転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
25 / 241
第一章

挑発

しおりを挟む








翌朝、カナトたちは無事他の人たちと合流できた。

吹き飛ばされた2人が無事だとわかると業者は進むことを告げた。やがて作業場にくると業者たちが次々と雪を運んで大きな台車に乗せていく。

「雪って街につもっているやつじゃダメなのか?」

カナトが訊くとアレストはうなずいた。

「あの雪は誰が踏んでいるのかわからないからな。専用の小屋に貯めてものを冷やしたり夏に使うから、基本貴族は使わない」

「なるほどな」

やっぱり貴族はめんどくさいと思ってしまう。雪の作業は1日だけで終わらないらしい。ほぼ冬季中はずっと続くという。

貴族子息たちが見学するのは主に準備ができた作業の初日である。ただ、吹雪や雪崩れのように予測できないことがあるため、そのせいで作業が2、3日遅れることもある。

見ているだけじゃつまらないため、カナトが何か手伝おうと業者たちに近づこうとすると、突然怒鳴り声が聞こえてきた。

「おい!ここに暖炉は無いのか!」

見ると、ニワノエを先頭に数人の貴族子息が騒いでいた。

「だから、ここはおうちじゃねーんだよ。暖炉なんかあるわけねぇだろ。火起こし場なら部屋にあるだろ」

「作業場にくればもっとマシかと思ったけど、まさかまたどこでもあんな後退した暖房具を使っていたなんて。あり得ないだろ!俺は前にも来たことあるが、あの時から何ひとつ変わってない!貴族をなめているのか!」

ニワノエが不満を言えばいうほど他の貴族子息たちは同意して声を上げる。まるでそうすると今すぐにでも対応してもらえるという態度だ。

対応している業者は舌打ちしそうな顔でイライラした声を出す。

「別に来いって言ってねぇよ。お前らが勝手に来ているだけだろ。それに暖炉なんてどこの家にもあるわけじゃねぇよ」

「なんだと!俺たちは将来爵位を受け継ぐ貴族だ!お前たちとは違う!ここへ来たのもこれから領地を統治するのに必要なことだ。お前たちだってこれから待遇がよくなるかもしれない。そう考えると俺たちに尽くすのが礼儀だろ?」

すると業者は鼻で嗤った。まるで夢ごとを言っているわからずやを見るような目で言う。

「一応言っておくけどな。お前たち貴族を支えているのが俺らだ。この雪の搬送だって俺らがやってる。言い換えれば俺たちさえいなければ貴族なんてなんもできねぇやつらばかりだ。雪を命がけで搬送するが、感謝の一言もねぇ。吹雪、雪崩れだけでどれほどの人が亡くなったと思う。礼儀を尽くすのがどっちなのかよく考えろ。たくっ、アレスト坊ちゃんとずいぶん違うな」

最後のつぶやきにニワノエがパッとアレストを見る。

その目に怒りが湧いた。

いつもだ!いつも何をやってもこいつには勝てない!こんなところに二度も来るやつなんていない。俺は来た。あいつもできたからだ!なのに、なんで結局みんなはアレストばかりをほめそやす!

理解できない!

カナトはニワノエの顔を見て、どうせアレストがうらやましいとか思ってんだろうな、と考えていると、ニワノエが貴族子息たちを引き連れて向かってきた。

慌ててそばにいるアレストの手を引いて歩き出す。

「カナト?」

「あっちに行こう!」

「おい待て!」

ニワノエ?と後ろを見るアレスト。カナトはその手をさらにきつく握って走り出した。

「どうしたんだ?」

なおも不思議そうにするアレストだが、後ろで追ってくるニワノエを見て何かを察した。必死に前を走っている背中を見て思わず笑いそうになった。

「カナト、大丈夫だ」

アレストは逆に引いてくる手を引っ張り返す。

「アレスト?いや、でも」

「ニワノエ程度なら対応できるはずだ」

ユシルが現れる前ならな!今のお前はそんな余裕なんてーー

「カナト、兄さん!何かあったの?」

ユシル!?

ギョッと声を振り向くと異変に気付いたユシルが向かってきた。その後ろになんとイグナスもついてきている。

やめてくれッ!!これ以上にない最悪な組み合わせだ!!

アレストが嫌うユシル、そしてアレストを殺すイグナス。闇落ちの補助キャラ、ニワノエ。この3人の中心にいるアレスト。

史上最悪な組み合わせでしかない。

はさみ撃ちのように迫ってくる双方を見てカナトはオロオロし出した。真冬なのに汗がドッとあふれる。

なぜ避けたいものに限って近づいてくるんだ!そんなにこいつを悪役として落としたいのかこの世界!

カナトの心の叫びに構わず重要人物の3人及びモブ貴族たちが集まってくる。

「はっ!弟も来たようだな!ちょうどいい、お前の弟に訊いてやろう!お前のことをどう思っているのか、時期当主となる弟がもしかしたら慈悲な心を持ってお前に小さい領地を与えるかもしれないなあ!」

カナトは握り返してくる手に力が加えられたのを感じた。

「テメェは黙れぇえ!!」

あまりの焦りからほぼ吠えに近い状態だった。そんな様子にニワノエが一瞬ひるむ。

ユシルがそんなことするわけないだろぉ!!いちいちアレストの痛いところ突くんじゃねぇ!そんなことをしようと考えるのはアグラウのジジイだ!

「兄さん!」

「ああ、ユシル。来たのか」

「うん……その、さっきの話、その赤い髪の男が言ったことは気にしないで!そんなこと一度も思ってない!爵位だって、そんな地位を狙っているわけじゃ……」

「わかっている。前々から補佐をしたいって言ってたな」

ユシルの顔が明るくなる。

「そう、補佐がしたい。兄さんと一緒に家をーー」

「ユシル」

アレストは笑顔だった。いつもの笑顔で仕方なさそうに眉を寄せる。

「もし僕ときみのどちらかが当主になるならどちらかが他の領地に行くことになる。ヴォルテローノ領は何も一つだけじゃないからな」

「そ、そうなんだ……」

ユシルが落ち込むように項垂れた。その姿はまるで他の場所へ行くのはアレストではなく自分だとでも言いたげである。

どう見てもアグラウの心は実の息子に偏っている。

ユシルの言動すべてがアレストの神経を逆なでした。

カナトは必死に出してしまいそうな声を我慢した。アレストの握る力が大きすぎて手がとてつもなく痛い。

絶対内心は表情みたい穏やかじゃないはずだ。

ここはやはり離れるべきだ。そう思ってカナトはアレストを見上げた。いつの間にかまた背が高くなったような気がする。

よし、言うぞ。

「アレスト、俺お腹すいた!」

場違いな言葉に一瞬沈黙が降りる。アレストの手からパッと力が抜いていく。今度は優しくさすりながら、

「じゃあ、食べに行こうか?」

「行く!」

2人が歩き出した。

「あ、じゃあなユシル!俺先にアレストと食べてくる!」

「え?あ、うん。わかった。気をつけて!」

抜け出せた!

あの苦境から抜け出せたことでカナトはよろこんでいた。

しかし、一方でアレストはいつもの笑顔でまったく違うことを考えていた。

ふつふつとした黒いものが胸に堆積していくのを感じる。

領地、爵位、ユシル……それらの言葉が頭の中でぐるぐる回る。青いはずの瞳がいつもより一段と色彩が暗くなる。

……………なぜだ。







しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...