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第一章
アレストの嫉妬
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どちらも大丈夫なのを確認すると、4人は火を囲んだ。
アレストとイグナスも服を着た。
さすがにずっと半裸だと見ているほうが寒い。だが、双方の上着はまだ遭難者である2人の肩にかけられている。
「これ、いつ戻れるんだ?」
「今は吹雪がまた吹き始めたからな。もう少し待ってから目的地の小屋に行ってみよう。もしかしたらみんなそこにいるし、運が悪ければもうちょっと進まなければいけない」
「マジか……」
「大丈夫だ」
アレストはポンとカナトの頭に手を置いた。
「何があっても守る」
「あ、ありがと?」
カナトはかけられた上着をかき寄せて赤くなった顔を隠した。
くそぉ。ちょっとときめいただろ。
一番不安な時に抱きしめられたのがアレストだったため、カナトは少し相手を意識し始めた。
「ねぇ、カナト」
ユシルが何かを差し出しながら近づいた。手に持っているのは手袋だった。
「これ、カナトのだよね?つけてくれたの、本当にありがとう。誰もいない状況で私のことも考えてくれるなんて本当に優しいんだね。あと、迷惑もかけて本当にごめんなさい。イグナスも兄さんも、ごめんなさい」
「お前が悪いわけじゃない」
イグナスはそう言って考える素振りをした。
「義弟の話によると、忠告聞かずにチャラチャラと装飾品をつけたやつがいたらしいな。そいつが倒れたのが原因だ」
「イグナスもよくここだってわかったね」
「ああ、お前がいる場所ならどこでもわかる」
ここでなぜ攻めがピンポイントで居場所がわかるのか聞いてはならない。なぜなら、ヒロインポジションが課題に面した時、颯爽と助けに来るのが主人公ポジションである。
太古より変わらぬストーリー構成と言ってもいい。
だが、気になったのはそこではない。
おとうと?とカナトは目をぱちくりさせる。イグナスに兄弟などいたか?
ユシルとしゃべっていたイグナスはそれに、とアレストを見る。
「大事な使用人が見つかってよかったな」
「ええ。辺境伯のおかげです」
アレストは笑顔だが、心の内は笑ってない。
おとうと、弟…………義弟!?ユシルはイグナスの恋人でアレストの弟だ。そしてイグナスより年下である。ならばこの“おとうと”はアレスト以外にいないはずだ。
だが2人のあいだにそんな兄弟仲みたいな和気藹々とした雰囲気はない。
カナトは2人を見比べて思わず首を縮こめた。
ボス級の2人がお世辞を言う場面はあまりいいものじゃないな。威圧感ダダもれだ。
唯一何も感じないらしいユシルはいつも通りだった。イグナスの隣でちょこんと収まって、火に手をかざして気持ちよさそうに目を細めている。
「かわいいな……」
誰にも聞かすつもりもなく小さくつぶやかれた言葉は、しかし、アレストだけ耳敏く拾い上げた。
青い瞳がスッとカナトを見る。
目線はずっとユシルから外してない。ふと脳裏に2人が手を握っていた場面が横切る。それに続いて凍死しかけそうになるなか、守るようにユシルを抱きしめるカナトの姿である。
アレストは思わず親指でさすっと心臓あたりをかすめた。
……少し、イライラするな。
結局雪は夜まで止むことはなかった。
カップルの2人は当たり前のように寄せ合って寝ている。なんならこっちから見えないようにイグナスがガードマンをしていた。
クソッ、天使の寝顔が見えねぇ!攻めの寝顔も見たい!めちゃくちゃ見たい!
カナトの視線が依然として2人から外れないのを見て、アレストはすとんと当たり前の顔で視線をさえぎる位置で横になる。
「おやすみ、カナト」
「え?あ、おやすみ」
アレストの顔以外何も見えなくなった。
カナトはしばらく目を閉じていたが、やはり寝れず、目を開けてじぃとアレストの寝顔を見る。
何度も抱きしめられた場面がリピート再生のように浮かんでくる。
イグナスならともかく、なんでお前までピンポイントでどこにいるのかわかるんだよ。
指を伸ばしてツンとその鼻先に触れた。すると、パッと青い瞳が暗い中で開けられる。
ぱちっと炎が弾けるような音を聞いた気がした。
カナトは叫び出しそうな声を慌てて飲み込んだ。口を押さえてバクバク鳴る心臓を全身で感じ取る。
ホラー映画のくだりだろ今の!!
「寝れないのか?」
寝れないところか、今のでわずかな眠気が全部吹き飛んだ。
「お前こそ……寝てねぇのかよ……」
「寝れなくてな。さっき、なんだかきみの昔を思い出したんだ」
「俺の昔?」
「ああ。井戸の近くで話を聞いてくれた日のことだ」
「んな昔よく覚えているな」
「……相手がきみだからだ」
「………」
「初めて心のうちを話した相手がきみだった。猫友達と言ってくれたのもきみだ。味方だと、何度も言ってくれたのがきみだ。きみしかいなかった」
アレストが、きみしかいなかったと言った時、カナトはわずかな切なさを感じた。
小説だと最後は誰にも味方されずに死んでいってしまう。
あの雇われた暗殺者ですらアレストのそばから離れてユシル側についてしまう。
暗殺者だけに関して言えば、別にアレストのことが嫌いだとか、恨みがあるからではない。むしろ幼い頃助けてくれた相手としてずっと恩返ししたいと思っていた。
だが、暗殺者が忠誠心を捧げていたのはあの爽やかで人当たりがよく、心の底から笑える優しい少年だった。
闇落ちしたアレストではない。むしろ変わった若き主人を見て暗殺者は葛藤していた。最終的には助けるために、もとの主人に戻ってほしくてユシル側につき、アレストの行いを阻止しよとした。
なんだか、結局全員に裏切られて、離れられて、悪役とはいえちょっとかわいそうに思えてきた。
物語的にも正常な考えをもとに暗殺者の離れていく場面があるだろうが、誰か1人でもいいからアレストのことを最後まで応援してそばにいるようなキャラを作ってくれたらいいのになと考えてしまう。
いや、応援したらダメだな。やることが過激であれだしな。
こう考えるのは言うなれば情がうつってしまったのである。
どうにもこの人の幸せを願ってしまう。
「アレスト」
カナトは布団代わりのかけ布の下から、自分より大きい手を探し当てた。骨張った手は男らしく、握りこむと相手が力込むのがわかった。
「あのさ、何があってもひとりで抱え込むなよ。せめて俺がいるからな。あ、でも前にも言ったけど俺頭悪いから解決策が必要な相談はあんまり役に立たないかもしれない」
青い目はほんの見開き、目の前のカナトを見る。
「きみは……いつも欲しい言葉をくれるな」
「とにかく、お前は笑っているほうがいいんだよ。ほら、笑ってみろ」
アレストは何かを思い返すように間を開けた。そして何かおもしろいことでも思い出したのかその顔が楽しそうに笑った。
「はは!カナトが雨の日に泥団子みたいになった姿思い出した」
「それもう1年も前の話だろ!たまたま水溜まりに落ちただけだ!忘れろ!」
「ははは!」
「他に何かないのか!」
「んー、そうだな。ハチミツ欲しさに本物の蜂に追いかけられる姿?」
「それも俺じゃねーか!なんだよ!俺以外に何かないのか!」
その言葉にぴたっとアレストの体が硬直する。
本当に、カナトのことしかないような気がする。
勉強ができたとほめてもらった時、屋敷の管理がうまく行った時、なるべく笑顔を意識して使用人から話しやすいと言われた時、すべてがうれしかった。心の底からしてよかったと思える。
しかし、おもしろい出来事は何かあっただろうか。
カナトは他の使用人と違って規則通りに動かない。いつも破天荒な行動をする。それがとても新鮮に思えた。
でも、そんな問題児扱いでもアレストの言うことだけはなんとか聞き入れることができた。だからか、カナトがユシルに入れ込むように夢中になる姿はアレストにとって……少し、ほんの少し耐えられない。
「………ないな」
「わかった。もういい寝る」
くるっと背中を向けてカナトは目を閉じた。
なんで俺の失敗した姿しか見てねぇんだよコイツ!恥ずかしい!
アレストとイグナスも服を着た。
さすがにずっと半裸だと見ているほうが寒い。だが、双方の上着はまだ遭難者である2人の肩にかけられている。
「これ、いつ戻れるんだ?」
「今は吹雪がまた吹き始めたからな。もう少し待ってから目的地の小屋に行ってみよう。もしかしたらみんなそこにいるし、運が悪ければもうちょっと進まなければいけない」
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「あ、ありがと?」
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くそぉ。ちょっとときめいただろ。
一番不安な時に抱きしめられたのがアレストだったため、カナトは少し相手を意識し始めた。
「ねぇ、カナト」
ユシルが何かを差し出しながら近づいた。手に持っているのは手袋だった。
「これ、カナトのだよね?つけてくれたの、本当にありがとう。誰もいない状況で私のことも考えてくれるなんて本当に優しいんだね。あと、迷惑もかけて本当にごめんなさい。イグナスも兄さんも、ごめんなさい」
「お前が悪いわけじゃない」
イグナスはそう言って考える素振りをした。
「義弟の話によると、忠告聞かずにチャラチャラと装飾品をつけたやつがいたらしいな。そいつが倒れたのが原因だ」
「イグナスもよくここだってわかったね」
「ああ、お前がいる場所ならどこでもわかる」
ここでなぜ攻めがピンポイントで居場所がわかるのか聞いてはならない。なぜなら、ヒロインポジションが課題に面した時、颯爽と助けに来るのが主人公ポジションである。
太古より変わらぬストーリー構成と言ってもいい。
だが、気になったのはそこではない。
おとうと?とカナトは目をぱちくりさせる。イグナスに兄弟などいたか?
ユシルとしゃべっていたイグナスはそれに、とアレストを見る。
「大事な使用人が見つかってよかったな」
「ええ。辺境伯のおかげです」
アレストは笑顔だが、心の内は笑ってない。
おとうと、弟…………義弟!?ユシルはイグナスの恋人でアレストの弟だ。そしてイグナスより年下である。ならばこの“おとうと”はアレスト以外にいないはずだ。
だが2人のあいだにそんな兄弟仲みたいな和気藹々とした雰囲気はない。
カナトは2人を見比べて思わず首を縮こめた。
ボス級の2人がお世辞を言う場面はあまりいいものじゃないな。威圧感ダダもれだ。
唯一何も感じないらしいユシルはいつも通りだった。イグナスの隣でちょこんと収まって、火に手をかざして気持ちよさそうに目を細めている。
「かわいいな……」
誰にも聞かすつもりもなく小さくつぶやかれた言葉は、しかし、アレストだけ耳敏く拾い上げた。
青い瞳がスッとカナトを見る。
目線はずっとユシルから外してない。ふと脳裏に2人が手を握っていた場面が横切る。それに続いて凍死しかけそうになるなか、守るようにユシルを抱きしめるカナトの姿である。
アレストは思わず親指でさすっと心臓あたりをかすめた。
……少し、イライラするな。
結局雪は夜まで止むことはなかった。
カップルの2人は当たり前のように寄せ合って寝ている。なんならこっちから見えないようにイグナスがガードマンをしていた。
クソッ、天使の寝顔が見えねぇ!攻めの寝顔も見たい!めちゃくちゃ見たい!
カナトの視線が依然として2人から外れないのを見て、アレストはすとんと当たり前の顔で視線をさえぎる位置で横になる。
「おやすみ、カナト」
「え?あ、おやすみ」
アレストの顔以外何も見えなくなった。
カナトはしばらく目を閉じていたが、やはり寝れず、目を開けてじぃとアレストの寝顔を見る。
何度も抱きしめられた場面がリピート再生のように浮かんでくる。
イグナスならともかく、なんでお前までピンポイントでどこにいるのかわかるんだよ。
指を伸ばしてツンとその鼻先に触れた。すると、パッと青い瞳が暗い中で開けられる。
ぱちっと炎が弾けるような音を聞いた気がした。
カナトは叫び出しそうな声を慌てて飲み込んだ。口を押さえてバクバク鳴る心臓を全身で感じ取る。
ホラー映画のくだりだろ今の!!
「寝れないのか?」
寝れないところか、今のでわずかな眠気が全部吹き飛んだ。
「お前こそ……寝てねぇのかよ……」
「寝れなくてな。さっき、なんだかきみの昔を思い出したんだ」
「俺の昔?」
「ああ。井戸の近くで話を聞いてくれた日のことだ」
「んな昔よく覚えているな」
「……相手がきみだからだ」
「………」
「初めて心のうちを話した相手がきみだった。猫友達と言ってくれたのもきみだ。味方だと、何度も言ってくれたのがきみだ。きみしかいなかった」
アレストが、きみしかいなかったと言った時、カナトはわずかな切なさを感じた。
小説だと最後は誰にも味方されずに死んでいってしまう。
あの雇われた暗殺者ですらアレストのそばから離れてユシル側についてしまう。
暗殺者だけに関して言えば、別にアレストのことが嫌いだとか、恨みがあるからではない。むしろ幼い頃助けてくれた相手としてずっと恩返ししたいと思っていた。
だが、暗殺者が忠誠心を捧げていたのはあの爽やかで人当たりがよく、心の底から笑える優しい少年だった。
闇落ちしたアレストではない。むしろ変わった若き主人を見て暗殺者は葛藤していた。最終的には助けるために、もとの主人に戻ってほしくてユシル側につき、アレストの行いを阻止しよとした。
なんだか、結局全員に裏切られて、離れられて、悪役とはいえちょっとかわいそうに思えてきた。
物語的にも正常な考えをもとに暗殺者の離れていく場面があるだろうが、誰か1人でもいいからアレストのことを最後まで応援してそばにいるようなキャラを作ってくれたらいいのになと考えてしまう。
いや、応援したらダメだな。やることが過激であれだしな。
こう考えるのは言うなれば情がうつってしまったのである。
どうにもこの人の幸せを願ってしまう。
「アレスト」
カナトは布団代わりのかけ布の下から、自分より大きい手を探し当てた。骨張った手は男らしく、握りこむと相手が力込むのがわかった。
「あのさ、何があってもひとりで抱え込むなよ。せめて俺がいるからな。あ、でも前にも言ったけど俺頭悪いから解決策が必要な相談はあんまり役に立たないかもしれない」
青い目はほんの見開き、目の前のカナトを見る。
「きみは……いつも欲しい言葉をくれるな」
「とにかく、お前は笑っているほうがいいんだよ。ほら、笑ってみろ」
アレストは何かを思い返すように間を開けた。そして何かおもしろいことでも思い出したのかその顔が楽しそうに笑った。
「はは!カナトが雨の日に泥団子みたいになった姿思い出した」
「それもう1年も前の話だろ!たまたま水溜まりに落ちただけだ!忘れろ!」
「ははは!」
「他に何かないのか!」
「んー、そうだな。ハチミツ欲しさに本物の蜂に追いかけられる姿?」
「それも俺じゃねーか!なんだよ!俺以外に何かないのか!」
その言葉にぴたっとアレストの体が硬直する。
本当に、カナトのことしかないような気がする。
勉強ができたとほめてもらった時、屋敷の管理がうまく行った時、なるべく笑顔を意識して使用人から話しやすいと言われた時、すべてがうれしかった。心の底からしてよかったと思える。
しかし、おもしろい出来事は何かあっただろうか。
カナトは他の使用人と違って規則通りに動かない。いつも破天荒な行動をする。それがとても新鮮に思えた。
でも、そんな問題児扱いでもアレストの言うことだけはなんとか聞き入れることができた。だからか、カナトがユシルに入れ込むように夢中になる姿はアレストにとって……少し、ほんの少し耐えられない。
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