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第四章
潜入
しおりを挟む夜寝静まった頃、アレストはカナトがシーツの下に隠したノートを引っ張り出した。
その内容を見てふっと笑う。
「キトウもきみも、僕が死ぬのをまるでわかっているようにいうのだな」
もし本当にそうなら、排除してしまえばいい。
例えば自分の名前の隣に書かれたイグナスの名前など。
ノートを閉じでまたもとの場所に戻す。
アレストはカナトを腕の中に囲んで、その体温を感じながら眠りについた。
朝、アレストが出かけたのを玄関で見送ってから部屋へと戻り、ムソクには何か音が聞こえても絶対に入ってくるなと釘を刺してドアを閉めた。
窓を開けるとベッドにぱふんと体を投げ出して意識体を出した。
3回目だからなのか前と比べて出しやすくなった気がする。なんだか意識体になるまでの時間も短縮された気がする。
「よし、キトウに会いに行くか」
窓辺に来て一度ドアを振り向き、ムソクが入ってこないのを確認して飛び出した。
街中を飛び回りながらカナトが感じたのは後悔である。キトウが送り出されたそのしかるべき機関とはどこなのかまったくわからないため、どこへ飛んでいいのかわからない。
あちこち飛び回ったせいでへとへとになったカナトはよろっと屋根の上に止まった。
飛ぶってこんなに体力使うんだな……。
仰向けになりながらくちばしを開けて息をしていると、街中の喧騒とした話し声も聞こえてくる。
「魔女が現れたんですって」
「まあ、怖いわぁ。まだ生きていたんだね」
「しかも噂だとヴォルテローノ家の実子らしいよ」
「そうなの!?」
「あら、憑かれているという噂じゃなかった?」
いろんな話し声が魔女一色である。
カナトは起き上がって人々を上から眺めた。
みんな魔女の話ばっかだな。すでにユシルが魔女に憑かれていることにされたみたいだし、早いうちになんとかしないと危なくなる。
もともとユシルが魔女であることは原作でもイグナスくらいしか知らない。ふたたび世間に魔女の存在を知られるとやっかいなことになると言われるだけで、何が起こるのかは言及されなかった。
原作は魔女がどうのこうのを中心に進むのではなく、あくまで主人公受けであるユシルの特別な力として書かれている。描写される場面だって占いやちょっとした未来視だったりする。
今のように意識体や転生者、記憶どうとかの複雑な描写はない。
カナトが思わず泣きそうになる。
どうするんだよ……原作ですら書かれないことをどうやって対処するんだよ。知っていても対処できなかったんだぞ。イグナスはユシルを連れて帰るし、アレストはあんな調子だし、せめてカツラギがいてくれたらよかった。
しかしいつまでも悩んでいるわけにはいかない。日程が緊迫しているので早くキトウを見つけなければいけない。
カナトは休憩を終わらせると翼を広げて飛び出した。
周りを見てとにかくインテリぽい感じの人を探した。なんとなく機関と聞いて仕事ができそうな人のイメージがある、という簡単な理由からだった。
そして飛び続けていると奇しくもそんな人たちを見つけた。
全員同じ赤いコートを着た男たちが真面目な顔で酒場の前にいる。
出てきた同じ赤いコートの男を迎えるとそのままゾロゾロとどこかへ行く。
カナトがやっと見つけたヒントかもしれない男たちに嬉々とついていった。
運がいいのか悪いのか、カナトは確かに執行官と呼ばれる集団に会い、“しかるべき機関”へとたどりついた。
赤いコートの男たちはそれぞれ2つに分かれ、一方はそのまま街を回り、もう一方は白い建物に入って行った。
迷ったあと、カナトは男たちが酒場で迎えた男が率いるほうについていった。
建物怪しいし、あの酒場から出てきた男偉そうだからすごい人だろ!
実際それは他の赤いコートの男たちの反応からもうかがえた。
カナトは鳥の姿だということを利用して、建物をあちこち回って大おおぴらに窓から中へ潜入した。
建物の影に隠れながら進むと、とある部屋から光がもれていることに気づいた。近づいてそっと取っ手に止まると顔を木製のドアに押し付ける。
「お待たせしてすみませんねぇ。で、なぜ計画を急遽変えたんですかね?結構準備、進めていたんだがね」
低く挑発にまみれた声が聞こえてくる。
「今回のことは予想外だった。正直驚いているよ」
「でも本当に魔女が存在するならそれを利用するに越したことはないですしねぇ?ウェンワイズ家のあのアホもここで役に立つとは」
「確かに。それはそう。あとはアレストに任せるとしよう」
突然アレストの名前が出てきてカナトが目を丸くする。
なんでアレストの名前が出てくるんだ?
それによく聞けば、「アレストに任せるとしよう」とそう言う男の声がどこか聞き覚えがある。
気のせいか?
「ちなみになんですが、アレスト殿が使用人を可愛がっているという噂を小耳にはさみましてね、あれはどうです?」
「……不思議と前々から知っている、と言いたいくらいなんの違和感もないね。まあ、あの人が不利益を自分から受け入れるとは思えない。何か考えがあるのだろう」
「それならいいんですよ。俺たちはほら、やっていることがバレたら王家に打首されかねないですから」
「それどころではない。厳しい拷問を受けたあと、死体をそのまま烏に食べさせ、骨を獣たちに持っていかれのるだろうね。恐ろしい」
「ハハハッ!!それはいい!ああ、笑いすぎて涙が出てしまった。ま、無駄話はここまでにして、そろそろ向かいましょうか、アレン殿」
「そうしよう」
アレンという懐かしい名前が出たことでカナトは反応に遅れた。足音が向かってくると気づいて慌てて離れようとするが、それよりも先にドアが開き、飛び出そうとしたところ顔面を強打された。
「へぶっ!!」
ごろごろと地面を転がっていく。
出てきた男は「誰だ」と廊下を見る。が、見えたのは震えながら立ちあがろうとする小型の丸い鳥だった。
「鳥?」
男の背後からフードに黒い仮面を被った背の高い男が出てきた。
「浄化機関の本拠地には鳥を飼っているのか。見たことのない種だね」
「なわけありますか。浄化機関はどういうところだと思ってます?言っちゃえば魔女の拷問機関ですよ。鳥なんて飼うくらいなら食べますね」
「しかし、こんな種は見たことないな」
カナトがあまりもの衝撃に立ち上がってもよろよろし、目の前がまだ回っているような錯覚の中、体がパシッと何かに包まれて持ち上げられた気がした。
頭を揺らし、目をこらしてみると見えた黒い仮面とフードに思わず叫び出しそうになった。
高い背に本能的に縮み込んでしまう。
10
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