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第三章
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しおりを挟むこれくらいしたほうがいいだろう。カナトの反応を見ていたアレストはそう思った。
カナトはこの気持ちに触れると逃げたくなるなら、何かを隠れみのにすればいい。例えば愛に気づいたように“愛”を建前にして足枷や過剰な行動のイメージを軽減すれば衝撃が大きいほうへ行く。
ちょうどいい質問がきたことでアレストはそれを利用することにした。今回は足枷より告白のほうがカナトにとって衝撃的であったためかなり意識されるだろう。
もっとも、アレストがカナトへの気持ちは本人にもわからないのは確かであった。それでも自分の気持ちに迷ったことはない。気づいてしまったあの夜から、すでにカナトの全てを占領したいと思った。脳も体も心も全て手に入れたい。そこに罪悪感も倫理観もない。とっくにこれを愛として見ていた。
そして今回のことを通してカナトにもその気があるなら特別な関係に持ち込める大きな一歩となる。反感を覚えて離れようとすれば壊してしまえばいい。簡単なことだった。だから一度も自分の気持ち、もとい欲望に迷ったことはない。
これがアレスト・ロイマン・ヴォルテローノという悪役である。
抱き上げられて逃げ道のないカナトはずっと居心地悪そうにいている。しかし顔だけは真っ赤にして手に力を入れていた。
アレストは口をふさいでくる手をちろっとなめた。
「おい!」
案の定カナトが毛を逆立てた。アレストは自由になった口で笑う。
「カナトは僕のことがいやじゃないだろ?」
「そ、そうだけど……でも、俺そんな気、なくて……その」
「急に言われて驚いたんだな。すまなかった。でもきみの心が欲しい。心だけじゃない。きみの全てが欲しい」
真摯に見つめられて、足枷をはめた相手に対してカナトは思わず心がドキッとした。してからおかしいと気づく。
ドキ!?
心臓の位置を抑えて目を見開く。
なにでときめいたんだ今!!
「カナト?」
「ふぁい!!」
「………どうしたんだ?」
「ちが、その……お、俺のことが好きなのか?」
「大好きだ!」
「そんなうれしそうな顔で笑うな!クソ!」
真っ赤になったままカナトは口をもごもごとさせた。何か言いたげな様子にアレストは辛抱強く待つ。
「その……好きだって言うなら、キス、できるのか?」
ほんの一瞬沈黙が降りた。
何言ってんだ俺ッ!!?
「できるよ。言ったはずだ。きみとなら恋人や夫婦のあいだでする行動ができると。今試してみるか?」
「ッ!??」
アレストは片手でカナトを持ち上げ、空いた手でその後頭部にそえた。
「ちょ、まっ……」
だんだんとせまり来る顔にカナトの脳内はパニクり、体がわなわなと震え出す。
「……ぁ、ま………ああああ"あ"あ"ッ!!!」
唇が触れようとする寸前、ついに恥ずかしさに耐えきれなかったカナトは叫んでから必死に体をよじってベッドに落ちた。布団をかき集めて蛹のように自分をくるんでそのままシーンと動かなくなる。
アレストは親指で唇をなぞるとフッと笑みをもらした。
どうやら自分が考えるほど反感はないようである。まだ受け入れられないようだが、反応を見るに、抵抗感より恥ずかしさのほうが上回っているらしい。
予想外の収穫だな。
顔の笑みはさらに深まる。
「カナト、出ておいで」
「………」
「本当にその蛹みたいな状態で羽化するつもりか?」
「………」
「悪かった。今のはただの冗談だ。おやつは特別にクッキーを用意するよう厨房に言っておく」
「………本当か?」
「もちろん」
「でも今は出たくない!」
「わかった。また夕方近くになったら帰ってくる。それじゃあそろそろ行かないと。行ってきます」
「早く行け!」
軽く笑ってからアレストは部屋を出て行った。
布団の中でカナトはまだ顔の熱が収まらない気がした。真っ赤になったまま身体中に血液がすさまじい速さで駆け巡るのを感じた気がした。
カナトと別れてから邸宅を出たアレストはフェンデルのところに来ていた。
相変わらず暗い内装の廊下を通って接客室に来る。
すでにデオンが来ていた。
「よお、アレスト」
「そのニヤつく顔見せるな。目障りだ」
「おい!なんでそんなに刺々しいんだよ!計画失敗したの俺のせいじゃねぇだろ?むしろお前の使用人のために真っ先に医者呼んだの俺だぜ?」
「ああ、ありがとう」
アレストはソファでデオンと離れた端の位置に腰を下ろすと背中を預けた。
向かいで紅茶をカップに注いだフェンデルはソーサーごとアレストの前に押し出す。
「でもカナトさんのおかげで王家がヴォルテローノ家に警戒心を抱かずにすみましたね。むしろ第二王子の失態を防ぐことができましたし」
「本来の計画通りだと他の貴族にダメージ与える予定なのに、真っ先に王家に手を出すなんざ、庶民の考えていることはわかんねぇな」
「まあ、今回の失敗でデオンの愚策を取らずによかったとわかったわけですし」
「俺に対して何か言わないと気がすまないのか?」
デオンの計画では貴族として直々に反旗を掲げる民衆に呼びかけ、計画の成功性を高めるものだったが、アレストがそれだと万が一誰かが捕まってこちら側の名前を吐き出してしまえば終わりだと裏側から煽ることにした。
貴族の噂を流し、民衆の不満を高め、毒の入手経路をそれとなく提案する。すべては裏側から手を回すことで自分たちの顔と名前を出さず、かつ安全に高みの見物ができる予定だった。
「違いますよ。それにしても、まさかカナトさんに見られてしまうなんてね」
アレストが目線を上げた。
「御者の話によると怪しい人影を見たらしい」
「なるほど。隠密性が足りなかったようですね。やはり民衆だけでは難しいのでしょう。今度は誰かを送り込むことで引導するのもいいかもしれません」
アレストは肯定も否定もしなかった。
御者の言うことは嘘ではないはずだ。しかし何かが腑に落ちない。
御者は人影などなにも見なかったと言う。夜道を走ることもある御者は夜目が効くことが多い。たまたま見えなかった可能性もあるが、何かが引っかかる。
一度、カナトに確認してみるか。
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