転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
130 / 241
第四章

誰よりも特別

しおりを挟む









アグラウに会った日からカナトは必死にお世話のルーティンを覚えるようにした。

まずは一日中誰が来るのか、どの時間帯に人が少なくなるのかを記録するためである。アグラウを連れ出したければ正攻法か違法かのどちらかになる。

ただ一つ問題があるとすれば、最初の3日は一日中クローリーについて回ったが、それ以降はほぼ半日程度しかアグラウに会えなかった。

そのためカナトは今日アレストの事務室に来て直談判しにきた。

「ア~レ~ス~ト~」

仕事中のアレストの背後に周り、その肩をもみもみしながら甘える。

「お願い~」

「どうしたんだ?何が欲しい?」

「そうじゃなくて!その、アグラウのお世話もっとしたいなーって思って。もちろんがんばって仕事覚えるから!」

「ふむ………カナト、最近父様の食事自分のと変えているのか?」

「え?」

「たまに庭師から土に食事が埋められていると教えられてな、野良猫などに掘り返されるそうだ。あと景観もよくないらしい」

「べ、別の人がやったんじゃないかな?」

「そうか?掘り返されたものを見てみたが、どれも父様のために用意された食事だ」

「………」

「最近腹痛もよく起こす気がするし、お菓子を求める頻度も増えた。食事を抜くのはよくないな」

「いや、その……」

「どうしてこんなことをするんだ?父様のために用意された食事は体調に合わせているから、勝手に変えたらダメだ」

「ご、ごめん。その、アグラウにもっとおいしいものを食べてもらおうと……はは」

どれに毒が入っているのかわからないため、自分の食事とこっそり変えるしかなかった。しかしそれを口に出すわけにはいかない。

なんだか問い続けられそうな雰囲気に、カナトは転機をきかせてソファにだいぶした。そして意識体として出てくると翼をはためかせてアレストの肩に乗る。

「アレスト~お願い。もう勝手なことしないから、もっと恩返ししたいなー」

言いながらぐりぐりと頭をこすりつける。

「……おかしいな」

「おかしい?」

「きみを助けたのは僕だし、父様に恩を感じたからといってそこまでする理由に思い当たらない。父様においしいものを食べようと自分の食事をあげるなんて、僕ですらしてもらったことないのに。嫉妬してしまうな」

「えと……次から必ずお前にも持ってくる!必ず!」

「ははは!そんなことしなくていいよ。ただ、きみがいったい何をしたいのか検討がつかない」

すきを見てアグラウを連れ出すため、と正直に言えばまた鎖とかつけられる気がする。カナトはなるべく表情を見られないように顔をそらした。

「その、いろいろと……」

「そっか。それなら仕方ない。そうだ、そろそろ温室が出来上がるかも知れないから、そのうち連れていくよ」

「温室?」

「ああ、きみが言っただろ?」

アレストは指を差し伸べてカナトを乗せ、正面に持ってきた。

「緑に囲まれた場所でしゃべれる鳥がたくさんいたらなぁ、と。だから手紙で手配するようにしたんだ。ちょうど使っていない温室があったから、そこを改装して使うつもりだ」

言ったけ?いや、言ったな。鳥の姿について訊かれた時ごまかそうとしてとっさに言った言葉だ。

覚えているのか?覚えていたとしてあれを実行するのか?

青い瞳がじっと呆けたカナトを見つめた。

カナトは前々から少し気づいていた。なんだか自分を見るその目が少し変わってきていることに。以前と違って、執着する感情の中にもっと何か別のものが混じり始めたように思える。

以前の視線がからんでくる植物のツルとすれば、今の視線はまるでねばっこい蜂蜜のように感じる。

ねっとりとした何かが全身を包み、動きにくくし、もがいているあいだに捕食されそうになる、そんな感覚だった。

「いや、でも温室までは………」

「他に何が欲しい?水浴び場は必要か?」

「い、いらない……」

カナトはなんだか不安に感じて自分の体に戻ろうとした。

だが足をきゅっと押さえつけられて前のめりに落ちそうになる。なんとか指で押し戻されてことなきを得た。

「何するんだよ!」

「すまない。なんだかきみが逃げていくように感じてしまって」

「逃げねぇよ!」

「本当にずっとそばにいてくれるんだな?」

「どこにも行かねぇって」

実際アレストから離れようという気はない。

しかしそう言ってもアレストは意味深い視線のままカナトを離そうとせず、長い沈黙のあと、先に耐えられなかったカナトが「お腹すいた」と言うことで解放された。

「何が食べたい?」

「なんでも……あ、肉!!」

「それだとお腹に負担がかかる」

「大丈夫!今意識体だし?この体なら大丈夫だろ!!のどがガラガラ声の時も意識体なら普通の声帯に戻っていたし、絶対いける!!」

キラキラとした懇願こんがんの目線にアレストは折れてしまった。

「わかった。用意させよう」

「よっしゃー!!」

肉料理を持ってくるよう下の者に伝えると、ワクワクが収まらないカナトは部屋のあちこちに飛び回っていた。

しかし待てと料理は持ってこられない。

「まだ来ねぇのか?」

事務机の上で翼を広げながら溶けていたカナトがため息を吐き出した。

「もしかしたら今日はリアムかもしれない」

「リアム?クローリーの息子?」

「そう。彼が担当の場合いつも少し遅れる。もう1年ほどこの屋敷で暮らしているけど、年は14で、昔のきみとちょうど近い」

「1年も暮らしてんのかぁ。というかお前よく人拾うよな」

「あの2人はたまたまだよ。記憶がなかった期間、無意識に彼をきみに重ねて見えたのかもしれない」

「……そうなのか」

ほどなくしてドアがノックされた。

「アレスト様!リアム・クローリーです!」

「入っておいで」

リアムにかける声は優しい。カナトが思わず振り返る。

「失礼します!」

リアムはうれしそうに紅潮させた顔で部屋に入ってきたが、視界の端でとらえたものにパッと顔を向ける。

カナトの本体が死んだように寝ているのを見て顔が瞬時に強張る。

「ア、アレスト様、あの使用人は……」

「気にしなくていい。食事を休憩スペースのテーブルに置いてくれ」

「はい……」

リアムが休憩スペースのテーブルに食事を置くとちらっとカナトの本体を見た。

「その、怒らないのですか?」

「怒る必要がない。この屋敷でカナトは何をしてもいい」

「どうして……この使用人だけそんなに大事なんですか?旦那様のお世話だって、任せているし……」

「特別だからだよ。誰よりも」

リアムがぎゅっと唇を噛んだ。

「もしかして、食事も……」

「ああ、カナトのためだ。お腹が弱いからあまり肉は食べられないけど、今回は特別だ。だから厨房にも伝えて欲しい。あまりカナトに消化の悪いものを与えないようにと」

その言葉にカナトがキッと頭を持ち上げてにらむ。

「……わかりました。あれ?」

リアムもシマエナガ姿のカナトを見つけた。

「うわぁ、可愛いですね!なんていう種類の鳥なんですか?」

「インコかオウムの種類だよ。たぶん新種」

「すごいですね!アレスト様は鳥がお好きなんですね!」

「ああ、好きだよ。リアム、そろそろ仕事に戻らないとダメだろ?」

「あ、はい。すみません。失礼します」

リアムが慌てて退室するとカナトがアレストの頬に小さく頭突きをした。

「余計なこと言うな!」

「心配だからだ」

アレストは笑いながらカナトの体をなでた。

「ほら、肉早く食べないと冷めてしまう」

「そうだった!俺の肉!!」

ビュンと肉のそばまで飛んだカナトは足とくちばしを使いながら貪り始めた。

「うまい!」

「よかったな」

「うんうん!」

アレストは目を細めてその光景を眺めた。まるでもう二度と見ないだろうとばかりに、目に焼きつこうとする。

「カナト」

「ん?なんだ?」

「父様の世話の件だが、きみのやりたいようにすればいい。もっと世話したいならクローリーさんにも話をつけておく」

「マジで!?」

あまりにもうれしくなったカナトはアレストのそばまで飛んで、肉汁と油まみれのくちばしでちゅっとキスをした。

「しまっ!油が!」

「ははは!」

「笑うな!」





しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...