転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

続く接客と違和感

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「いやーぁ、さすがアレスト殿の専属使用人。お声から立ち姿までなんと威厳のあることか!」

「はぁ……」

カナトは腰を押さえながらげっそりした顔で聞いていた。

午後の客人の対応を終え、やっと送り返してからため息をつく。

「なんで昼のやつもこいつもほめてくるんだよ」

前ではあり得ないことだった。

「お前がアレストの専属使用人だからだ」

「全員の記憶から消える前も専属使用人の立場だけど、こんなにヘコヘコした態度する人いなかったぞ。お前が渡していた封筒、あれどう見ても俺いなくたっていいよな?渡して本人が確認して、承諾しますとか、わかりましたとか言うだけで終わりだろ。どう考えても俺必要ないだろ」

「いや、必要だ。せめてお前の飼い主は必要だと言っている」

「アレストか……何考えてんだよ。聞いてみるか。今どこにいるんだ?」

「事務室だろうな。まあ、会いたいなら早く会ったほうがいい」

「どういうことだ?」

シドは答えずに目線をそらした。

わけがわからないまま、カナトはアレストの事務室に来た。

ちょうどムソクもいる。書類を持ちながら会話をしていたところを見るに、どうやら取り組み中だったらしい。

「忙しいか?」

「いや、きみのためならいくらでも時間を空けられる。どうかしたのか?」

いつもの笑顔で笑いながらアレストは手の作業を止めた。それに少し罪悪感を覚えながらもカナトはその側まで行く。

「あのさ……」

「ところで、カナト」

「え?」

「昨日寝る前に言っていた行きたい場所やしたいことは考えたか?」

「昨日、寝る直前?」

「やっぱり覚えてないな。たまに行くのも悪くないだろ?」

「そうだな!どこ行くかな。どこもわりと詳しくないし……」

「祭りとかはどうだ?」

「祭り?」

「ああ、毎年あるのだが、基本は夜中に行う祭りだ。カナトは毎年夜中になると寝てしまうから参加できてないんだ」

「なるほど……じゃあそれ行きたい!」

「わかった。また予定を伝えるよ」

「おう!」

「おやつにケーキとチョコレート、それにマカロンも頼んでおいた。部屋に届いているかもしれない」

「マジで!?俺見てくる!仕事がんばれ!」

「ありがとう」

カナトは当初の目的も忘れてパタパタと事務室を出た。シドはアレストとムソクと視線を交わしてからその後を急がずに追った。

部屋に戻ったカナトはすでに届いたお菓子を前に目を輝かせた。

「マジだ!ケーキとか久しぶりだ!ハハハッ!」

テーブルの前に走ったカナトはフォークを取ってケーキにブッ刺すと無造作に口の中に突っ込んだ。

「うん、うまい!」

「そんなものがおいしいのか」

「なんだよ。食べたことないのか?」

カナトが不満げな目を向けた。

「いや、ある。甘かった」

「だろ?おいしいよな!甘いのって!」

「そうか」

「反応イマイチだな。甘いの苦手か?」

「わからない。何も感じない」

「どういうことだ?」

「甘いも苦いも結局ただの味だ。食べ物は食べられるならなんでも食べる」

「ふぅーん。好き嫌いないタイプか……」

カナトはチョコマカロンを取ってシドに差し出した。

「ほら、やるよ。嫌いじゃないならこれから好きになってみたらどうだ?ただ何も感じずに食べるだけならもったいないだろ。どんな環境で育ってきたのかわからないけど、食糧って大事だったんだろ?でも今はアレストのもとで働いているし、お金には困らないはずだ。だったら食べ物にもっと意味を見出してもいいと思うぜ!」

シドは無言で差し出されたチョコマカロンを見つめ、そして軽く息を吐き出した。マカロンを受け取って言う。

「お前は本当に昔からそうやって無意識に俺を変えようとする」

「昔から?」

シドがハッとしたように固まった。反対にカナトはうれしそうに笑った。

「本当に会ってきたなかでお前だけだよ。俺のこと覚えてそうなやつ。アレストですら当初俺を拷問送りにしたくらいなんだぜ?でも今は思い出してくれているからもうあんなことにはならないと思うけど」

「………信用しているんだな、あんなやつ」

「当たり前だろ!恋人だかーー」

カナトがバッと口を押さえた。

「いや、隠さなくていいもう知っている」

「本当か?」

「嘘をつく意味がない」

「じゃあよかった!」

カナトが嬉々とおやつを食べているかたわら、シドはマカロンを見つめたまま、どうしても食べることができなかった。

嫌いだからではない。ただ、どうしようもない罪悪感に似た感情で、素直にこの好意を受け取れなかった。

これは誰にでも感じるものじゃない。カナトにしか感じない。

だからなのか、カナトが見えないところでシドはマカロンを胸ポケットに隠した。








あれから数日、カナトは立て続けに接客をした。そしてイグナスはすでに屋敷を出てしまっている。結局最後まで話すことはできず、体調はどうなのか、ユシルは大丈夫なのかと訊けなかった。

来客のいずれもカナトには遠慮した態度をし、おだてる言葉ばかりを言う。

基本はシドが封筒を渡して、2、3言交わし、相手が承諾するという流れである。

確実にカナトがいなくても難なく進める。それなのに頑なに出ないといけないと言われた。それに少し違和感を感じなくもない。だがアレストに聞こうにも忙しくてなかなか機会がない。

「全員暇かよ!首都にいた時になにしてたんだよ!わざわざ他人の領地まで来てこれだけで帰るのかよ!」

ついに耐えられなかったカナトは今日最後の客を送り出して怒った。

ちなみにもはや部屋のドアまで見送るだけで、玄関まではついていかない。めんどくさいがゆえに他の使用人に任せている。

「一応お前の意思がアレストの意思だと言っているしな」

「だからなんでそう言うんだよ!」

「お前が専属使用人だからだ」

「今までこんなことさせられなかったのに!あいつ何考えてんだよ!」

「今までよく自由気ままに生きてこれたな。せめて仕事をしている今が普通だ」

カナトがぐっと言葉につまった。

「まあ、甘やかしてくれているのは……わかる」

「自覚があってよろしい。これだけあきらかに偏っているのはあまり見ない。愛人でもそうそうない見せつけだ」

「そ、そうか?」

「ああ、他の使用人の反感を買うとわかっていながらやるあたり性格が悪い」

「それただの悪口だろ!」

「その通りだ。正直に言うが、俺はアレストのことが苦手だ」

「なんでだよ。使用人には優しいだろ」

「だが俺は暗殺者だ。そこらじゅうにいる使用人とはわけが違う。それに、もう知っていると思うが、今『コドク』の実質な権力者はアレストだ」

そうだったとカナトは思い出した。今『コドク』はアレストの所有物状態である。

スピンオフ作品の悪役フェンデル、よくわからない立ち位置のデオン、仲間になったばかりのキトウ、味方らしい王族のフレジアド、暗殺組織の『コドク』、それに加えてアレストの専属使用人というだけでカナトにへりくだった態度をする貴族たち。

それらを思い返すとアレストの勢力は非常に広いのではないかと思った。もはやイグナスに匹敵するほどに思える。

や、やばい……原作じゃたった1人でもユシルとイグナスを苦しめたのに、こんなに協力者がいると太刀打ちできるのか?

「アレストに会わないと」

「いや、できない」

「なんでだよ!ずっと会えないし、話す機会もないし……夜だって帰ってこないし」

「ずっと言わなかったが、夜に帰ってこないのはそもそも領地を離れているからだ」

「……は?どういうことだ?」

「アレストはあの王子と首都に戻っている」

「戻った?嘘だろ?」

「本当だ」

「な、なんで俺には何も……」

「……準備しておいたほうがいい」

「何を?」

「近いうちに首都へ行く準備だ。まあ、季節まだがないといけない可能性が大きいが」

「季節をって……なんで今……」

「それまでアレストは帰って来ない可能性も大きい」

「はあ!!?」




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