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第四章
秋のパーティー
しおりを挟むアレストが部屋を出て行ってから帰ってこない。
カナトは不安になりながら部屋の中を歩き回った。
もうかなり過ぎているのになんで帰ってこないんだ?
実は言うほど軽くなく、かなり傷が重いのではないか?そんな考えに頭を占められ、思わず腕を抱く。
「大丈夫だよな……大丈夫だって言ってたし」
脳裏にあの日、あの小屋で、アレストのお腹が血まみれになっている情景が浮かんできた。それに全身の血が引いていき、顔が青白くなっていく。
ナイフの鈍い色と血の赤色が何度も頭の中を行き来する。
「俺のせいだ……俺のせいで……アレストが」
その場に立っていられなくなってひざから崩れていく。
カナトは頭を抱えて肩を震わせた。
「どうしよう……万が一何かあったら、俺……」
「カナト!!」
急に温かい抱擁に包まれて、カナトが一瞬呆けたような表情になる。
「アレスト……?」
「僕だ。どうしたんだ?床になんかひざをついて。それに顔色もよくない。気分が悪いのか?」
「ごめん……」
「うん?」
「お腹の傷、俺のせいで……まだ痛いのか?大丈夫か?ちゃんと治りそうか?」
アレストは安心させるように笑顔を作った。
「大丈夫。安心していいよ。もう痛くない。カナトこそ平気か?僕が入ってきたことにも気づいてないみたいだから」
「俺は…うん、平気。お前に何かあったんじゃないかと思って、心配した」
アレストは少し驚いたような顔をするとすぐに笑った。
「ははは!そうかそうか、心配してくれたのか」
「ずっと帰ってこないから」
「悪かった」
アレストはカナトを両腕で抱き上げると、カナトのほうが視線が上になるよう腕に座らせた。
「おい!お腹の傷に響かないか?」
「響くならこうしてない。大丈夫」
「本当か?やっぱり降ろした方がいいんじゃ」
「降ろしたくない」
「お前、本当に……!俺よりバカだろ!万が一何かあったらどうするんだよ!?」
「きみが一番の良薬だ。見ているだけで痛みが引いていく」
「本当かよ」
「もちろん」
カナトをベッドに運び、ゆっくりと座らせると頭をなでた。
「戻りが遅いのは少し仕事が入ったからだ。もうすぐ王城でパーティーがある。そこでカナトが到着するのに合わせて贈り物をしたかったのだが、来るのが早かったから、どうせなら一緒に行かないか?」
「お城のことか?パーティーって、今は秋だよな」
「そうなんだけど、色々とあるんだよ。それまではゆっくりと過ごすといい。何もないはずだから」
「何もない?」
「そう、カナトが心配するようなことは何も起きないはずだ」
「………それって俺が聞いていたこととかなのか?」
「きみにはどんなことがあっても僕の味方でいて欲しい」
「もちろん味方だ!でも、魔女狩りやユシルたちのことは……」
アレストはそっとカナトの頬に手をそえると片ひざをついた。
「僕は言ったはずだ。今唯一信じたい人がきみだけだって」
「俺だって裏切るつもりはない……。なあ、お前っていったい何が欲しくてこんなことしているんだ?王子のフレジアド?は今の王族を変えたいって話だろ?フェンデルは貴族の身分だっけ?デオンが爵位で、じゃあお前は?」
「わからないのか?」
カナトがフルフルと頭を振った。
アレストは立ち上がって隣に座ると、カナトをひざに乗せた。
「最初から変わっていない。僕の欲しいものは最初からたった一つだけだ」
そこから先はもう教えられることはなかった。
最初から?つまり、やっぱり爵位ってことか?
カナトは、自分が思う以上にアレストの爵位への執着が強いと感じた。もとの物語だってもともとは爵位を継ぐことができないとわかったことでアグラウが毒殺されてしまう。
物語がそれてしまっても、結局重要なところは変わらないのかよ!
カナトが何やら悩ましげにしているのを見て、たぶん自分の言った欲しいものがわかっていないなとアレストは思った。
カナトがまだアレストを止める方法を考えつかないまま日々は流れ、パーティーの日を迎えた。
カナトはいそいそと着替えて外で待っていたシドとともに馬車の待つ門前まで来た。
すでに待っていたアレストはムソクと振り返り、ふっと微笑んで言う。
「似合っているよ」
そしてカナトの整えられた頭をポンと触るにとどまった。アレストは片手を差し出し、まるでエスコートするような姿勢をとり、カナトは恥ずかしながらもその手に自分の手を乗せた。
なんだか、ちょっと結婚場面を連想してしまうな。おそろいで白服だし。
そう思うとさらに顔が赤くなった。カナトの装いはアレストに合わせて上着は白を着用している。
「じゃあ、馬車に乗ろうか」
「そうだな!」
馬車の中で揺られながら外を眺めていると、ふと思い出したようにアレストは口を開いた。
「そうだ。たぶんパーティーでいろんな人から話しかけられると思うから、全員無視していいよ。返事も返さなくていい」
「え?いいのか?というか何度も確認して悪いけど、本当に使用人の俺も参加していいのか?」
「当たり前だ。きみも主役だから」
「どう…いう意味だ?」
「ついてからのお楽しみ」
なんだか、ざわざわするな。本当に大丈夫だよな?
馬車がつくごろ、すでに夜になっていた。
「遅れてないか?やっぱり出発するのが遅れたんじゃ……」
「大丈夫。待たせておけばいい」
「そういう問題じゃないだろ!」
アレストは軽く笑うとカナトの手を引いて歩き出した。
入り口で家名を読み上げられ、会場に踏み入れた瞬間、ざっと全員の視線が向いてきた。それに思わず驚いて歩みを止めてしまう。
我に帰って慌てて握られた自分の手を背中に隠した。
手を繋いでいるのやっぱり変だよな!!
だがアレストは不思議そうにしてからまた手を引いてこようとする。
「や、やめろ…!見られるぞ!」
小声に注意すると察したアレストがうなずいた。
「じゃあ抱っこしようか?」
「するか!」
2人が談笑しながら中央へ入っていくとわらわらと周りに人が集まってきた。
カナトが記憶する限り、こんなに注目されるのはユシルが現れて以来初めてである。
アレストを見ると特にうれしいとも鬱陶しいとも思わない顔で、ただ淡々とあいさつをかわしていった。
自分には関係ないだろうと周りをよそ見していた時、ふと違和感を覚えた。
カナトはその違和感の正体を知るためにもう一度周りを見る。
見渡す限り年長の人々しかいない。よく見ればカナトが接客したと思われる人たちもちらほらといる。
なんだ?パーティーって未婚男女の婚活場じゃなかったっけ。
だが若い貴族ところか、女の影すらほとんどいない。
年長の未婚貴族専門のパーティーか?それともただ社交の場か?
いずれにしてもバランス悪いな。
そう思っていた時、カナトの前に誰かがずいっと近寄った。
「どうもー!お久しぶりですねぇ!」
目の前のヒゲ男を見つめながらカナトは必死に記憶を呼び起こそうとした。
誰だっけ……?接客したことのある人か?
「えーと」
カナトがチラチラと視線を送ると、気づいたアレストは何気に肩に手を回してきた。
カナトを自分のほうに寄せてヒゲ男を見る。
「ボルボイ男爵、お久しぶりです」
「アレスト殿!覚えていらっしゃるのですか!光栄でございます!」
「こちらこそ、わざわざ我が領地までお越しいただきありがとうございます」
「とんでもございません!悪しき魔女を殺すために同盟を組むのは我々貴族の勤めでございます!カナト殿も魔女狩りの同意書を各貴族方に署名させるため、さぞお疲れだったでございましょう。よろしければ、今後お暇な時でもぜひ我が領地へお越しください」
「その時があればぜひ」
お世辞を交わしていく2人を見て、カナトは思わず固まった。
今、なんて……?俺が何していたって?同意書?魔女狩り?なんの話だ?
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