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第一章
狩猟場
しおりを挟むアレストはカナトを連れて屋敷を出ていた。
カナトは中西ヨーロッパのような街並みに目を輝かせている。
「すげぇ、RPGみたい」
「ある、ぴーじぃ?」
馬車で向かいに座っているアレストが不思議そうに首を傾げた。
「あ、いや。なんでもない。それより、これって今どこに向かっているんだ?」
カナトはメイド服から男装に着替えているため、気にせず足をひざに乗せた。
「今は狩猟場に向かっているよ。秋には収穫祭も行われるところで、広さも充分だから思い切り遊べる」
「狩りでもするつもりか?」
「それもいいけど、おもに弓矢を打ちたくて。ストレス発散だ。付き合ってほしいな!」
「ほいしな、じゃねぇよ。どのみち連れて来ただろ」
「今のカナは男装だし、もうメイドと噂は立てられないはずだ」
「男装じゃなくて正装だ!本来俺はこれを着るべきなんだよ!」
「ごめん、ごめん!あまりにも似合っていたからそのままメイド服にしていた」
「似合ってたまるか!」
カナトはぷいっと顔をそらし、ふーっふーっと肩で息をした。
メイドじゃなくても一介の使用人と遊びに行くのはどうかと思うけどな。
まあ、さすがにアグラウのジジィもそこまで厳しくないだろ。そう考えてカナトは狩猟場がどんなところなのか楽しみになってきた。
そして到着後、使用人から渡された弓矢の弦を確かめ、満足したアレストは2つのうち片方をカナトに渡した。
「ほら、カナ。これ使ってくれ」
「意外と重いな」
「大丈夫、すぐに慣れる。あそこに的があるだろ?中心に近ければ近い人ほどが勝つんだ」
「それくらい知ってるし」
動物を狩るんじゃないのか。てっきりそっちだと思っていた。
カナトはパンと弦を弾いて感触を確かめた。妙に湧いた自信でいけそうだな、と感じた。
しかし、いざ本番となった時、3本打ったうち一本が的をかすめた以外、全部手前で落ちていた。
「難しすぎるだろ!」
「ははは!」
アレストがお腹を抱えて笑った。
「笑うな!」
「ごめん。教えるよ」
アレストはカナトの背後に回り、ぴとっと背中をくっつかせた。両手はそれぞれカナトの手を覆い、指先の握りかたひとつまで丁寧に教える。
「どう?いけそう?」
「わ、わからない」
「じゃあ、離してみようか」
カナトはこくりとうなずいて、息を止めて弦を離す。すると、パシッと矢が的の下方向に刺さった。中心から離れているが、初めて刺さったことで歓喜の声を上げた。
「おい、見たか!刺さったぞ!!」
本気でうれしそうな顔を見て、アレストは思わず笑った。
「見た見た!すごいな!」
「そうだろ!」
が、アレストが3本矢を打ち終えた時、その歓喜はすっかり萎えた。
思ったような歓声がなく、不思議に思って振り返るとカナトがブスッとした表情で腕を組んでいた。
「ど、どうしたんだ?」
カナトはちらっと3本とも的の中心近くを射た矢を見た。そして自分の的を見る。
「別に俺のあれはすごくねぇな。むしろお前に教えてもらって刺さったわけだし」
しまった、と気づいた時は遅く、アレストは「はは……」と気まずげに笑った。
「弓矢は初めてだろ?だったらちゃんと刺さったことはすごいよ」
「自力じゃねぇけどな」
「でも僕はすごく才能感じたよ。体の中心はぶれないし、初めてやるにしては怖がらないところは素直にすごいと思う」
「……本当か?」
「もちろん!」
カナトはどこか恥ずかしそうに鼻の下を指でこすった。
「だよな!俺も自分に才能を感じた」
「うん、才能あるよ」
「よし!じゃあもっと打つか!」
「うん!やろう!」
が、結果は惨敗だった。
それでもわりと満足し、カナトは帰りの馬車ではしゃいでいた。
「見たか!自分でも2本刺さったぞ!」
「見たよ。すごかった!」
「だろ?……その、次?次誘う時は別に待ち伏せとか罠とか仕掛けなくていいぞ。誘ってくれたら行くからさ」
ごにょごにょとそっぽを向いて言う。相手からの返事がなく、不思議に思ったカナトは心配げな視線を向けた。
夕方の光が差し込んで、アレストの金髪にいっそうと輝きのベールを被せた。
端正な顔立ちと見る者に元気な印象を与える目もとや眉は今ばかりどこか憂いをあびる。
「ど、うしたんだよ」
「僕たちは友達で間違いないんだな?」
「そうだけど。それがどうした?」
「もし、僕が家を継げなくなったら、またこんなふうに遊んでくれるのか?」
カナトは目を見開いた。
まるで何か知ったような口ぶりになぜか心騒ぎがしたのだ。
偶然だよな?
「何言ってんだよ。当たり前だろ!猫友達だからな!」
「本当かい?」
「本当だ!」
「証拠は?」
「は?」
「ずっと友達でいてくれる証拠は?」
口もとのみの笑顔に心騒ぎがさらに大きくなる。まるで闇堕ちしたあとのアレストに似た雰囲気だった。
カナトはごくりとのどを鳴らしてゆっくりと口を覆った。目をそらして、
「その、実はなんだけど。カナって名前、実名じゃないんだ。本名はカナト。言っておくけどお前も偽名使ったからな!」
アレストは少し驚いたように目を見開き、そして笑った。
「あはは!やっぱり偽名だったか。そんな気がしてた」
「知ってたのか?いや、そもそもお前が調べようとすればすぐに出てくるか」
「そんな気がしてただけで、本名は調べてないよ。メイドと密会の噂がある状況で調べようとすれば必ず足がつく。秘密裏になんて無理だ。あの屋敷に完全に僕に味方してくれる人はいない。使用人に給料を支払っているのも僕じゃないし」
でも、と言ってアレストはひざに頬杖をし、前のめりな姿勢でカナトの顔をのぞき込んだ。目を細めて、
「お前は僕が助けた」
その一瞬、カナトはまるで蛇ににらまれたような気がした。知らずと頬に冷や汗が流れる。
「川に倒れているところを発見したのは僕だ。抱き上げたのも僕だ」
この時、カナトは生まれて初めて蛇ににらまれたカエルの気分を味わった。
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