転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

来客

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昼食の場でカナトが目玉焼きを突きながらうつむいていた。

アレストは少ない休み時間を使ってカナトと食べている。

すでに食べ終えたアレストは食後のワインを飲みながら黙っているカナトを眺めた。

「食欲がないか?」

「え?あ、いや……すぐに食べる」

カナトはお皿を持ち上げるとかき込むように食べた。

「胃がだいぶ治ってきたとはいえ、そんな食べ方はしなくていい。いやなら他のものを持って来させる」

もぐもぐと口を動かしていたカナトが口の中のものを飲み込んで慌てた。

「そんなことしなくていい!ちょっと考えごとしていただけ!」

「それならよかった。明日領地に帰れるから、楽しみだな」

「う、うん……その、キトウは?」

「キトウ?キトウなら浄化機関に残る。魔女と対外的に宣言したからさすがに首都から帰れないよ。……一緒に帰りたいのか?」

「違う!気になっただけ。キトウのことも嫌っているだろ?だから……」

「何もしない。キトウは今じゃ仲間だからな」

明るい笑顔で言うアレストに対し、カナトはますます不安がつのっていく。

アレストが簡単にキトウを許すとはどうしても思えなかった。

「そうか、仲間……」

その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「入ってくれ」

「失礼します。お客がいらっしゃいました」

「客?今日は来客の予定はないはずだが」

すると知らせに来たメイドが困ったように眉を下げた。

「それが、ロンドールとトリテジアと名乗っておりました」

その名前を聞いた瞬間、アレストが仕方なさそうにため息を吐き出した。

「なんでわざわざこんな時に。わかった。すぐに対応する。接客室へ通してくれ」

「わかりました」

アレストはそのまま下がろうとしたメイドを「あと一つ頼みがある」と呼び止め、カナトの手もとにあるお皿を指さした。

「それを下げて、他のものに変えてほしい」

カナトが不思議そうに目をしばたたかせた。まだ野菜が残っているお皿とアレストを見比べて、

「なんで変えるんだ?」

「何か食欲の出るものを食べたほうがいいんじゃないか?お腹をすかせていると腹痛になるかもしれない」

「大丈夫だ!」

野菜まできれいに平らげると空になった皿を見せて言う。

「ほら、もう全部食べた!」

「そっか。じゃあゆっくりしていて。すぐに戻る」

アレストが立ち上がるとカナトも慌てて立ち上がって呼び止めた。

「あのさ!その、俺も行っていいか?」

「フェンデルたちに会いに行きたいのか?」

「えと、そ、そう……」

頬をかきながらチラチラと機嫌をうかがう。アレストはおかしそうに笑ってから、わかった、と了承し、メイドに食器を下げさせた。

ともに接客室へ行くと、すでにフェンデルとデオンはそこに座っていた。

「おや、カナトさん。お久しぶりです」

ソファに座っていたフェンデルは旧知の仲にでも会ったかのように朗らかな笑みであいさつをした。

カナトが思わず頬をひくつかせる。

「傷のほうはいかがです?」

「黙れっ!近寄るな!殴るぞ!」

カナトは全身の毛を逆立てながらアレストの後ろに隠れた。

「お変わりがないようでよかったです。お二人とも」

「お前は本当に人をイラつかせるな」

「あなたの命令でしたことなのに」

アレストは後ろに隠れたカナトの頭をなでながらデオンとフェンデルの向かいに座った。

「それじゃあ本題に入ろう。何をしに来た」

「ちょっと待った」

デオンがカナトを指差した。

「いいのか?」

アレストはちらっとカナトに視線を向けて言った。

「かまわない。何も隠さなくていい」

開けた態度になったアレストと、少し不安そうにするカナトを見てフェンデルは、なるほど、と納得した。反対にデオンはこの場にカナトがいることにまだ抵抗を感じるのか、顔をしかめていた。

「まあ、お前らが何も言わないならいいが……」

それでも渋々納得するしかなかった。何しろこの場で決定権を持つのはほとんどアレストかフェンデルである。

「では私から先にお話ししますね。アレスト、なぜこんなに急いで帰らないといけないのですか?今魔女の件で私たちに有利ですよ」

「理由なら二つある。まず一つ目、僕の父は今危篤きとくな状況にある。もともと体調が優れないと周りは知っている。今帰っても怪しいとは思われない。もう一つ、この場所にお前たちがとどまっているのだろう?きっとうまくやってくれる」

「信用されていますね私たち。あなたは逆に帰って何をするつもりなんですか?」

「辺境伯への対応だ」

「ああ、なるほど、確かにそれは問題です。警戒されているのは感じ取れますからね。お一人で対応できますか?」

「一応考えはある。それよりも、浄化機関から何か魔女の件に対して証言が必要な場合、予想される質問と回答は準備したからあとで使用人に送らせる」

「助かります。それではお言葉に甘えて辺境伯側はお任せします。一応魔女を仲間に引き入れるので、殺さずにいかに民衆を納得させるかが大事ですからね。あのニワトリに似た証言者も手伝ってくれるといいですがね」

「大丈夫だ。ニワノエはそんなにバカじゃない。それに周りと記憶が合わない今、記憶が戻っている知り合いは僕しかいない。きみたちが僕の仲間だと知ればそうそう断らないはずだ」

「そうですか。それはよかったです。あと、最近騎士団のほうで少し怪しい動きがあります。気をつけてくださいね」

「騎士団か……わかった。気に留めておこう。それで、デオンは?」

デオンはちらっとカナトに視線を送るが、あきらめて頭をかきながら言う。

「ほら、頼まれたあれだ。どうやら成功したらしい。だからこっちも準備に取りかかるつもりだ。問題ないな?」

「それはよかった。問題ないよ。いきなり予定を進めてしまったけど、うまくいってよかった」

「予定を早めた理由を聞いてもいいか?」

「少々カナトのことで気が立っていたから。でも『コドク』が僕たちのものであるなら他の貴族もきっとよろこんで手伝ってくれるだろう」

「まあ、今まで貴族のもとで働いた暗殺者が知っていることなんて極秘ばかりだからな。どんな汚いことをしてきたとか、全部知っていると言っても過言じゃない。よく『コドク』を乗っ取ろうと思ったな」

「思いつきだよ」

「言ってろ」

聞いていただけのカナトは終始拳を握ってうつむいていた。

とんでもないこと聞いている気がするな。アレスト、イグナスのこと対応するって言ったけど、何をしようているんだ?









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