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第四章
最後の忠告
しおりを挟むカナトはアレストとともに邸宅に帰るとベッドの上に置かれた。
ベッドには目を閉じている自分の体がある。アレストは椅子を引いて座ると、自分の体を見つめて固まっているカナトに笑いかけた。
「どうやって戻るのか気になるな。見せてくれないか、カナト」
やばい……絶対わかっている。いや、でもどうやって?戻るか?ダメだダメだ!なんでできると聞かれたらユシルの存在隠せる気がしない!もう知らんふりしろ!
カナトはぎゅっと目を閉じると動かなくなった。
「いいのか?」
何も反応するな!
「目の前でいたずらするかもしれないよ」
そう言うなりアレストはベッドに上がり、カナトの本体が着ているシャツのボタンを一つ一つ解いていった。
「!!!??」
ちらっと目を開けたカナトはその光景に思わずギョッと目を見張る。わなわなと震えながら見上げる。
な、何やってんだ……本気か?
シャツがはだけ、傷だらけの体が空気にさらされた。そのあまりにも見るに耐えない体のせいでついつい飛び移って翼を広げて覆い隠そうとした。
「カナト、戻らないと本当にこのまま進めるよ」
「っ!!」
こいつ!!
「ほら、もうズボンもあと少しでーー」
「もういい!!」
カナトは真っ赤になりながら翼をはためかせてアレストの目線をさえぎった。
「卑怯だぞお前ッ!」
「……やっぱりカナトだったんだな」
「うっ」
伸ばされた指に止まるとカナトは翼で自分の顔を隠した。
アレストはカナトの本体に布団をかけ直し、そして意識体のほうのつばさをそっと押し戻した。
「きみも魔女なのか?」
「俺は違う……その、たぶん」
「自分でもわからないのか。困ったな」
「魔女だったら、いやなのか?」
「きみが何であろうといやに思うわけがない」
「じゃあなんで困るなんて言うんだよ」
「きみのすべてが知りたいのに、きみ自身ですら知らないならどうすることもできない」
「これから知ればいいだろ……」
カナトはアレストの目の前で白い煙となり、すぅと本体へ戻った。
目を開けた時、自分を見下ろす目と合い思わず赤面する。
「その、どう?」
「うん、かっこいい」
「本当か?」
「もちろん!カナトは一番だからな」
「そ、そっか」
ほめられて上機嫌になったカナトは少し油断をした。
「どうやってできるようになったのか、教えてくれないか?」
「それはユーーハッ………ッ!!」
カナトはしまったと口を押さえ、バッと布団を頭をまで引き上げた。
言ってないよな?わかってないよな?これでわかるわけないよな!?
カナトが冷や冷やしていると、さらに氷河へ突き落とされるような言葉が投げられた。
「なるほど、やはりユシルのせいか」
ーーッ!!なんで…わかるんだよ。いや、さすがにわかるのか?
「ち、違う」
「きみが今まで誰かをここまで必死にかばうのは1人だけだ。異様な関心を向けるのも、僕が見たことない笑顔で笑いかけるのも、命をかけて助けようとしたのも………」
カナトが初めてユシルに会った時の光景、庭でユシルに手を握られて幸せそうに笑う光景、雪山や毒ワインの時に身を捨ててまで助けようとした光景。そのすべてが洪水のようにアレストを襲った。
最終的に思い浮かぶのは記憶をなくした自分がカナトを襲おうとした時の光景である。
激しい嫉妬と増悪がやがて殺意へと落ち着き、アレストに笑顔をもたらした。
布団の中でじっといているカナトには見えないが、狂気的な笑みをしたアレストは布団ごとカナトを抱き込んだ。恋人に添い寝するように優しく声をかける。
「カナト、ユシルが魔女なのだろう?」
カナトはなるべく反応しないように体を硬直させた。だがかえってその行動がアレストの中で確信へと変わっていく。
「あのハムスターは本当はユシルなんだな」
「ち、ちが……」
「前々からおかしいとは思っていたんだ」
「前々、から?」
「あれを見たらさすがに気づいてしまう」
「あれって?」
「カツラギが帰ると言った日、きみまで消えてしまっただろ」
「あ……」
「あれは魔法なんだな」
「いや……」
「その後いろいろあって、半年近くきみの姿が見当たらないから狂いそうだったよ。かと思ったら記憶を変えられて、ユシルとよく似た別人、そしてハムスター、さらには鳥の姿が現れると必ずきみが意識を失うところなど考えれば思いつきはする。ただその結果を受け入れられるかどうかは問題だった」
耐えられなくなったカナトは布団を下げて頭を出した。
「頼む聞いてくれ!ユシルのことが嫌いなのはわかっている!好きになれとか、仲良くしろとかもう言わないからせめて……せめて…傷つけるようなことはしてほしくない」
どこか感情の読めない笑みを浮かべているアレストはやがて小さく声を出して笑った。
「………?」
「本当に何も気づかないのか?」
「え?」
どこか仕方なさそうに、言い聞かせるようにアレストは続けた。
「黙っていて悪かった。パーティーの時、カナトはキトウに会いに行っただろ」
「なんで知っているんだよ……」
「看守に当てた使用人は暗殺者だと言ったのを忘れたのか?きみとキトウの会話を聞いていた時からきみは必ず単独で会いに行くと予想できた。まだ訊きたそうにしていたからな」
「そんなにあきらかなのか?」
「わかりやすかった」
「うっ……なんで会わせてくれたんだ。いやなんだろ」
「当たり前だ。でも逆手に取れると思った」
「どういうことだ?」
「キトウはきみ相手なら油断すると思ったんだ。予想通りだったよ。前に会った時はキスされただろ?あれは僕を怒らせるためにわざと見せた。そして、パーティーの日に人目があるのを知って、わざわざきみの服を着て僕を挑発した。人目を利用して僕が弟を怒るところでも見せたかったのだろう。でもおかしなことに本人は順調すぎだと思わないところだな。記憶を失う前は魔女だということを疑っていたから、いろいろと調べたこともある。たまたま黒薔薇が魔女にとって劇物だということを知った。あの日、薔薇を魔除けの意味できみに贈ろうとしたんだけど、ダメだった」
「……俺のこと利用したのか?」
カナトの声が少し怒りで震えた。
「その通りだ。……すまなかった」
「お前っ!」
「利用したのは事実だ。きみの気が済むなら何を望んでもいい。ただユシルだけは許さない。あいつがいなければきみはずっと僕を見ていてくれた。あいつがいなければきみを忘れることもなかった。あの半年間は本当に狂いそうになった。……キトウがなぜ最初から人々の記憶を変えなかったのかわからない。だが、ユシルという存在がいなければこれらは起こらなかった」
キトウが最初からしないのはおそらくまだ魔法が使えなかったか、使う方法が見当たらなかったのだと思われる。しかし、それでも。
「でもそれはユシルのせいじゃないだろ!」
「ユシルさえいなければきみが僕から離れることはなかった!」
「離れようとしたわけじゃ……」
「だが結果的にまた会えたのは2年も経ってからだ。あんなに大事に思っていたきみを他人の手で傷をつけさせてしまった。きみが僕から離れていく理由はすべてユシルが関わっている。カツラギの時も、キトウも……中身がいくら変わっても……どうしてきみはユシルばかりを……」
アレストが苦しげに眉を寄せた。
「あんなに憧れた父様のことすら…今は裏切り者のように見える。信じれるのはもうきみしかいないんだ」
「でも仲間がいるだろ?フェンデルとか、浄化機関の」
「利益だけの仲間だよ。心から信じれるのはきみだけだ」
アレストはカナトの手を握った。
「だからこれはお願いであり、忠告でもある」
「……?」
「これで最後だ。僕を裏切らないでくれ」
最後?どういう意味での最後だ?最後の忠告?守らなかったら何か起こるのか?
カナトが混乱しているところへ追い討ちをかけるようにアレストは声を低めた。
「もう察しているだろうけど、僕がやろうとしているのはこの国の王を引きずり下ろすことだ」
「いや、察しては……じゃなくて、なんでそんなことするんだよ」
「僕の目的を果たすための交渉材料だからだ」
「交渉材料?どういうことだ?」
「王族を変えたいのは今のフレジアド殿下だ」
第一王子の!?ちょっと待って!第一王子が革命じみたこれに一枚噛んでいるのか!?王子でありながら父を引きずりおろしたいのか!原作にないだろ!
「そしてそれを利用してフェンデルが貴族に入ろうとしている。その協力者としてデオンは武器提供をし、僕はフレジアド殿下と少し縁があって、地位も何かと行動しやすいからまとめて手伝っている」
「まっ、待って……一気に情報が入りすぎて頭が……」
「デオンはもともと実の兄のことを少し不愉快に思っているらしく、協力して女と賭け事に溺れさせることで、ロンドール家の領地にある鉱山の鉱物を秘密裏に輸出させ、武器として売っている」
デオンがあんなに兄のことを気にしているのは心配していたからじゃないのか?
「そしてフェンデルについては、貴族になることが目的だからな」
「フェンデルは貴族じゃないのか?」
「ああ。今まで一度も公式の場で見なかっただろ?お城でのパーティーですら出たことがない」
「言われてみれば……」
お城のパーティーでもデオンはいたのにフェンデルは見当たらなかった。
「貴族になることで特権を使い、捕まりにくい立場でお金を貸したいらしい」
「……お前の仲間ってまともなやついないだろ」
「ははは!かもしれない」
「そんなこと俺に言っていいのか?」
「だからこれが最後なんだ。バレれてしまえば打首どころじゃない。逆にうまくいけば欲しいものが手に入る。どう選ぶか、きみが行動で示してくれ」
カナトは少しその最後という言葉を理解し始めた。
もし選択を間違ってしまえば、たぶん本当に後悔するようなことになる。
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