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第四章
急ぎの道のり
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屋敷を出ようとしたカナトは不自然な冷静を装った。しかし、廊下でばったりと前から歩いてくるシドを見つけた。
瞬間、しまった!と立ち止まる。
「カナト?」
「えと、奇遇だな!」
「なぜここにいる」
「その、おやつないかなーって思ってハハハ!」
「………」
「お、お前こそ何やってるんだ!」
シドが手に持った封筒を見せた。
そうだった!
カナトが何か言いわけがないかと迷っていると、シドが先に口を開いた。
「おやつなら厨房にある」
「え?そ、そうなのか!行ってくる!」
カナトがバタバタと走り去って行った。それを見つめながらシドは封筒に目線を落とし、少し考えふけるとハッとしたように後を追った。
カナトは最速力で走り、窓から飛び降りてなんとか馬車が止められている門前へ来たが、突然ぐんっとえり首を引っ張られて後ろに倒れ込んだ。
シドは倒れ込んでくる体を受け止めてぐるっと面を向かせる。
「どこに行こうとしている」
やや怒気のふくんだ声にカナトがおのずと小さくなった。
「その……外の空気を……」
「お前が?なぜ」
「いや、その……」
「首都に行こうとしているのか」
「………」
「荷物も持たずに?」
「………」
「お前の無言はほぼ肯定だということを忘れるな」
「なんでわかるんだよ!」
ヤケクソ気味に叫ぶとおでこをピンと指で弾かれた。
「なぜ俺を待たない」
「いや、別に……間に合わないと、思って」
「何が。とにかく、せめて明日まで待て」
「………無理」
「いい加減にしろ。わがままを言ってる場合じゃない」
「俺がわがままなのは今に始まったことじゃないだろ!というか魔女狩りってなんでだよ!俺はそうなってほしくないと言ったのになんでアレストは………しかも何も言ってこないし。お前だって、どうせ初めから知っているだろ」
「否定はしない。だがあいつにはあいつなりの考えがある」
「イグナスとユシルを殺すことか?」
「………お前はどっちの味方だ。なぜあの2人にそうしてまで入れ込む。自分の飼い主を裏切るつもりなのか?」
「そんなわけないだろ!ただ助けたいからだよ!」
「なぜそれが今の行動に繋がる?何か知っているのか?」
カナトがぴくっと反応して顔をそらした。
「お前こそ、俺とアレスト…どっちの味方だ」
聞かなくてもおそらく答えはわかっている。だがカナトは違う答えが聞こえるんじゃないかと、少し期待をした。
少ししてシドが口を開いた。
「わかった。俺もついていく。お前だけじゃ心もとない。まあ、つくまでそう何か遭うことはないだろ」
「本当か?」
「本当だ。少しここで待て。すぐ準備できるものを持ってくる」
「わかった!ありがとうシド!」
シドはカナトを横目に見ると屋敷の中へ入った。
そして少ない荷物で出てくると、カナトの斜めかけ鞄を渡した。
「悪いな!」
「かまわない。それより、知っているか?」
「何を?」
「この屋敷にいる暗殺者の数だ」
「数?お前をたして2、3人くらい?」
「俺が確認できるだけで10人以上はいる」
「そんなにか!?でも、なんでそれを今言うんだ?」
「お前を守るためにこの屋敷にいる暗殺者たちは動いている」
「俺を、なのか?」
「アレストの命令だ」
「………そ、そうか」
「だから何かしようとする時は迷わずに俺を頼れ。そのためにいる。せめてお前を傷つけるつもりはない。……たぶん」
「ありが………いや、たぶん?」
「せめて俺は傷つけるつもりなどない。だが他のやつらは保証できない。正直『コドク』は弱肉強食な面がある。こんなに“虫たち”がひしめき合う場所でお前を守れるのは数えられる程度だ」
「つまり?」
「俺だけを頼れ」
………。そう言えば暗殺者は俺を守るためにいると言いながら「俺を頼れ」とか言ってたな。
もしかして置いていこうとしたことを怒っているのか?
まさかとは思ったが、シドはすでに馬車へ歩いた。バモンの乗ってきた馬車ではなく、ヴォルテローノ家の馬車である。
カナトはバモンの馬車にいる御者に大きく手を振り、自分を指してからシドを指さした。
御者は少し驚いた顔をしたが、カナトは相手の反応を待たずにシドを追った。
出発が遅いため、馬車はいったん途中の宿で一休みし、翌日の朝にまた再出発をした。
「そういえばエリオットは大丈夫なのか?なんか宿で待つみたいなこと言ってたけど」
「大丈夫だ。他の者に知らせるよう伝えている」
「さすがだな!」
「ああ」
謙遜しねぇなこいつ。
しばらくすると馬車は首都へついた。カナトが抑えきれずにドアを蹴り開けるように飛び出すと、思い切り誰かの胸にぶつかり、ぎゅっと抱きしめられた。
知っているにおいにパッと顔を上げる。
「アレスト!」
「窓から馬車が見えたからまさかとは思ったけど、本当にきみだったのか。予定より早い気がするが、何かあったのか?」
「そうだ!そのことなんだ!魔女狩りのこと聞いた!なんでーーむっ!」
親指で唇を押さえつけられ、続きが言えなくなった。
「とりあえず中へ入ろう。シド、あとは頼んだ」
「わかっている」
アレストはカナトを自室へ連れ込むとベッドに座らせた。
「こんなに早く会いに来てくれるなんてうれしいな。きみがいなくてさびしかったよ」
「俺もさびし……じゃなくて!あのさ、魔女狩りってどういうことだ?」
「そのまんまだよ。人間を害する魔女たちに裁きを下すのさ」
「わかってて言ってるのか?過去の魔女狩りですでに無実の人たちが被害に遭っているだろ?それにイグナスのことは?ちゃんと言ったのか?俺信じて話したんだぞ!アグラウのこと本当にあきらめるつもりだよな?俺のことだましてないよな!?」
「カナト」
低い一声にカナトがびくりとした。
だが次の瞬間、唇が重ねられ、ベッドに押し倒される。
短いキスを終えてアレストが顔を上げた。
「せっかく久しぶりに会えたのに、言うことはそれらだけなのか?少し悲しいな」
「だって、魔女狩りでキトウが処刑されるって」
「正確にはユシルの体のみだよ」
「どういうことだ?」
「そうだ。カナトが来るのに合わせて珍しい材料のお菓子を作らせていたんだ。食べたいか?」
「食べたい!……じゃなくて、話そらすな!クローリーさんも処刑するつもりじゃないよな?」
「なるべくそうならないよう尽力する」
「なるべくじゃなくて、絶対そうならないっていう確信が欲しいんだよ!!本当に…俺のことだましてないよな?」
「どうして僕がだましていると思うんだ?」
「それは……」
「しばらく離れていたから不安だったんだな。不安にさせて悪かった」
そう言ってカナトのひたいにキスをした。
「おわびに何か欲しいものをあげる。何がいい?新しい服?それともやはりお菓子か?動物でもいい。きみさえ欲しいといえば、何をしてでもそろえよう」
「お前が何をしてでもって言うと物騒に聞こえるな。あと、イグナスのことなんだけど、家まで捜査しに行ったって聞いたけど、本当なのか?」
「んー、どうだろう。僕に捜査するほどの権限はないかな。権力的な意味で言えば実は辺境伯ほうが地位が高いから」
「そうなのか?」
「同じ伯の位を持つけど、あちらは王の目が届きにくい辺境にいる。何かを企んでいてもバレにくい」
「そうなのか?俺にはよくわからないけど……」
「それより、久しぶりに会うからもっとくっついていたいな」
そう言ってアレストはカナトの首筋に唇を這わせた。
「お、おい!」
くすぐったい感覚に体が震えそうになる。
「こんなことする場合じゃないだろ」
アレストは聞き入れずにカナトの脚に手を這わせ、ひざの裏側に手を入れた。
「今するのか……?まだ質問に答えてないだろ。魔女狩りって止められないか?こんなことしても意味ないだろ。もっと他にやり方があるだろ?」
アレストがぴたっと止まった。
「他のやり方?」
「アレスト?」
「例えば?」
「た、例えば?えーと、そうだな。手を握って和解?」
その回答を聞いてアレストが「ふふっ」と笑った。
「和解か……あの辺境伯が僕を許すと思うか?」
「自覚はあるのかよ!だったらなんでーーいっ!」
アレストが突然カナトの唇を噛んだ。血は出てないが、かなり強い力で噛んでいる。
「いてっ!おいっーーうっ!」
キスで口を塞がれ、窒息しそうなほど息苦しくなってくる。
「ううっーー!!」
息継ぎがまともにできないくらいに激しく、鼻で呼吸することを忘れるくらい意志を奪われる。
ベッドがきしむ音と息苦しさに頭の中で警鐘が鳴り響く。
ついに耐えられず、カナトが思い切りアレストの体を押し返した。
途端に苦しげな声を出してアレストが離れた。カナトも思い切り起き上がってのどを押さえる。
「はあ、はあ!何するんだよ!!……って、アレスト?」
アレストはお腹を押さえて何かを耐えるように唇を引き結んでいた。
その押さえている位置にいやな予感がする。カナトが真っ青になりながら震える手でその部位を触ろうか触らないかを迷っていた。
「も、もしかして治ってないのか?」
「一応傷口はふさがっている」
「完治してないのか!ごめん、わざとじゃない!い、医者を呼ばないと……!」
「そこまで大げさにしなくていいよ」
「でも!というかそんな状態でヤろうとしてたのかよ!バカか!」
「きみの前だとバカになってしまうなぁ」
「冗談言ってる場合か!俺どうすればいい?」
「何もしなくても大丈夫。ちょっと薬変えてくるから、待っていてもらえるか?」
「わかった!俺もついていっていいか?」
「カナトがわざわざ足を運ぶ必要はない。すぐに済む。じゃあ行ってくる」
「え?わ、わかった……本当にごめん……」
「大丈夫だよ」
心配げな視線のもとアレストが部屋を出た。
廊下を進みながら後ろからついてくるシドに話しかけた。
「誰がカナトにあんなことを教えたんだ?」
「………」
「こんなに早く来るとは思わなかったな」
「悪いな」
「はは!謝らなくていい。早く来てもやることは変わらないしな。……カナトが来るきっかけになったのはなんだ」
「たぶんパトリック・バモンだ」
「ああ、あの人か。んー……」
何を思いついたのか、アレストはフッと笑った。
瞬間、しまった!と立ち止まる。
「カナト?」
「えと、奇遇だな!」
「なぜここにいる」
「その、おやつないかなーって思ってハハハ!」
「………」
「お、お前こそ何やってるんだ!」
シドが手に持った封筒を見せた。
そうだった!
カナトが何か言いわけがないかと迷っていると、シドが先に口を開いた。
「おやつなら厨房にある」
「え?そ、そうなのか!行ってくる!」
カナトがバタバタと走り去って行った。それを見つめながらシドは封筒に目線を落とし、少し考えふけるとハッとしたように後を追った。
カナトは最速力で走り、窓から飛び降りてなんとか馬車が止められている門前へ来たが、突然ぐんっとえり首を引っ張られて後ろに倒れ込んだ。
シドは倒れ込んでくる体を受け止めてぐるっと面を向かせる。
「どこに行こうとしている」
やや怒気のふくんだ声にカナトがおのずと小さくなった。
「その……外の空気を……」
「お前が?なぜ」
「いや、その……」
「首都に行こうとしているのか」
「………」
「荷物も持たずに?」
「………」
「お前の無言はほぼ肯定だということを忘れるな」
「なんでわかるんだよ!」
ヤケクソ気味に叫ぶとおでこをピンと指で弾かれた。
「なぜ俺を待たない」
「いや、別に……間に合わないと、思って」
「何が。とにかく、せめて明日まで待て」
「………無理」
「いい加減にしろ。わがままを言ってる場合じゃない」
「俺がわがままなのは今に始まったことじゃないだろ!というか魔女狩りってなんでだよ!俺はそうなってほしくないと言ったのになんでアレストは………しかも何も言ってこないし。お前だって、どうせ初めから知っているだろ」
「否定はしない。だがあいつにはあいつなりの考えがある」
「イグナスとユシルを殺すことか?」
「………お前はどっちの味方だ。なぜあの2人にそうしてまで入れ込む。自分の飼い主を裏切るつもりなのか?」
「そんなわけないだろ!ただ助けたいからだよ!」
「なぜそれが今の行動に繋がる?何か知っているのか?」
カナトがぴくっと反応して顔をそらした。
「お前こそ、俺とアレスト…どっちの味方だ」
聞かなくてもおそらく答えはわかっている。だがカナトは違う答えが聞こえるんじゃないかと、少し期待をした。
少ししてシドが口を開いた。
「わかった。俺もついていく。お前だけじゃ心もとない。まあ、つくまでそう何か遭うことはないだろ」
「本当か?」
「本当だ。少しここで待て。すぐ準備できるものを持ってくる」
「わかった!ありがとうシド!」
シドはカナトを横目に見ると屋敷の中へ入った。
そして少ない荷物で出てくると、カナトの斜めかけ鞄を渡した。
「悪いな!」
「かまわない。それより、知っているか?」
「何を?」
「この屋敷にいる暗殺者の数だ」
「数?お前をたして2、3人くらい?」
「俺が確認できるだけで10人以上はいる」
「そんなにか!?でも、なんでそれを今言うんだ?」
「お前を守るためにこの屋敷にいる暗殺者たちは動いている」
「俺を、なのか?」
「アレストの命令だ」
「………そ、そうか」
「だから何かしようとする時は迷わずに俺を頼れ。そのためにいる。せめてお前を傷つけるつもりはない。……たぶん」
「ありが………いや、たぶん?」
「せめて俺は傷つけるつもりなどない。だが他のやつらは保証できない。正直『コドク』は弱肉強食な面がある。こんなに“虫たち”がひしめき合う場所でお前を守れるのは数えられる程度だ」
「つまり?」
「俺だけを頼れ」
………。そう言えば暗殺者は俺を守るためにいると言いながら「俺を頼れ」とか言ってたな。
もしかして置いていこうとしたことを怒っているのか?
まさかとは思ったが、シドはすでに馬車へ歩いた。バモンの乗ってきた馬車ではなく、ヴォルテローノ家の馬車である。
カナトはバモンの馬車にいる御者に大きく手を振り、自分を指してからシドを指さした。
御者は少し驚いた顔をしたが、カナトは相手の反応を待たずにシドを追った。
出発が遅いため、馬車はいったん途中の宿で一休みし、翌日の朝にまた再出発をした。
「そういえばエリオットは大丈夫なのか?なんか宿で待つみたいなこと言ってたけど」
「大丈夫だ。他の者に知らせるよう伝えている」
「さすがだな!」
「ああ」
謙遜しねぇなこいつ。
しばらくすると馬車は首都へついた。カナトが抑えきれずにドアを蹴り開けるように飛び出すと、思い切り誰かの胸にぶつかり、ぎゅっと抱きしめられた。
知っているにおいにパッと顔を上げる。
「アレスト!」
「窓から馬車が見えたからまさかとは思ったけど、本当にきみだったのか。予定より早い気がするが、何かあったのか?」
「そうだ!そのことなんだ!魔女狩りのこと聞いた!なんでーーむっ!」
親指で唇を押さえつけられ、続きが言えなくなった。
「とりあえず中へ入ろう。シド、あとは頼んだ」
「わかっている」
アレストはカナトを自室へ連れ込むとベッドに座らせた。
「こんなに早く会いに来てくれるなんてうれしいな。きみがいなくてさびしかったよ」
「俺もさびし……じゃなくて!あのさ、魔女狩りってどういうことだ?」
「そのまんまだよ。人間を害する魔女たちに裁きを下すのさ」
「わかってて言ってるのか?過去の魔女狩りですでに無実の人たちが被害に遭っているだろ?それにイグナスのことは?ちゃんと言ったのか?俺信じて話したんだぞ!アグラウのこと本当にあきらめるつもりだよな?俺のことだましてないよな!?」
「カナト」
低い一声にカナトがびくりとした。
だが次の瞬間、唇が重ねられ、ベッドに押し倒される。
短いキスを終えてアレストが顔を上げた。
「せっかく久しぶりに会えたのに、言うことはそれらだけなのか?少し悲しいな」
「だって、魔女狩りでキトウが処刑されるって」
「正確にはユシルの体のみだよ」
「どういうことだ?」
「そうだ。カナトが来るのに合わせて珍しい材料のお菓子を作らせていたんだ。食べたいか?」
「食べたい!……じゃなくて、話そらすな!クローリーさんも処刑するつもりじゃないよな?」
「なるべくそうならないよう尽力する」
「なるべくじゃなくて、絶対そうならないっていう確信が欲しいんだよ!!本当に…俺のことだましてないよな?」
「どうして僕がだましていると思うんだ?」
「それは……」
「しばらく離れていたから不安だったんだな。不安にさせて悪かった」
そう言ってカナトのひたいにキスをした。
「おわびに何か欲しいものをあげる。何がいい?新しい服?それともやはりお菓子か?動物でもいい。きみさえ欲しいといえば、何をしてでもそろえよう」
「お前が何をしてでもって言うと物騒に聞こえるな。あと、イグナスのことなんだけど、家まで捜査しに行ったって聞いたけど、本当なのか?」
「んー、どうだろう。僕に捜査するほどの権限はないかな。権力的な意味で言えば実は辺境伯ほうが地位が高いから」
「そうなのか?」
「同じ伯の位を持つけど、あちらは王の目が届きにくい辺境にいる。何かを企んでいてもバレにくい」
「そうなのか?俺にはよくわからないけど……」
「それより、久しぶりに会うからもっとくっついていたいな」
そう言ってアレストはカナトの首筋に唇を這わせた。
「お、おい!」
くすぐったい感覚に体が震えそうになる。
「こんなことする場合じゃないだろ」
アレストは聞き入れずにカナトの脚に手を這わせ、ひざの裏側に手を入れた。
「今するのか……?まだ質問に答えてないだろ。魔女狩りって止められないか?こんなことしても意味ないだろ。もっと他にやり方があるだろ?」
アレストがぴたっと止まった。
「他のやり方?」
「アレスト?」
「例えば?」
「た、例えば?えーと、そうだな。手を握って和解?」
その回答を聞いてアレストが「ふふっ」と笑った。
「和解か……あの辺境伯が僕を許すと思うか?」
「自覚はあるのかよ!だったらなんでーーいっ!」
アレストが突然カナトの唇を噛んだ。血は出てないが、かなり強い力で噛んでいる。
「いてっ!おいっーーうっ!」
キスで口を塞がれ、窒息しそうなほど息苦しくなってくる。
「ううっーー!!」
息継ぎがまともにできないくらいに激しく、鼻で呼吸することを忘れるくらい意志を奪われる。
ベッドがきしむ音と息苦しさに頭の中で警鐘が鳴り響く。
ついに耐えられず、カナトが思い切りアレストの体を押し返した。
途端に苦しげな声を出してアレストが離れた。カナトも思い切り起き上がってのどを押さえる。
「はあ、はあ!何するんだよ!!……って、アレスト?」
アレストはお腹を押さえて何かを耐えるように唇を引き結んでいた。
その押さえている位置にいやな予感がする。カナトが真っ青になりながら震える手でその部位を触ろうか触らないかを迷っていた。
「も、もしかして治ってないのか?」
「一応傷口はふさがっている」
「完治してないのか!ごめん、わざとじゃない!い、医者を呼ばないと……!」
「そこまで大げさにしなくていいよ」
「でも!というかそんな状態でヤろうとしてたのかよ!バカか!」
「きみの前だとバカになってしまうなぁ」
「冗談言ってる場合か!俺どうすればいい?」
「何もしなくても大丈夫。ちょっと薬変えてくるから、待っていてもらえるか?」
「わかった!俺もついていっていいか?」
「カナトがわざわざ足を運ぶ必要はない。すぐに済む。じゃあ行ってくる」
「え?わ、わかった……本当にごめん……」
「大丈夫だよ」
心配げな視線のもとアレストが部屋を出た。
廊下を進みながら後ろからついてくるシドに話しかけた。
「誰がカナトにあんなことを教えたんだ?」
「………」
「こんなに早く来るとは思わなかったな」
「悪いな」
「はは!謝らなくていい。早く来てもやることは変わらないしな。……カナトが来るきっかけになったのはなんだ」
「たぶんパトリック・バモンだ」
「ああ、あの人か。んー……」
何を思いついたのか、アレストはフッと笑った。
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