転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

アグラウを盗む

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夜中、この日、カナトはアグラウの盗み計画を実行した。

廊下にシドの姿がいないのを確認してそろりそろりと移動する。

もうすぐアグラウの部屋に到達する曲がり角に来て、頭だけを出して周りを確認した。確かに無人である。

そこからはダッシュでドア前まで駆け、隙間程度に開けると中に滑り込んだ。

「おーい、アグラウ。起きてるか?」

カナトが小声に呼びかけると小さなうめき声が聞こえてきた。

「起きてるな。いいか、絶対に騒ぐなよ」

と言ってもおそらく本人に騒ぐ気力もない。

ベッドそばまで来るとカーテンを開け、鞄から縄を取り出した。

「助けてやるから、代わりにアレストに爵位譲れよ?こころよくな!いやな顔で譲ったらたたきのめすぞ!」

「ぁ、あ………」

しゃがれた力のない声がアグラウから発せられた。

「俺ののどよりも酷いな」

縄を広げ、アグラウの体を慎重に起こす。鳥の脚みたいに細くなった体にはほとんど骨と皮しか残っていない。

あの堂々とした立ち姿からはどうしても本人と繋げられなかった。

「俺一応命の恩人だからな。アレストに爵位を譲る、もっと関心を持つ。約束だからな。俺だって危険を犯してまで助けてやってんだ」

アグラウの体を縄で自分の体にくくりつけると窓を開けた。

夜の風が顔を撫で、底なし闇のように下は真っ暗だった。

「……人1人背負いながらいけそうか?」

その高さにカナトは少し自信をなくした。だが迷っているわけにはいかない。

カナトは窓枠に足をかけると外壁のでこぼこを利用して下に降りていった。












こそこそと外壁を伝って降りる人影を見つめながらシドはゆるいため息を吐き出した。

どこか煩わしそうに髪をかきあげる。

窓から頭を引っ込むと近くの壁に背中を預け、複雑な感情をにじませた目で床の一点を見つめた。













カナトはアグラウを背負いながら水路沿いを歩いた。

ここは以前キトウと出かけた際に落ちてしまった場所であり、目指すのは流されたあの洞窟である。

ここまではまだ順調だった。ただ一つ難題があるとすればそれは道のりの長さを見誤ったことである。

流された際は目が覚めたら洞窟に流されただけで、実際に徒歩で歩こうとすれば障害物や遠回りで3時間近く歩くことになってしまう。

ようやくたどり着いた時、疲労困憊でもはやいながら移動していた。

体の縄を解いて、荷物を詰め込んだパンパンの鞄を放り出し、カナトがぐるっと大の字で寝転んだ。

「死ぬ……こんなに遠かったのか?これじゃ一日三食の往復だけで疲れ死ぬ……」

計画では食事の時間に抜け出してアグラウの世話をし、またすきを見て何事もなく屋敷に戻る算段だが、往復した途端にまた出かけなければいけないのかもしれない。

「連れ戻すか?」

せっかく連れ出したが、この距離と時間じゃいやでも非現実的だとわかる。なんならカナトがアグラウの毒殺に思い切り加担してしまう結果になる。

これじゃ絶対死なせてしまうな。どうすれば……。

「カナト、さん?」

その声にカナトがびっくりして起き上がった。

「誰だ!」

「驚かないでください」

洞窟の入り口から現れたのは特徴のない顔たちをした青年、クモだった。

顔には布を当てたりしているところを見るに、怪我をしたようである。

「お前……クモ?」

「はい。クモです。イグナス様のご命令で伯爵殿をお迎えに上がりました」

「え?」

「……ん?知りませんか?あなたから置き手紙をもらったと言っていましたが」

クモは胸ポケットから二つ折りの紙を取り出した。それを広げて見せる。

カナトが近づいて見ると、それはイグナスが屋敷に来るとわかって枕に隠した手紙である。

「あーーっ!そうだった!置いてたの忘れた!」

「面白いお方ですね。伯爵殿をこちらで引き取り、イグナス様のもとで面倒を見る、というお願いは変わりませんか?」

「ああ!それで頼む!よかったな、アグラウ!」

しゃべれないアグラウの肩をバシバシたたきながらカナトがよろこんだ。

「カナトさん、やめてください。死にますよ」

「あ、悪い悪い!ついうれしすぎて。あきらめかけてたからな」

「……誰にもバレずに来たんですか?」

「もちろんだ!」

「そう…ですか。わかりました。とにかく早めに場所を移動しなければいけないので、カナトさんも早く帰られたほうがいいです」

「わかった!じゃあな!頼んだからな!」

行こうとしたカナトは出口のところで立ち止まって振り返った。

「そういえば、イグナスとユシルは大丈夫なのか?」

「はい。どちらも無事に生きております」

「ならよかった!じゃあな!」

無事に生きているだけで、決して無傷ではない。

しかしカナトは深く考えられず、ただ安堵した反動で早く帰って寝たいために走り去ってしまった。

そして迎えた翌日の朝、屋敷は案の定騒がしくなった。

使用人たちがバタバタと移動しながら慌てるなか、カナトだけこの騒ぎがなんなのかわかっており、ドアを開けた途端に黙り込んで部屋に戻った。

シドまで部屋に引き込んで鍵をかける。

「どうした。後ろめたいことをしたような顔して」

「お前本当は何か知ってるだろ!」

「逆に昨日は何をした?寝不足でクマができている」

「そんなにあきらかなのか?」

「ああ。寝てこい」

だがカナトはその後ろめたいことで心臓が過剰反応するので眠気はいっさいない。

「こ、この騒ぎで寝れるわけないだろ……」

「それもそうだな」

「と、ところで参考までに聞くけど、なんの……騒ぎなんだ?」

「ああ、たいしたことじゃない。お前の飼い主が1週間後に帰ってくるという知らせが来た」

「アレストが?」

「ああ。本当、忙しいやつだな」

「マジか!」

よろこんだカナトはしかし、次の瞬間には冷や冷やとした。

アグラウのことどう説明する!アレストなら絶対俺がやったってわかるぞ!

同時に、朝食の時間はすでに過ぎているのにアグラウのことは騒がれないのか?という疑問も湧いてきた。

まだバレていない?








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