなのだと思い、カナトは安心させるように言葉をかけた。

「安心しろ。お前やお前の親が何かやらかさないなら飯は食っていける!」

「……ふっ、あはは!そうだな!食べていけるなら心配はないか!」

「その通りだ!それに、俺もお前側の味方だ!」

「どうして僕の味方をしてくれるんだ?今日初めて会ったのに」

完全に後ろ盾にするつもりで言った言葉のせいで、聞き返されるとまんまとその通りに答えるわけにはいかない。

カナトは、ええと、と言葉につまり、なんとかそれらしい言葉をひねり出そうとする。

「猫友達だから?」

「猫友達……」とアレンはその言葉を繰り返して吟味するように唇を動かした。そして明るく笑う。

「いい言葉だね。友達ならいるけど、猫友達は初めてだな。これからよろしく」

手を差し出されたので、カナトも反射的に顔を隠していた手を離した。思い出して慌てて手を戻すが、アレンはどこか驚いたように目を見開いていた。

「きみは……」

「帰る!」

そう言ってカナトは脱兎のごとくその場を走り去ってしまった。
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