転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

【※拷問シーンあり】フェンデルの拷問

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※この話には拷問シーンがあります。
流血、残酷表現があります。
特に受けが酷い目に遭うので、苦手な方はお気をつけください。


◇————————————————————











アレストは久しぶりによく寝れた気がした。

なぜなのかはわからない。

ただ、昨日のパーティーから帰ったあと長らく自分を悩ませていた頭痛も軽減された気がした。

唯一の原因を挙げるとすれば、あの黒髪の青年しか思い出せない。

いつも通りに白い貴族服をまとい、人当たりのいい笑顔を浮かべるとアレストは部屋を出た。

フェンデルの屋敷はシアン以外に使用人はいない。

それでも気を緩めすぎないように意図して笑顔を作らなければいけなかった。

地下へ向かい、拷問部屋の前に来るとフェンデルはすでに帰っていた。

だが、手足を椅子に固定して座った状態の青年はすでに血まみれの姿をしてぴくりとも動かない。

アレストは妙に怒りを感じた。だがその怒りの正体がわからず、一歩一歩と青年へ近づいていく。

何か気づいたのか、青年、カナトは顔を上げた。

「アレスト……」

叫びすぎてかすれた声にアレストはますます神経を逆撫でされたようにイラつきを覚えた。

ただでさえ昨晩のパーティーで忌々しい弟に商談相手を奪われたことでイラついていた頭が、目の前の青年のせいでどんどん表面上の笑顔が保てなくなる。

「……アレ、スト……痛い」

ふたたび響いてくるかすれ声に思わず固まる。

カナトは泣き声になりながら痛いと訴えた。

「お腹も、背中も、全部痛い……」

透明な涙が血で汚れた顔を滑っていった。

アレストは思わずその涙を指ですくい、そうしたあとハッとして手を引っ込める。

なぜか血の繋がらない弟といる時に感じるイラつきとは違うものを感じた。酷く心を乱されるように心臓音がうるさく響く。

その乱され具合に慣れなかったアレストはそのまま部屋を出て行こうとした。

後ろで青年の何度もかすれた声で必死に、自分を呼ぶ声を聞きながら止まりそうな足を動かして離れる。

早く、早く離れないと!

アレストは心臓を上から押さえて歯噛みした。














もうあの黒髪の青年とは会わないほうがいい。

そう思うも、アレストはついつい足を運んでしまった。

あれからもう数日する。青年はすでに死んだかもしれない。

だが、拷問室からもれ出るわずかな叫び声で相手がまだ生きていることを知った。その瞬間、アレストは思わず、よかった、という念が湧いてきた。何度も青年の猫のように輝いている瞳が脳裏をかすめる。

いったいなぜあの青年に……。

このドアを隔てた向こうで拷問が行われている。

アレストは今までにない動悸を感じながらドアを開けた。

「あああああッ!!」

開けた瞬間、ピシャッという破裂音とともにあの青年の叫び声が鮮明に聞こえてきた。

フェンデルが、うん?と振り返る。

「アレスト、こんな夜分遅くにどうかしました?」

「聞き出せたか」

アレストは必死に結果を聞きにきただけだと自分に言い聞かせた。

「待っていてくれたら教えに行ったのに。まだですよ。でもよくわからないことを言うんです。別の世界や、そこで死んでここに来たとか」

「……頭を壊したのか?」

「そこまでしてませんよ」

アレストはちらっと吊るされたカナトを見た。あちらも血まみれになりながらなんとか目を開いてアレストを見ようとした。

「アレスト!!」

前聞いたよりも、もっとかすれ気味になった声が心を締めつけた。

「助けて……俺嘘ついてない、アレスト」

「おや」

フェンデルが驚いたようにあごに手をそえてカナトの顔をのぞき込んだ。

「泣くのは初めてですね」

「泣くのが初めて?」

「ええ、今まで何をしても生理的な涙しか浮かばなかったのに。あなたが来た途端に泣きましたね。うらやましいですね」

アレストはただ黙ってカナトを見返した。

フェンデルは何を思ったのか、手に持った鞭を掲げて見せた。

「やめます?」

「……いや、続けてくれ。他にも知っている人がいるなら計画に支障が出るかもしれない」

「たぶん彼の反応からいないと思いますけど、やり続けますね」

「アレスト……もうこんなの、ゲホッ!!ケホッケホッ………もう、無理だ」

「水責め、鞭打ち、焼き付けなどたくさんしましたね。慣れてきたところだろうと思うので、今日はちょっと別のを試してみようと思いまして、見学して行きますか?」

アレストはフェンデルを一瞥しただけで何も言わなかった。そこへ別の部屋で作業していたシアンが入ってくる。

「フェンデル様、お持ちしました」

「ありがとう。いいところだよ」

フェンデルは鞭を台に置いて、代わりに革手袋をはめ込んだ。

シアンが運んできたトレーには熱した無数の細い針があり、まだむくむくと熱気を放っている。

「何をするつもりだ」

「気になります?この針で指と爪のあいだを刺すんですよ」

フェンデルは台に置かれたトレーから針を3本持ってカナトに近づいた。

カナトは真っ青になりながらアレストの名前を叫び続けてなんとか助けを求めたが、返されるのはただただ底冷えするような冷たい目だった。

シアンがレバーを操作して鎖が伸び、カナトの体が地面に落ちた。

手枷をはめられた手を押さえ込まれ、まだ熱気を放っている針を近づけられてカナトは必死に抵抗した。

「アレスト!!助けてお願いだ!!嘘はついてない!!アレストッ!!」

ばたつかせていた足はシアンによって鎖で絡められ、フェンデルの代わりに腕を押さえつけられた。

フェンデルは優しい声でなだめるようにカナトへ話しかけた。

「大丈夫ですよ。忘れられない体験にしましょうね」

「ふさげんな!!離れろ!!クソがっゲホッゲホッ!!」

連日叫び続けたのどは咳をするたびに血が出るようになった。

最初、フェンデルが鞭でカナトの胸やお腹を打ちつけていたことにアレストは疑問を感じていた。だが、伏せの体勢を取らされたことで、カナトの背中がすでに鞭を振るうところがないくらいに血みどろになり、まともな治療を受けないことで皮膚が部分的に爛れていたことを知った。

「あああああぁッ!!!」

その叫び声でアレストが我に返った。

見ると、カナトの人差し指に針が差し込まれている。

「真実を言う気になりました?」

「アレスト……痛い、痛い!助けてくれよ……ゲホッゲホッ!」

仕方なさそうに頭を振ったフェンデルは2本目の針を持ってカナトの薬指にとんと当てた。

「手の指は10本しないですからね。10回までできますね」

「アレストッ!!」

カナトの呼びかけに応えることなく、アレストはその日の拷問を最後まで見学した。

先に帰ったフェンデルとシアンは鍵をアレストに渡して、カナトと2人きりにさせた。

ベルトで手足を固定されたまま椅子に座されたカナトは、ただ泣きながらアレストの名前を何度も呼び続けた。

だが、アレストから返されるのはやはり冷たい目線だけである。

「ぅぅ、アレスト………えぐっ、アレスト……」

しゃくりを上げながら泣き続ける青年を見つめ、アレストはふいに口を開いた。

「すべてを話せば終わるはずだ」

「アレスト……!」

まともな返事が返ってきたことでカナトの顔に希望らしきものが浮かんでくる。

ケホッケホッと咳しながらカナトは必死に声を出した。

「俺本当に嘘ついてない!全部話した!本当に他の世界から来たんだーーゲホッ!!ケホッケホッ!」

地面に吐き出された少量の血を見つめなが、カナトの声が小さくなる。

「本当なんだよ……嘘なんか、ついてねぇし……」

だがアレストはそんな戯言をまったく信じず、そのまま何も言わずに出て行ってしまった。

背後で相変わらず叫び続ける声にアレストはただイラついた。










それからさらに数日、拷問が終わるたびにアレストはカナトと2人きりになった。

なぜそうするのかアレストにも説明できない。ただもっと苦しむ顔が見たいことを理由に、フェンデルに拷問の軽減とその後の治療をするよう言い渡した。

だが、カナトの体は依然としてボロボロのままで、日にちが経つにつれ、名前を呼ばれることも少なくなった。

どんどんしおれていくように、もはや手足を縛らなくてもカナトは歩くことすらできなくなっていた。

アレストは今日も椅子に座りながらそんなカナトをじっと見つめている。

当初のように話しかけても希望を感じなくなったのか、猫のように思えた目も生気を抜かれたように暗くなっていく。

その過程を見ていたアレストは思ってしまった。

名前を呼ばれたい。その目で見てほしい。青年の頭の中まで自分で満たしてほしい。

アレストはなんとか目の前の青年との記憶を探し出そうとした。本当は言う通りいろんなことがあったのではないか。だがいくら思い出そうとしたところでそんな記憶はなかった。

むしろ“思い出そうと”すればするほど酷い頭痛に襲われる。

青年は生きている。だがその青年が目の前でうつ伏せになったまま動かない。

アレストはどこか焦燥感に似たものを感じた。

思わず初めて青年と会った時のことを思い出す。

あの晩、馬車に乗り込もうとした瞬間、まるで今まで何か欠けていると感じた心を満たすような声が聞こえてきた。

青年を見た瞬間に探し続けていた大切なものが戻ってきた、そんな感覚がした。

アレストはたった一回しか聞かなかった相手の名前を思い出そうとした。不思議とすんなりと頭に浮かんでくる。

「カナト」

その名前を口に出した瞬間、アレストは胸の動悸が激しくなったのを感じた。

どうしようもない感情があふれ出て、今すぐにでも青年を抱きしめたくなる。

「カナト……」

二度目の呼びかけでカナトがピクッと反応し、なんとか顔を上げようとした。

「……僕の名前、もう一度呼んでみろ」

しばらくして、相手が何を言っているのか理解したカナトは口を開いた。だが出てくるのは小さな音だけで、言葉にはならないものばかりである。

アレストはそれに対してまたもイラつきを感じた。

「僕の名前を呼べ!」

「ぁ…………ぉ…………」

カナトは涙を流しながら必死に口を開くが、やはりアレストの名前は出てこない。

何を考えたのか、カナトは口を大きく開いて舌を出した。

そこで初めて、アレストは相手がもう声も出せないところまできたことに気づいた。

「声が、出せないのか」

カナトが力なくうなずく。

このまま二度と名前は呼ばれることがないのかもしれない。そう思うとアレストのなかにある焦燥感が酷くなっていく。

立ち上がったアレストを見て、カナトはゆっくりと目を閉じた。もうこのまま相手が帰るものだと思っていた。

だが鎖がガシャガシャと鳴る。カナトが何が起こったのか理解するより先に体が抱き上げられた。

負傷部位に触れられた痛みと恐怖で一瞬でカナトの目から涙があふれ出てしまった。完全に判断能力を失ったカナトはまた拷問が始まったのだと思った。

「ぁ…"………!」

「痛いか?」

だが響いてきたのはフェンデルの声ではない。カナトは遅れながらそのことに気づき、誰なのかと見ようとした。

短い金髪と自分の血で汚れた白い衣装……懐かしい香りにまたも涙腺がゆるむ。

アレスト……!!

今のアレストはこんなことしない。だから夢だと思ったカナトは動かない手の代わりに必死に噛みついた。

助けろよ!!アレスト!!

首もとに感じる痛みに耐えながら、アレストは耳もとて「痛い」と泣き叫ぶ青年の声が聞こえた気がした。だが、実際に青年は…カナトはただかすれた声を上げながら泣いているだけだった。








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