転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
71 / 241
第三章

許し

しおりを挟む
その場の空気に耐えきれず、カナトがチラチラと窓を振り返りながら逃げ道を確認した。

その様子にアレストは目を細め、次の瞬間には明るい笑顔になった。

床にひざをつき、手を取って姿勢を低くしながら目を合わせようとする。

「カナト、今日はおかゆに肉を入れるように言ったから。食べてみたくないのか?」

久しぶりの肉キーワードにカナトが反応した。あまりにも野菜中心に食べてきたせいなのか、肉と聞くだけでお腹が空いてくる。

アレストの優しげな顔を見て躊躇ちゅうちょし、そのあいだに首を絞められた光景が何度も浮かんでくる。

そのためらいに気づいたアレストは切り札を出した。

「フルーツタルトもある」

カナトの心が思い切り揺れた。

「お、大きさは?」

「食べ過ぎは良くないからふた切れまでならいい」

さすがに見ていられなかったカツラギが声を出した。

「カナト!」

ハッとしたようにカナトが振り返る。

「あまり無理をするな」

どことなく忠告じみた視線につい固唾をのむ。カナトは目を泳がせてからアレストに取られ手を引っ込めた。

「その、もう少しユシルと話したい」

「どうして?」

「久しぶりに話したから?」

カナトはいやな汗を流しながら相手の顔を見ないようにした。

「……わかった」

「本当にいいのか?」

「もちろん」

そう言ってまたカナトの手を取る。

「でもそれは明日にしよう。もうすぐお昼だし、ユシルもやるべきことがあるはずだ」

温度のない青い瞳がカツラギを捉えた。そのあまりにも殺気じみた視線にカツラギはのど元を噛みつかれた気分になった。

「カナトが世話になったみたいだな。でも忙しいならわざわざ付き合わなくていいよ。何かあれば僕に言えば代わりに伝える」

その言葉を簡単明快に意訳すれば「カナトに近づくな」なのだろう。

カツラギは厳しい顔のまま視線をそらした。

密かに心の中でカナトの心配をしながらも、そのほだされやすさに頭痛を感じた。

カナトはカツラギを気にしながらアレストとともに部屋を出た。

廊下を歩きながら左右を見て逃亡通路を確保しようとする。

その時、突然腕を引っ張られて抱き上げられた。

あまりにも驚きすぎてカナトは口を開けたままアレストを見た。

あの日見たような狂気的な表情はなく、いつものような親しみやすい明るい笑顔だった。

「カナト、そんなに怖がらないで欲しい」

「…ぁ、あ、俺」

「首の跡はまだ治らないのか?」

カナトはただ口をパクパクさせてまともな言葉を発せなかった。アレストの部屋に入って行くのを見てその顔に焦りが出始める。

「カナト、怖がらないで欲しい」

「……お、俺」

小刻みに震え始めた体をなだめるようにアレストは声をなるべく柔らかく、表情を親しみやすくするように意識した。

「大丈夫」

そう言ってドアを振り向き「ムソク」と声をかけた。するとドアがガチャと閉められ、鍵がかかる音が響いた。

驚いたカナトが身を起こしてドアを見た。その顔がますます不安になって行く。

「よ、用事……思い出した」

なんとかアレストの拘束から抜け出せるように降りようとする。しかし何度やっても失敗し、元通りに抱き上げられる。

カナトが恨めしそうな顔で見た。

「離せ!」

言いながらベッドに視線を向けた。鎖はない。

「いい加減にしろ!自分で歩ける!」

アレストはなんとかカナトをベッドに座らせた。ひざをついてどこか甘えるように見上げる。

「カナト」

「な、なんだよ」

「あの日は本当にすまなかった。きみが距離をとると言ってどうしても我慢できなかった。息ができないくらいに苦しかったんだ。知っての通り、僕には何も残ってない。きみしかいないんだ。もう二度とあんなことはしないから、僕を避けないでくれ」

額をひざにこすられ、弱々しい声で言われるとカナトも強い態度に出られなかった。

「は、早く起きろ……」

「しばらくこのままでいたい」

そう言ってアレストはカナトの手を取って顔をこすりつけた。

「何やってんだよ」

まるで大型犬がじゃれついているみたいだとカナトは思った。

試しに「お手」と言うと本当に大きな手が差し出した手に乗ってきた。なんだかおもしろくなってきて「ごほうびだ!」と言って濃い金髪をぐしゃぐしゃになでる。

アレストも合わせて顔を近づかせ、カナトの首筋に頭を乗せた。

「ちょ、まっ!くすぐったいって!」

笑いながらベッドに押し倒され、低い位置から目が合った。カナトは思わずドキッとした。

「カナト、きみが欲しいと言えば僕の持っているもの全てあげる。ないものも必ず手に入れてきみにあげる。だからもう距離をとるなんて言わないでくれ。きみまで離れるのは耐えられない」

カナトはコクコクうなずいた。

「その代わりもう鎖で縛るのも首締めもダメだ!いいな!」

「わかった。もうしない」

アレストはカナトの胸に顔を埋めると人知れずな笑みをもらした。

そこでカナトが何かを思い出す。

「そうだ肉は!?」

「そうだな。忘れかけた」

アレストは起き上がって、取ってくる、と言って部屋を出た。ほどなくして戻ってくるのを見てカナトが期待しながらトレーをのぞいた。

おかゆの中身を確認すると期待で上がった口もとがすぐに下がった。

「なんだコレ」

「おかゆ」

「肉って……」

スプーンでおかゆをすくうと、中につぶ程度でしか入ってない肉を見てカナトが裏切られたように口をへの字に曲げた。

「肉汁したたるような肉はないのかよ!?」

「そんな脂っこいものを食べさせるわけないだろ?」

「こ、この………っ」

震えながらトレーを受け取り、それをゆっくりと机に置いた。

「カナトのためーーグフッ!」

カナト渾身の頭突きがアレストのお腹に炸裂した。










翌日、約束通りカナトはカツラギと話すことができた。

目の前の晴れやかな顔を見てカツラギのなかでいや思いが湧き上がる。

「お前、もう許したのか?」

「ああ!よく考えたらアレストの状況を考えてあの言い方はないな!」

酷い頭痛に襲われてカツラギがひざに腕をついて頭を支えた。

場所は昼下がりのユシルの自室。カツラギはベッドに倒れ込みたいのを我慢して蒸しパンを頬張っているカナトを見た。

これほどまでお気楽で単純明快なやつもいない。そう考えながらため息をつく。

合わない。合わなさすぎる。

アレストとカナトは合わなさすぎる。これがカツラギの感じたことだった。

この2人を例えるなら子羊と狼の群れである。もちろんカナトが子羊だ。

普通に考えて狼の群れが子羊を囲んで守るためだと思うか?答えはノーだ。それならなぜ子羊は今すぐに食べない?単純に考えれば太らせて保存食にするためである。

アレストは悲劇的にユシルの存在で何もかもゆっくりと失う環境にいる。その過程において突如カナトが現れた。本来アレストが求めたはずの注目、愛情、関心を全てカナトに求め始めたと思われる。

求めたものが周りから与えられないとわかると与えてくれる存在にすがりつきたくなる。

アレストは今そんな状態なんじゃないかとカツラギは考えた。

そして奇しくもカナトはまったくそれに気づかない大バカ者で、自分を殺しかけた相手に対して簡単に許しを与えた。

このままだとカナトはこの状況から抜け出したくてもアレストによって骨抜きにされるだろう。

そもそもなぜこんなにもアレストの言うことを信用するのかカツラギにはわからなかった。

稀に見るバカだからかなぁ。




しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...