転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

アグラウの容態

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帰還の日。

馬車に揺られながらカナトは窓から頭を引っ込めた。

「もうすぐ領地に着くからそわそわしてしまうか?」

「え?あ、うん……」

「何か僕に言いたいのか?」

「わかるのか?」

「反応を見ていたらな。言ってみて」

そう言われるとカナトはもじもじとして自信なさそうに口を開いた。

「あのさ……俺って役に立っているか?」

「もちろん」

「お茶とかこぼすし、仕事も覚えられないけど……いや、身分不相応だってわかっているけど、その、アグラウの面倒って俺も見れないか?」

「父様の?」

「そう!ほら、今って危険な状況だろ?一応アグラウに助けられたこともあるし?だからお返しがしたいなぁって……どうかな?仕事も頑張って覚えるからさ!」

アレストは考えるように黙った。

「……そうだな。そんなにしたいなら試してみるか?」

「いいのか!」

「うん。父様の世話係に話を通しておくから、一緒に頑張ってみるといいよ」

「ありがとう、アレスト!」

アレストはただよろこぶカナトににっこりと笑いかけた。












領地についてからカナトはずっといつアグラウに会えるのかと聞いた。しかし、今日はもう遅いという理由で会わせてもらえず、なだめてもらいながら久しぶりにアレストの部屋へと帰って来た。

「おっ、猫たちがいる!ホロロも!」

「結構長いあいだ会ってなかっただろ」

「うんうん!」

カナトは笑顔で猫たちに抱きつこうとしたが、警戒されてベッドの下へと逃げられた。

「あれ?おーい、俺だぞ」

だがいくら呼びかけても出てきてくれず、ベッドの下に手を伸ばしても猫パンチを喰らうだけだった。

「おかしいな……前は出てきてくれたのに」

落ち込んでいるところにアレストは近づき、床から立たせると服をはらってあげた。

「一応動物たちもきみのことを忘れているのかも知れない。そうじゃなくても2年は経ったから少し人見知りになっていると思う」

「そ、そっか……動物まで影響が出るのか。ホロロも俺のこと忘れたのか?」

「カナト!」

ホロロが翼をバサバサさせながらカナトの名前を呼んだ。

「お、お前!俺のこと覚えているのか!」

「カナト、カナト、カナト!」

「そうそう!俺!」

カナトは檻に近づいてぎゅっと抱きしめた。

「お前よく覚えていたな!」

カナトが楽しそうにする一方、アレストは荷物持ちの使用人に目配りをして下がらせた。

ドア付近に置かれた荷物を床そばに置き、アレストはカナトを後ろから抱きしめた。

「うおっ、な、なんだ?」

「お帰り、カナト」

「ん?おう、ただいま!」

だがまだ離されない。

「アレスト?」

「今度こそずっとそばにいてくれるか?」

「当たり前だ!もう離れないって約束する!」

「よかった」

アレストはカナトの顔に手を当て、そっとキスをした。

そのキスが少しずつと深くなり、いつの間にか向かい合わせで抱き合った。

「ア、アレスト……うっ」

背中にそえられた手が服の中に侵入し、傷跡をなでた。

「い、今するのか?」

「いやならしない」

「いやってわけじゃ……」

手がさらに服の中へ入り、ゆっくりと体の敏感な場所をなでていく。

「………っ」

アレストはカナトの体を持ち上げるとすとんとベッドに置いた。

「今の僕にとってこの世で唯一心から信じたい人がきみなんだ」

そうやってまっすぐな言葉をぶつけられると体の底からうずうずしてしまう。カナトは恥ずかしさを隠すようにぐるっと回った。背中を向けながら、

「お、俺も初めて好きになったのお前だけだからな」

「それはうれしいな」

アレストはゆっくりと身を伏してカナトの全てを思うままにむさぼった。














当初のように何時間も、というわけにはいかなかったが、それでもカナトは疲労困憊で眠りかけた。

「おやすみ、カナト」

「いや、まだ寝たくは……」

言いながら、好きな人に抱き込まれて、頭をなでられ、温かい布団に包まれるとまぶたが重くなってくる。

「……少しだけ寝る」

「うん」

しばらくして、カナトが確実に寝たのを確認してから事後の片付けをすべて終え、アレストは着替えると部屋を出た。

廊下でひかえていたムソクが軽く一礼をする。

たちは今何をしている」

「命令待ちです」

「あと少しで動く」

「いつでも行動できるよう伝言いたします。……あの」

「なんだ」

「兄は……いえ、なんでもありません」

「そうか。それなら何かあれば随一伝えろ。そしてあのクモには気をつけろ」

「はい。クモはすでに組織から抜け出た存在なので、組織内のことは知らないはずです。何かおかしいと気づいて探っているようですが」

「かまわない。ある程度情報をつかませておけば油断しやすくなる」

「わかりました」

アレストはそのまま廊下を進んだ。しかし、二、三歩進んだところで振り返り、わずかに微笑んだ。

「きみの兄のことなんだが、最近報告書で隠し事が多くなったんじゃないか?」

「っ!」

「シドに頼んでいたものと一致しない。報告書はムカデのほうがうまく作ってくれるから、人は変えたくない」

「……伝えておきます」

「頼んだよ」

去っていくアレストの背中を見つめ、ムソクは両手を握りしめた。自身も兄が何を考えているのかよくわからない。

クモの痕跡を見つけた時でさえ“予想外の事故”が起きて追えなくなってしまった。そのクモを追っていた人物がムカデである。













それから数日。

屋敷の中はほとんどカナトの知らない使用人になった。厨房で働いていたエルサもいなくなり、カナトだけ特別扱いなのを快く思わない使用人が増えてきた。

さすがに2年も経てば知らない人は増えるだろうけど、使用人一新したか?

そう思わずにいられないほど見知った顔ぶれがない。

アレストの事務室へ向かいながら、今日こそアグラウに会わせてもらうぞ!と気合を入れた。ここ数日いくら頼んでも何かと理由をつけて会わせてもらえなかったのである。

なんなら帰ってきた翌日はカナトの事後の腰痛を理由に断られていた。

ドアの前にくると深呼吸をして、息を吐き出すと同時に開けると声を張り上げた。

「アレスト!今日ーー」

事務机の前でメイドと話していたアレストが振り向いた。

「ちょうどいいところに来た。カナト」

おいで、と手まねきをされる。カナトが不思議そうにしながら近づいていくと、栗色の髪をした少しばかり年長に見えるメイドを紹介された。

「この人はクローリーさん。父様の世話をしてくれている」

「おお……」

「今日からこのと人一緒に父様の世話を任せられるかな」

「あ?い、いいのか?」

なんで急に会わせてもらえたんだ?今までいくら頼んでもかわされたのに。

「最近は父様の容態がいいみたいだから、いいタイミングだと思って頼んでいるところなんだ」

クローリーと呼ばれた女性はお腹あたりで手をそろえて頭をわずかに下げた。

「頼んでいるなんて、アレスト様のお言葉でしたらなんなりとお申し付けください」

「じゃあさっき言ったことは任せられるか?」

「もちろんです。お任せください」

「ということだから、クローリーさんが今から父様のところに連れて行ってくれる。カナト、がんばれ」

「あ、ああ……がんばる!」

なんか、順調?過ぎか?

「カナトさん、私についてきてください」

「わかった。じゃあ俺行ってくる!」

「いってらっしゃい」

アレストに見送られながらカナトはクローリーとともに部屋を出た。

廊下を進んでいくとツンツンとした視線を感じる。

「俺なんかしたか?めちゃくちゃ見られるんだけど」

「おそらくあなたの待遇ですね」

「待遇?」

クローリーはちらりとカナトを振り返ってから言う。

「アレスト様が首都で連れ帰った使用人を可愛がっているという噂がこちらまで伝わっているので」

「嘘だろ!?」

とはいえ、視線がツンツンしすぎな気もする。

現代に帰る前は同じ状況でもここまで肋骨な視線はなかった。むしろいい意味で、メイドを中心に使用人たちのあいだでアレストとくっつかれて見せ物みたいな状況にある。

やっぱり記憶にないとこうなるか。いや、こう思われるのが当たり前か。

思えば専属使用人でありながら何もしなくても大事にしてもらえるのは確かに、他の人からしてみればおもしろくないのかも知れない。

だがカナトが使用人に向かないのもまた事実である。

アグラウがいると言う部屋がこの廊下の突き当たりだと教えられた時、ちょうど突き当たりの部屋の前で立ち塞がる人物が見えた。

栗色髪の少年がカナトをにらんでいた。

「あの子は私の息子のリアムです」

「息子か。髪の色同じだな!」

「ええ。私たちは無一文でさまよっていたところ、アレスト様のご好意でこうして屋敷で働かせてもらっています。リアムもアレスト様にはよく懐いています」

「へぇー。やっぱあいつ優しいな」

クローリーはカナトを反応をうかがったが、特に反感は見当たらなかった。その言葉も心から発したものだと感じ取れる。

ドアの前に来るとより一層リアムの視線が痛い。

「リアム、彼はアレスト様の大事な人です。無礼はいけません」

「なんでだよ!なんでこんないきなり現れた人がアレスト様の関心をさらうんだよ!ぼくだってずっと!」

「リアム!」

母親の鋭い一声にリアムが肩をびくりと持ち上げた。

「カナトさん、こちらへ」

「わかった」

カナトがリアムに視線を向けると、あちらはすでに顔をそらして悔しそうに唇を噛み締めていた。

なんて声をかければいいかわからず、カナトは頬をかくと、うながされるままおとなしく部屋に入った。

ドアの直線上に大きなベッドがあり、カーテンが降ろされているため視線をさえぎられて人の姿が見えない。窓のカーテンも日差しを遮断して閉められていた。そのせいで部屋の中はどこか薄暗く、空気さえよどんでいるように感じる。

「換気したほうがいいんじゃないか?息苦しくないか?」

「このままでいいんです。こちらへきてください」

カナトはついていきながらベッドのそばへ来た。カーテンが端へくくりつけられると横たわっているアグラウが姿を現した。

見た光景にカナトが思わず目を見張った。

かつて威厳に釣り上げられた眉と目が今はいだ水面のように静かで、いつも引き結んでいる口は力無く半開きになり、布団の上に置いている手は恐ろしいほど痩せ細っている。もはや骨の形がわかるほどである。

カナトは思わず震える手で痩せこげたアグラウの頬をツンと触った。ぴくりと動いたので死んではいないようである。それでも思っていたことが口をついて出てしまう。

「生きているのかよ、これ」

「はい」

そのあまりにも冷淡な返しに、クローリーもアグラウの毒殺に関わっているんじゃないかと考えてしまう。

早く連れ出さないと!なるべく早くアレストの見つからないところに隠さないとダメだ!

回復の見込みがあるかどうかわからないが、このまま放っておけば確実にアグラウは死んでしまう。







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