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第四章
突然知ったこと
しおりを挟むアレストに言われた通り、貴族の接客を続けてしばらく経った。
夏は過ぎて季節は秋を迎えた。
リアムの処遇についてだが、先に魔女疑惑のある母親を首都に連れて行き、その後新しく迎えにやってきた人たちにリアムを引き渡した。驚くことに、迎えに来たのはイグナスの友であり、スピンオフ作品の主人公でもあるハインリヒ・コンラッドである。
いかんせん実物が見れたために感動してカナトが握手を求めてしまったくらいである。
物語通りなら騎士団副団長のハインリヒは団長ブラッドの裏金の証拠をつかみ、イグナスの協力のもと団長の位置に上がるが、今はどうなるのかまったくわからない。
アレストがブラッドと何やら繋がっていることに不安しかない。
しかし、カナトのそんな心配をよそに、貴族たちは絶え間なく屋敷に流れ込んでくる。いずれも媚びる態度か、不服ながらも低い姿勢を保っていた。
そろそろそれにも慣れた時のことである。
とある昼下がりの接客後、シドとカナトは世間話をしながら歩いていた。
「いやぁ、なんだか偉い人になった気分だな!」
「あれほど貴族どもが従順ならそう感じるだろ」
「だよな!でもお前が渡しているその封筒の中身っていったい何が入ってんだ?全員見た後の顔とか真っ青だけど」
「知らなくていい」
「知ったっていいだろ?」
「お前の理解できないことだ。……不服そうな顔だな。自分の脳みその容量過信してないか?」
「うるせぇよ!もう見ねぇよ!」
シドの野郎、俺よりかしこいからって調子に……いやまあ、言ってることは事実だけど。
とはいえ中身が気になってしまう。貴族たちの顔というか、態度というか、カナト視点ではどうにも雑魚キャラに見える。
アレストの周りにスピンオフ作品の悪役や殺し屋組織がうろついているのを考えると、訪問しに来る貴族がまさかそんな頭の良さそうな悪役には見えない。というかこんなに悪役がポンポン出てきたら困る。
「それにしてもなんでアレストは首都にいるのにわざわざ領地のほうに来るんだ?人によって近いかもしれないけど、やっぱ遠いだろ」
「本来アレストのほうに行く貴族たちがこっちに来ることによって自分のやりたいことに専念できるからだろ。お前がアレストの負担を減らしているんだ」
「そ、そうか?あんまり役に立っている気がしないけど、それならよかった!」
「お前はたぶん何をしてもあいつの目からは優秀に映るはずだ。そんな気がする」
するとカナトがどこかうれしそうに頬を染めた。
「俺何をしてもほめてもらえるんだよ。なんだかすごく人間そのものが肯定されている気がして、恩返しとして何かはしてやりたいけど、やっぱり力及ばなくてさ」
「……今後もそう思えるといいな」
「どういう意味だ?」
「今日は温室に行くか?」
「お前話題そらしただろ」
「ちょうどおやつもそこで食べれる。ちなみに今日はフルーツタルトだ」
「マジで!?」
「ああ」
だいぶちょろいな。
シドは無邪気によろこぶカナトを横目に見て、密かにため息を吐き出した。
アレストの行動についてそれとなく“忠告”はしたが、本人は何も気づかない。
むしろこのまま最後まで何も気づかなくていいとさえ思えてくる。
その時だった。
カナトが数歩前を歩いているとレックが近づいてきた。手に綺麗にたたまれたシーツを持っているところを見るとどうやら取り込んだばかりのようである。
「あ、カナトさん、対応終わったんですか?」
「終わった!お前は何やってんだ?」
「見ての通り、シーツを今から敷きにいくところですよ」
「へぇ、大変だなぁ。俺も昔やっていたけど、難しいんだよな」
「え?」
「シワばかりできるんだよ。伸ばしてもボコってなるだろ?で、俺が敷いた部屋だけ汚いからってめちゃくちゃに怒られてさ」
「ほぉ……カナトさんって働いたことあったんですね」
「あ?どういう意味だ」
「いやぁ、今まで遊んでいるところしか見たことないので」
「いっ、今は客の対応しているだろ!遊んでばかりじゃない!」
「ハハハ!そうですね。じゃあ仕事に戻りまーす」
「なんなんだお前は!」
だが行こうとしたレックが「あっ」と足を止めて振り返った。
「そーいえば、これが終わった後言いに行く予定でしたが、ちょうどいいので」
言いながらシーツを片手で持ち、ベストの内側から封筒を取り出した。
「客の対応中に来ていたものですけど、アレスト様からです」
「本当か!?」
だが手紙は手を差し出したカナトを通り過ぎてシドに渡された。
「おい!」
「シドが読んだほうがいいんですよ。それじゃあ失礼しまーす」
カナトがギリギリと歯を噛み締めながら去っていく背中をにらんだ。
なんなんだあの野郎は!
まるでおちょくられている感覚に怒りが収まらない。そのあいだに手紙を確認したシドがぽつりと言った。
「準備始めたほうがいい」
「あ?準備?」
「首都へ行く準備」
手紙で首都へ行くとわかってからカナトは日用品を鞄につめ込み始めた。
「あと何が必要だ?ホロロと猫たちも連れてくか?」
悩んでいるとドアがノックされた。
「開いてるぞー」
シドがドアを開けた途端、地面に散らばる様々なものに眉をぐっとしかめた。
「なんだこの散らかりよう。待て、鞄に詰め込んでいるそれはなんだ?枕?」
「そう!俺とアレストの枕。でも入らねぇんだよな」
「持っていくな。あっちに寝具はあるから」
「でも使い慣れたほうがいいだろ?」
「それでもダメだ。俺が必要なものを振り分けるからお前は何もするな。あと、接客忘れているだろ」
「そうだった!今何時!?」
「もうすぐ午後3時になる」
「確か予定って午後1時からだったよな……俺やらかしたか?」
「大丈夫。相手も道中強盗に遭って遅れている。今ついたばかりだ」
「強盗!?」
「ああ、幸運にも遠征から帰ってきた騎士たちに出会って助けてもらったから無事らしい」
「それはよかった……って、俺も早くしないと」
立ち上がって軽く身だしなみを整えると接客室へ向かった。
すると、接客室でソファに座っていたのは若く、どこかおずおずとした青年であった。今までの貴族たちと雰囲気が劇的に違うことで思わず相手の顔をまじまじと見つめる。
相手もカナトが入ってきたことでパッと立ち上がり不安げな表情をした。
「あ、あの……カナトさん、ですか?」
茶髪のゆるい巻毛にトパーズのような瞳、自信なさげに下げられた眉がどこか子犬を思わせる青年であったーー
カナトの脳内にその一文が浮き上がった。
ま…さか……。
「エリオット・ロイマン・フランチェスタ?」
相手の名前を知っていることにシドが少し意外そうな表情をした。カナトに相手の名前を伝えていないはずである。
「え?あ、はい……そうです。この度は遅れてしまい申し訳ありません!」
エリオットが貴族にあるまじき深いお辞儀をした。
いつぞやカナトがフランにしたような、あるいはそれよりも深く頭を下げている姿勢だった。
エリオットはミドルネームにアレストと同じロイマン名であるため、2人はとあるパーティーで仲良くなるが、その後アレストに利用されてポイされる脇役である。
カナトがなぜその脇役の名前を覚えているのかというと、やはり悪役と同じミドルネーム、第ニ王子の名前と家名の最初の部分が被っているからである。
それなのになぜか脇役という不思議があった。
ちなみにカナトはすでに2人がどのタイミングで顔合わせするのかすっかり忘れている。
「すげぇ、本物の脇役だ……」
「え?」
「あ、いやなんでもない!それよりシド!封筒!」
カナトは風の速さでエリオットの対面に座り、じっと見つめた。
エリオットは最初こそ居心地悪そうにしていたが、差し出された封筒を受け取り、中身を見た途端に顔色が変わった。
唇を引き結んでぎゅっと眉を寄せている。
「あの……どうしても、同意しないと」
「その通りです」
「でも、これは酷い。こんなこと……今首都が変わってきている。すでにみんな疑心暗鬼になって不安がっている。これをこのまま進めるのは道徳に反している!」
「ですが、あなたが断れば困るのはあなたでしかない」
シドの冷たい言葉にエリオットはさらに苦々しい顔になった。
書類を持つ手が小刻みに震えている。唯一状況がわからないカナトが2人を交互に見てから、エリオットの持つ書類を見つめた。
次の瞬間、書類がバッとカナトに奪われた。
「カナト!」
シドがどこか焦った声を出すが、カナトはすでにソファから逃げて壁際まで行った。
そして書類の中身を見て思わず目をしばたたかせる。中身はフランチェスタ家の前当主がやった不当売買の内容である。さらには婦女暴行事件をもみ消した証拠から国外の偽金に手を出したものまである。
「な、なんだこれ……」
おそらくこれが出回ってしまえばフランチェスタ家は終わるかもしれない。
まさか、今までの貴族も顔色が真っ青なのはこんなことが書かれていたからか!いや、どんだけの貴族が汚いことやってきたんだよ!?やりすぎだろ!いやいや、違う。そもそもなんでこんなことをしてまで……。
カナトがふと一番後ろにある書類を見た。署名欄があり、その上の構文には……と、読む前に手から書類が抜き取られた。
「お前がわざわざ見なくていいものだ」
シドが冷たい口調のまま言い放つ。
「今までの貴族も自分たちの後ろめたいことで脅されていたのか?署名の紙には何が書かれているんだ?」
「知らなくていいと言っただろ」
エリオットはカナトを見つめて、まさか、という憶測をした。
まだあのことを知らない?もしかしてアレスト殿の協力者じゃない?こんなことを任せているのに?
「カナトさん!」
エリオットの呼びかけにカナトがシドの陰から顔を出した。
「なんだ?」
「今首都では魔女狩りが始まっています!」
「………?は…………始まった!!?魔女狩りが!!?」
「やっぱり知らないのですね。すでに多くの貴族が賛成し、1人目の魔女、ユシル・ヴォルテローノが処刑される予定です」
その名前に一瞬頭の中が真っ白になる。
「ユシルが?」
「はい。お願いです!どうかアレスト殿の行動を止めてください!あの人は、いや、あの人たちは無実の人を巻き込むつもりです!」
何も知らないぞ……そんなこと一言も教えられてない。ユシルが、ということはキトウが処刑されるってことか?でもキトウは今協力の立場じゃ……イグナスたちはこのこと知っているのか?
シドは何やら考え込んでいるカナトを眉をしかめて見つめた。
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