転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

信用

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イグナスに毒を飲ませると聞いてからカナトは気が気でなかった。

いったんアグラウのことを頭の後ろに追いやってしまうくらいに切羽詰まっていた。

昼食をアグラウの部屋まで持ってきて、そばに腰かけるとため息をついた。

「なあ、お前なんで小さい頃から育てた息子より何年も会ってない実の息子に爵位譲ろうとしたんだよ。普通に考えても本人は受け入れられないだろ」

アグラウがほとんど起きられないのをいいことにカナトはぶつぶつと文句を言った。

「知ってるか?明日イグナスが来るんだぞ?お前の育てた息子を殺す主人公攻めだぞ?お前の実の息子と恋仲だから、アレストとも敵対関係なんだよ。お前のせいで息子2人が対立してんだよ。……いや、どちらかと言うと俺も原因にふくまれているか」

ユシルへの関心が引き起こした嫉妬の数々を思い返してカナトが頬をかく。

「と、とにかく!早く治ってアレストに爵位を譲ると言え!お前が死なずに、アレストが無事に爵位を手に入れてしまえばきっと状況が好転するはずだ!」

そうじゃなければアグラウを毒殺してアレストが遺言書を偽造し、爵位を手に入れてしまう。

そうなってしまってはもう取り返しがつかない気がする。

自分の言うことならきっとアレストは聞き入ってもらえるはずだ。平和的に爵位を手に入れ、ユシルと相談してイグナスとの仲もとりつくろって、そして最終的には殺される運命を変える。

もはや完璧とも思える未来像にカナトは目を輝かせた。

そうだよ!そのためにもアグラウを助けないと!これはアレストのためなんだ!きっとわかってくれる!となればイグナスの毒殺を企んでいることもどうにかしないと。

カナトが深く考え込んだ。

よし、鳥姿で偵察しに行くか。

思い立ってすぐ、アレストの部屋に戻り、意識体となった姿で屋敷中を飛び回った。

何度も使用人に見つかって追い出されてしまったが、それでもめげずに厨房を目指すと、ちょうど背の高い背中が見えた。

白い服だし、アレストか?

もういっそう本人をつけまわしたほうが早いと判断したカナトは近くの木に止まろうとした。が、その時だった。

何かがカナトの背後から飛びつき、鋭い牙を丸い体に突き立てた。

「ギィアアアアア"ッッ!!!」

あまりの痛みに叫び出してしまい、背の高い人物が振り返る。

アレストではなくフレジアドだった。

「あれ?人の声だと思っていたのに」

フレジアドは黒い猫とその口に加えている鳥を見て、鳥のほうに見覚えがある気がした。

「きみは……」

フレジアドがひざをついて片手を差し伸べると、人を警戒するばかりの猫がなぜかすんなりと近づいていった。

「アレストが飼っていた猫か。その鳥を渡してくれないかい?」

言いながら猫の顔をなでるとその口からぺっとカナトが吐き出された。

「おっと、危ない」

フレジアドは地面に落ちる寸前のカナトを受け止め、猫を行かせると立ち上がった。

「危なかったね」

サブローの野郎ッ!!

まだ痛みに痙攣しているカナトはなんとか立ちあがろうとした。が、すぐにへたっとなってしまう。

お腹に牙を食い込まされた激痛からまだ立ち直っていなかった。

フレジアドは指でカナトのお腹や体を触ってみた。

「特に血は出ていないけど、痛むのかい?」

「へ、平気……」

「ん?意思疎通ができるのか?」

ハッとしたカナトがカタコトで言葉を発した。

「イシソツウ……」

「気のせいか。しゃべれるのはわかっていたけど、意思疎通はさすがに無理だね。さっきは痛かったね。アレストのところに届けるよ」

あれ?とカナトは首を傾げた。なぜしゃべれることがわかっているのだろうか?以前もこの姿でどこかでフレジアドに会ったか?と疑問に思い始める。

しかしすぐに今の状況がよくないことに気づいた。

この姿でアレストに会えば何か悟られてしまうかもしれない。

「ぴぃ!ぴぃ!」

「アレストに早く会いたい?」

ちがーう!!

カナトは思い切り首を左右に振った。やはり言葉を理解しているように思える鳥を見て、フレジアドの顔につかみどころのない笑みが浮かんだ。

「……伝言用、には見えないな」

ぽつりとつぶやくように発された言葉は焦っているカナトには届かなかった。

そして思いは伝わらないままカナトはアレストの前へと連れてこられた。

「へぇ」という声とともにアレストの長い指がつんとカナトの頬に触れる。

「誰も行かない裏庭で捕食されそうなところを助けたのか」

「危なかったよ。人間みたいに大きな声を出さなかったら無視していた」

「ありがとうございます。殿下。助かりました」

「それはよかった。猫たちの放し飼い時間はあまり鳥を外に出さないほうがいい」

「ずいぶんとこの子のこと気にかけるのですね」

「そうだなぁ。私も同じ種の鳥を探してみたが、見つからなかったよ。どこで見つけたのか教えてもらえないだろうか」

「たまたま拾っただけですよ。僕もどこから来た鳥なのかよくわからない」

「なるほど。それは残念」

フレジアドが肩をすくめてみせた。

カナトはますますどこでフレジアドに会ったのか思い出せない。

だが、改めて見ると今日の白い衣装に高い背はどことなくアレストと似ている。同じ金髪青目でもある。

「どこを見ているんだ?」

そう言ってアレストはフレジアドを凝視しているカナトの顔を指で上げた。

カナトは、違う!と言いたいばかりに頭をぶるぶる振る。

「どうしたんだ?」

「いえ、なんでもありません。それより殿下、あまり外を出歩かないでください。屋敷の者に口止めをさせていますが、どこからもれるかわかりません。あなたがひっそりと僕のところに来ていたことがバレたらまた騒がれてしまいます」

「いいと思うけどね」

「ご冗談を」

「本気だよ。きみは優秀だし、爵位も継げる。身分は充分だよ」

「でも今じゃない」

「……そうだね」

アレストはカナトを見て微笑んだ。

「先に戻っていてくれ。今夜戻れるのは少し遅くなるかもしれない」

ここから抜け出せるということでカナトはこころよくうなずいた。

開けられた窓から慌てて飛び出していく。

だが、このまま帰るわけではない。大回りしてまた窓辺に戻ってきた。2人の会話を盗み聞くためである。

体が見えないように、出っ張ったところに足をかけ、壁に体を張り付けた。

体が小さく軽いためか、人間時よりもやりやすい。

耳を澄ますと中の会話がもれ聞こえてきた。

「じゃあ毒はもう用意したんだね」

「ええ、さすがに致死量ではありませんが、充分あの人を苦しませるでしょう」

「報復は怖くないのかい?」

「今ユシルの体はこちら側にあります。あちらもそうバカではないはずです」

「何度聞いても不思議な話だね。中身が入れ替わることなんてまるで童話を聞いているみたい」

「童話はもっと残酷ですよ」

「そっか。前回きみが言っていたこと、進んできたよ。貴族たちから手紙は来たんじゃないか?」

「たくさんと来てます」

「目を通すの大変そうだね」

「どれこれも同じような内容です。辺境伯も異変に気づいてこちらの招待を受け入れたのでしょう。じゃなければとっくに無視をしていますよ」

「じゃあ辺境伯にはあのことを言うのかい?時期尚早だと思うがね」

「いえ、それは違います。この時期にだからこそ言うのです。対策を練られる前に、あちら側が手札を見せないといけない状況に追い込むのですよ」

「辺境伯の協力人は誰だと思う?」

「1人目星はついています。辺境伯と幼き頃より親しいと言う人物が首都にいますよ」

「おや、そうなのかい?」

「ええ、騎士団の副団長、ハインリヒ・コンラッドです。あまり知られていないことですが」

「それは驚きだなぁ。首都にいた頃も2人が語り合う場面や噂はなかったのに」

「辺境伯はどうやら僕や僕の使用人を疑っている節がありまして、なかなか用心深くすきを見せません。これも『コドク』を使ってやっとつかんだことです」

「なるほどね。じゃあ私も明日は張り切らないといけないようだね」

「……ぜひ、いつも通りで」

「辺境伯が出される食事に口をつけれくれるといいね」

「そうですね」

2人が立ち上がる気配がしたのでカナトは慌ててその場を飛び去った。

その羽音に立ち上がったアレストが一瞬外を見た。

「アレスト?」

「いえ、なんでもありません。行きましょう」














翌日、イグナスが訪れた。

カナトはすきをうかがって、出迎えたメイドに見つからないよう鳥姿でビュンとその羽織った上着の内側ポケットにしがみついた。

イグナスはちらっと視線だけ向けて何事もないように案内された。

アレストとフレジアドに接客室で簡単なあいさつをし、その後いつも寝泊まりする部屋へと来た。

ドアを閉め、カーテンを引き、まだしがみついたままのカナトをひっぺがした。

「何をしている」

「イグナス!いいか何を出されても絶対に食べるなよ!」

「なんの話だ」

「毒だよ!あのふたりお前に毒を飲ませようとしてんだよ!いいか、絶対に何も口にしたらダメだぞ!言ったからな!」

カナトが行こうとするのでイグナスはさらに手に力を込めた。

「いたたたた!つぶれる!」

「アレストは何を企んでいる」

「企み?……えーと」

企みがありすぎてカナトでも一言では言い切れない。

「とにかく、もうアレストがよくないことをしようとしているのは気づいているだろ!」

正直アレストとフレジアドの会話からもなんとなく察することができた。

「ああ、そうだな」

「ほらなやっぱり!いいか、アレストはただ行動力があるだけだ。俺がなんとかして説得するから絶対殺そうとするなよ!」

「ほう?殺す?俺があいつを?」

「そうだよ!」

「お前は誰の味方だ」

そう聞かれてピタッと固まる。

アレストの味方であることは当たり前である。しかし今の行動はおそらく味方からだいぶそれてしまっている。

「その、俺もどう言えばいいかわからないけど、お前たちやアレストのどちらにも生きていてほしい。どちらも傷つかないでほしい」

「贅沢だな」

「……悪いかよ」

「いや、ユシルと同じ考えだな」

「そういやユシルは?来てるのか?」

「ああ、ユシルはーー」

そこまで言って突然パリンッと何かが割れたような、小気味いい音が聞こえてきた。

イグナスが表情を変えてカナトを離すと羽織った上着の内側ポケットから何かを取り出した。

淡い黄色の透明な石である。

カナトが翼をはためかせてイグナスの肩に止まった。

「いきなり離すなよ。いてて、ケツうったじゃねぇか。ん?なんだその石。真ん中割れてないか?」

「……ユシルに何かあった」

「は?どういう意味だ?」

イグナスが葛藤したような表情をしたあと、苦い顔でカナトをにらんだ。

「お前を信じていいんだな」

いきなりのことにカナトが目をぱちぱちとさせた。

「お、おう……いいと思う」







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