転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
104 / 241
第四章

お買い物

しおりを挟む









どこか緊張気味のカナトがお店の前で立っていた。

宝石飾のアクセサリーがたくさんガラスの前に並んでおり、偽ユシルは現在店内で買い物中である。

ちょうど店のベルが鳴って偽ユシルが出てきた。

「お待たせ。一緒にお店のなかに入ってくればよかったのに」

カナトは少しすねたみたいに言う偽ユシルをにらんだ。

「そんな目しないでよ。同じ世界から来たんでしょ?仲間同士じゃない。じゃあ対立し合うより手を組んだほうがいいでしょ?」

「うるせ"ぇ"」

「またそれね」

カナトが惚れているという確信があるのか、偽ユシルはいつになく余裕のある様子で笑った。

「それでもいいけど、まあ、それよりこれもらって?」

そう言って差し出されたのはクロスタイの留め具である。丸い形の赤い宝石と金に彩られた爪ほど大きさのもので、見るからに高価なものだった。

「これ本物の宝石だよ?きみにあげる」

カナトが拒否しようとするより先にえりを引っ張られて、クロスタイにつけていた安物と交換された。

「じゃあ同じ世界の住人同士仲良くお買い物でもしよっか!」

カナトはぐっと手を引かれて走り出した。

贈り物だったり、手を引いたりと近々しいやつだな!!

カナトのズボンポケットの中に入っていたユシルがもごもごと動き、爪をカサカサ引っかきながら、カナトしっかりして!と念を送った。

ユシルは事前に惚れ薬のことを話していたので、まさかとは思うがこのままカナトが脳なしに惚れるという事態はないはずである。

それでもなぜか心配があった。

買い物はほとんど偽ユシル1人が楽しみ、カナトはその後ろをブツクサとついて行く構図だが、夕方になる前に並んで歩いていた偽ユシルがふと口を開いた。

「そうだ。私さっきあっちに落とし物した気がする」

そう言って通り過ぎてきた道を振り返る。先ほど通った橋の下には水が流れ、人通りも多い。

なんで先に言わねぇんだよ。水の中に落ちたのか?

自然と橋に向かったカナトを見て偽ユシルは笑みを浮かべた。

「水の中に落ちたかもしれないなぁ。見てくれない?」

「め"ん、と"クセぇ"」

「ごめんね」

ポケットの中にいるユシルはいやな感じがして必死に爪を立てた。でもなだめるように大丈夫だと言いたげにカナトがポケットを上からポンポンとたたく。

偽ユシルはずっとカナトのズボンポケットの片側が少しふくらんでいるのに気づいているが、今確実に動いたように見えた。

何あれ?

不思議に思うが、さすがにこの体の中身だとは思わなかった。

そして、探し物をしているカナトが橋の下にある川をのぞいた時、ふとあることに気づいた。

ん?なんもねぇじゃん。

川の水はずいぶんと澄んでおり、落ちている小石も見渡せた。何もないと頭を引っ込めようとした時、突然背中に誰かがぶつかり、体ごと川の中に落ちてしまった。

ドシャッと大きな水音に混じって「カナト!!」と偽ユシルの慌てた、愉快さの少しにじんだ声が響いた。

びっくりしたカナトは水を一口飲んでしまったが、なんとか手足を動かして這いあがろうとする。だが不思議なくらい手足が重く、ほとんど動かせない。同時に両脚がつってしまい、さらに最悪なことに川の流れが早くなってしまった。

は!?

カナトは反射的にポケットからユシルを出そうとしたが、投げ出そうとするより早く、川の流れとともに2人一緒に流れてしまった。














カナトが川に流されたと聞いた時、アレストは一瞬反応できなかった。そばにいたムソクが「アレスト様」と呼びかけたことでなんとか我に返り、目の前にいるユシルをほんの少しにらんだ。

「つまり、流されたカナトを助けずにのこのこと戻ってきたのか?」

「違う!助けようとしたけど、ダムが開かれて、水が急に流れ込んだことで間に合わなくて……」

偽ユシルが目に溜め込んだ涙を見てアレストはますますイラついた気持ちになった。

最近ムカデに頼んだことがどんどん終わりに近づいてきた。そのため中間連絡としてムソクが相互の伝達をしている。だから今回の外出にアレストはムソクをつけなかった。

それにはもう一つ、カナトには入れ込みすぎないように、アレストは自分を律していた。あくまでカナトへの気持ちは、周りより特別だけどそれはペットへ向ける感情と同じにしなければいけない、と押し留めていた。

それがまさかこんなことになるとは思わず、酷い後悔の念が押し寄せる。

後悔?心の中でつぶやいてアレストは笑いそうになる。

「捜索はまだ続いているのか?」

「うん……でも見つからないから、もしかしたら」

偽ユシルが顔を上げた時、あまりにも冷たい目と合ったことで思わず呼吸すら忘れて固まった。

「に、兄さん……?」

「まだ断言できないうちはそういうことは口に出すな。いいな?」

「は、はい……」

「すまない。責めるつもりはないんだ。ただ、カナトは僕にとって特別な使用人だから」

「特別?」

「ああ。とても、特別だ」

ゆっくりと区切って言うところに何かねっとりとしたものを感じた偽ユシルは、その特別がなんなのかを知りたかった。だがそれ以上言うつもりがないのか、アレストは立ち上がってムソクに捜索の人員増加を言い渡した。

ユシルはうつむいて眉を寄せた。

もういっそうアレストにも惚れ薬を使う?でもカナトを見ているとわりと完全に惚れ込むには程遠いように感じる。アレストは察しがいいから慎重にいったほうがいいかもしれない。いや、でも量を増やせばあるいは………。














「げぼっ!!」

水を吐き出したカナトはゲホッゲホッと咳をしながら握りしめたユシルを見ようとした。同じように咳をして水を吐き出している。

「ユ、シ"る、だいじょーーゲホッゲホッ!」

「カナト!大丈夫?待ってて、魔法使ってみるからね」

淡い光とともにカナトは息苦しさがなくなっていくのを感じた。

「ケホ、ケホ!あぁ、苦しかった。あっ、声戻った!」

「大丈夫?」

「大丈夫!つーか誰だよ俺を後ろからぶつけたやつ!水に落ちるわ、脚はつるわ、水に流されるわと大変だったんだぞ!次はなんだよ!石か!?」

言ってる間に頭上からドンッと拳大の石が落ちてきた。

「………」

嘘だろ?今日って俺の厄日か何かか?

周りは確かに岩肌の洞窟らしき場所である。石が落ちない確率はないとは言えない。だからといって最悪なことが連続しすぎている。

ユシルはどこか厳しい表情でその石を見ていた。

何かがおかしい。偶然にしては出来すぎている気がする。

ユシルはふとカナトが偽物から何かをもらっていたことを思い出した。

「カナト!私の偽物から何かをもらっていたよね?」

「この飾りのことか?」

カナトはクロスタイの赤い宝石の留め具を指差した。

ユシルがスタタタッと服を這い登ってえり付近に来るとその赤い宝石の留め具をじっと見た。目を細めてしばらくすると急に威嚇音に近い声を出して口で留め具を外し、それをペッと地面に吐き出す。

「この泥棒猫!人の恋人を召使いみたいに扱っておきながらカナトにも魔の手を伸ばして酷い!次は誰!?兄さんなの!?どうして私の大切な人ばかり傷つけるの!許せない!!」

留め具をその小さい足でペシペシ踏みながら怒るユシルを見て、カナトはポカンとしたように目をしばたたかせた。

「ユシル?」

「カナト!この留め具は呪いがかけられているんだよ!」

「呪い!?」

「そう!これを持っている限り、その人は死ぬまで悪運に取り憑かれてしまうんだよ!死ぬことだってあるの!きっと不運の連続はこれのせいだよ!」

「あのパチモン!!俺を殺すつもりなのかよ!!」

カナトも起き上がってガンッガンッと金具を踏んだ。

「クソがふざけんな!!人の男にベタベタベタベタと触れやがって地獄に落ちろ!!俺に惚れ薬使いやがったことも忘れてねぇからな!次会ったからテメェのはらわた引きずり出してミンチにしてやる!!はぁ、ペッ!!」

それでも怒りが収まらないのか、ユシルはフーッフーッと荒い息を吐き出しているカナトの足もとに来てなぐさめるように手を置いた。

「カナト、前に拷問の部屋で言ったことは覚えている?」

「ん?」

「やっぱり覚えてないんだね……ほら、どうしようもなくなったらもう1人の自分を想像して『解放』と唱えてみてって言ったよ」

「そんなことあったな。そこから意識なくしてるからなぁ」

「そうだよね。ごんめんね……完全に回復させることができなくて」

「気にすんなよ!なあ、唱えたらどうなるんだ?」

「私と同じように意識体で活動できるようになるよ」

「マジで!つまり俺もハムスターになるのか?」

「それはどうかな。意識体は人それぞれだから、一概に動物になれるとも限らないし。あの拷問の部屋でカナトには意識体で活動できるほどの魔力を注ぎ込んでみたから、試しみるといいよ」

「よし、試すか!!」

カナトは言われた通り、危ないからと横になりながらもう1人の自分を想像してみた。すると、目の前を白い何かが横切ったのを

「お?なんか白い鳥みたいなの飛んでいったな」

「もしかしたらカナトの意識体は鳥かもしれないね」

「マジか!タカかな!」

「そのまま途切れずにもう1人の自分を想像して。なんだか体がポカポカしてきたら解放って言うんだよ」

「わかった!」

カナトはワクワクしながら目の前を光に包まれた何か白い鳥が飛んでいるのを視た。すると言った通りに体がポカポカし始めてきた。

よし、かっこよく言うぞ!

「解放!!」

カナトの体から白い煙がもくもくと出始め、その煙が毛糸のように集まって大きくなった。本体の体から少しずつ力が抜けていき、煙が地面に降り立つとポンッと霧散むさんした。

カナトは目を開けるとどこか固まったユシルを見て興奮気味に訊いた。

「どうだ!?タカなのか?それともハトなのか?もうこの際大きければなんでもいいや!」

カナトは自分の目線がユシルと大して変わらないことに気づかず、トテトテと洞窟を出て川に近づいた。

流れが早かったせいなのか、川から盛り上がった水は洞窟と川のあいだを濡らしていたが、石のある部分を選んで、飛びながら川辺までくると自分の姿をのぞいた。

しかし、そこに映ったぬいぐるみみたいな姿に「ギィアアアアアッ!!」と悲鳴をあげる。

口を開けながら固まったカナトの背後に近づき、なぐさめながらユシルはそのもふもふな背中をなでた。

「だ、大丈夫?カナト。その、こっちの世界では見ない種類の鳥だね!そっちの世界の品種かな?」

ユシルは戸惑いながらちらっと川の中をのぞいた。まだ少し濁り気味の川に愛らしい姿の小鳥が映っている。しかし、その顔はショックからなのか口を開けたまま目をかっ開いていた。

カナトを盗み見る。まったく同じ顔をしている。

くりっとした丸い目にもふもふした毛に覆われた小鳥はユシルから見たらものすごく可愛いが、タカのような猛禽類もうきんるいやカッコいい鳥類を想像したであろうカナトから見ればショックだったに違いない。

「カナト………」

「なんで……シマエナガなんだよ……」

それはカナトの世界で絶大な人気をほこっている雪の妖精こと、冬バージョンのシマエナガであった。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...