転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

悪役の名前

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「今日は来客が多いな」

キトウはジト目でカナトを見つめた。逆にカナトは夕食代わりのパンをかじっていた。

アレストに、お腹をすかせるとまた腹痛になるから何か食べた方がいい、とハムと野菜をはさませたパンを渡されてキトウの部屋へ向かった。

「何?夕食すら与えられなかった冷やかしか何か?」

夕食を与えられなかった?じゃあ今日廊下で見かけたあのメイドはなんだ?

カナトが後ろに立つアレストを振り返った。最初はアレストも部屋に入ってくるのに少し抵抗を感じたが、心配だと言われると何も言えなくなってしまった。

視線を受けてアレストは軽く肩をすくめて言う。

「寝過ぎて料理が冷めてしまったらしい。だから目が覚めた時に持ってくるよう言ったが、起きたなら使用人に言えばいいのに」

「このゲスが!手足縛ってどうやって言うんだよ!つーか、お前食べ物に何か入れただろ!あんな眠気普通じゃない!途中まで食べていたら急に眠気が襲ってきて、おかげで食べ損ねたよ!」

「ふむ。手足を縛る理由に関してはきみ自身が一番わかっていると思うけど。暴れられると怪我をするかもしれない。だから縛った。食事に関しては僕が用意したわけじゃない。でも弟のために食材に気をつけるよう言うよ」

「黙れ!何が弟だ!お前そもそも俺がユシルじゃないとわかっーー」

アレストは身を屈めるとパッと手を伸ばしてキトウの口をふさいだ。空いてる手の人差し指を口もとに持っていき、静かにするよう目で忠告した。

「あんまり不利なことは口に出さないほうがいいんじゃないか?」

「うぅーっ!」

アレストが手を離すと、ねめつけながらキトウが毒々しく吐き出す。

「さっさと殺されて死ね」

「僕はいったい誰に殺されるんだ?」

その言葉にカナトが一瞬冷やっとする。

「その笑い顔見ているだけでイラつく!何しようとしてるかわからないが、周りに気をつけるんだな!」

「その親切、受け取っておく。ありがとう」

キトウは肩で息をしながらにらみ上げたが、それ以上の会話を拒むように顔をそらした。

カナトは頃合いとばかりに最後の一口のパンを食べ、アレストを少し遠い場所に置いて「ここから動くなよ!」と視線で念押してからノートとペンを取り出し、キトウの目の前で書き出した。

『アレスト以外に悪役いるのか?アレストにバレないように言えよ!』

「は?アレストにバレないようになんだって?」

「て"ぇ、め"!!」

キトウはニヤニヤ笑っていたが、一瞬だけ体が固まったあと、ふうとため息を吐き出した。

「まあいいや、というか読んでなかったのか?」

『この世界の小説?』

「当たり前だろ」

『アレスト以外に悪役はいなかったぞ!』

「ああ、なるほど。あっちの読んでないのか」

『あっちでなんだ?はっきり言え!』

「ほら、主人公側にクールで律儀なキャラがいただろ?」

カナトは思い出してみた。確かにそんなキャラがいた。騎士団の副団長として出てくるイグナスの親友キャラである。

物語後半では、騎士団の団長が違法な金に手を染めた事で罪に問われ、副団長が団長として就任することになる。

『そいつがどうしたよ?』

「そのキャラが主人公になる作品があったんだよ。まあ、いわゆるスピンオフ作品だな」

そんな作品あったのか……!

カナトが好奇心に素早くペンを走らせた。

『それで?どんな物語なんだ?副団長は誰とくっついた?やっぱりあのちゃらんぽらんな商人か?』

「いや、ちゃらんぽらんは当て馬だ。というか、お前質問の目的忘れただろ」

カナトが、そうだった!と驚いた顔になる。キトウはそっぽむいて、はっ、と笑うと続けた。

「やっぱりバカだよなお前」

『いいから!悪役って誰だよ!』

「そのスピンオフ作品の悪役が……」

キトウの目がアレストを見る。

カナトは仕方ないと眉を寄せながら耳を近づけ、とんとんと耳たぶをたたいた。

キトウは声をひそめて、

「フェンデルだよ」

パッとカナトが驚いたように身を離した。

フェンデルが?

正直今のカナトにとってその名前はあまり聞きたくない。聞くだけで体の傷跡が痛みだしそうになる。

『フェンデルって闇金みたいな銀行の?』

「そう、それ。なかなかのゲスッぷりだし?」

それはカナトが身に持ってよくわかっている。

『悪役っぷりはどうなんだ?』

「あー……匹敵するくらいかな」

匹敵?

主語がないためかカナトがトンチンカンな顔になる。それを見たキトウは膨大なため息を吐き出しそうになった。

察する能力ないのかよ、こいつ。

「誰かさんみたいに性格が似てるんだよ。よく笑っているとことか、手段のゲスさとか」

まさか、アレストのことか?フェンデルってアレストに匹敵するくらいの悪役なのか!?

フェンデルが今アレストと手を組んでいるけど、大丈夫か?じゃあ、デオンは?デオンもスピンオフの悪役か?

『デオンは?』

「は?誰それ……あー、いや思い出した」

キトウがなぜか愉快そうな笑顔になる。

「そういうことか。なるほどね。もう一度耳近づけてみな?教えるからさ」

カナトは警戒しながらも耳を近づけてみた。

「かわいいなぁ」

そうつぶやかれるのが聞こえてきたと同時に頬に柔らかい感触が触れた。

キスされたとわかったカナトは頬を押さえたまま立ち上がってズザザッと後ずさった。

「何するんだよ!!」

驚いたせいなのか声が戻っている。

「なんだ。普通の声でいけるじゃん」

「お、お前……」

「カナト」

アレストが怒りで歯を噛みしめているカナトの肩に手を置いてなだめた。

「大丈夫。ちゃんとあれにお仕置きするから。今日はもう帰ろう」

「か……帰る!!」

手に持ったノートを投げ出しそうなカナトはなんとか我慢してドアを開けて思いっきり閉めた。

アレストはキトウの前にひざまづいて落ちたペンを拾い上げた。尖った先がキトウの足に向けられる。

刺されるか、そんなことを思ったが、アレストは軽く笑ってペンを指の上で回すと立ち上がった。

「あまり線を越えないように。僕の大切なユシル」

「……キトウ」

「ん?」

「俺の名前はキトウだ」

「わかった。覚えておこう」

アレストはドアを出る際、目に陰鬱なものをたたえてキトウを振り向き、口を上げて笑った。

その姿が部屋から消えるとキトウは、はあ、とつめた息を吐き出して床に倒れ込んだ。

アレストはあきらかに怒っている。それは間違いない。

どのみちアレストが自分を許すはずがないなら、いっそう賭けてみるしかない。











部屋に帰ったカナトは布団に顔を埋めながらむしゃくしゃした。

何度も頬をこすってキスされた感触を消そうとした。

いくらユシルの体とはいえ、中に入っているのが他人だと思うと気持ち悪くてしょうがない。

「そんなにこすったら顔に傷がつく」

アレストは顔をこすっているカナトの手を取り、背中とひざ下に手を差し入れると自分の脚に乗せた。そして響かないよう腰の位置にそっと手を置いている。

「でも感触が……」

アレストはカナトのこすりすぎて赤くなった頬を親指でなでると軽く口付けをした。

「や、やめろ!まるで間接キスみたいに……」

「ならない。これはただの消毒だ」

「そ、そうかよ」

「あの人もカツラギと似た感じか?」

カナトの体がビクッと固くなる。

「………」

「そんなに緊張しなくていい。別にあの中身がなんだろうと僕には関係ないからな。それより、今声が戻っているんだから、僕に何か言うことはないのか?」

「言うこと?何かあったっけ」

「ほら、告白」

そうだった!とカナトがふたたび固まった。

こ、告白だ!忘れていた!

「ノ、ノート!」

カナトがベッドに放り出したノートを探すために腰をひねると、ズキンとした鋭い痛みが襲った。

「っ~~!!」

昨夜頑張ったあの部位の腫れも相まって顔が瞬時に真っ赤になる。

恥ずかしい!

「大丈夫?」

「だ、大丈夫」

「ノートなんてなくてもいい。きみから愛していると言ってもらえるだけでいい」

「でもそれだと簡単過ぎないか……?」

「きみが言う愛していること自体に意味がある。長さも複雑さも必要ない」

それでも恥ずかしさに少し迷ったカナトは、散々間を開けてからやっと口を開いた。

「あ、愛してい、る……」

言いながらその語尾が消えかける。

「ははは!やっぱり可愛いなカナトは!」

「可愛いって言うなよ」

「あ、そうだ。明日パーティーを行うからカナトも参加するか?」

「おい、話題そらしただろ。さすがに俺でもわかったぞ。で、俺は何すればいい?」

「おかしなことを言うんだな。カナトは何もしなくていいよ」

「……そう、か」

「パーティーが終わったら領地へ帰ろう」

領地……領地?

そういえば今アグラウがやばい状態だと思い出したカナトは、せめて毒殺を阻止しないといけないことも思い出した。

今から準備しないと!!


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