転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
162 / 241
第五章

シドの脅し

しおりを挟む
「俺は…裏切ったわけじゃない」

「だが辺境伯側に協力した」

「………」

「それが裏切りじゃなくてなんだ」

ほぼムカデとそう違わない行動をしているカナトは裏切りという言葉に黙った。

やっぱり、裏切り……だよな。

アレストはもう裏切りととらえているのだろうか、もう嫌われているのだろうか、そうだとしたらもう優しくされることも笑いかけられることもないのだろうか。

そう考えると酷い恐怖が襲ってきた。一番なって欲しくない結果である。

カナトが最悪な結果に少し震え出すと、それに気づいたシドがほんの意識をそらした瞬間、ムカデが動いた。シドに向かって何かをくと、素早い動きで背負われたカナトの本体を奪う。

「お前……ッ!」

息を止めるも、時すでに遅しである。シドは口を覆いながらにらみ上げて言う。

「アレストは、許さないぞ……」

「わかっている。ただ、間違いを正せるのなら、あとの罰はなんでも受ける」

ムカデはどこか悲しさのにじんだ目で、シドが意識を失っていくのを見つめた。














シドが目を覚ました時、パッと起き上がると足に何か巻きついているのに気づいた。

「………」

巻きついているのではなく、はめられていた。足枷である。手を動かしてみればこちらも枷で固定され、動けずにいる。

すると、後ろでドアの開く音が響き、誰かが入ってきた。振り返るとムカデが立っており、その隣には……

「……カナト」

「シ、シド……その、気分はどうだ?」

「………」

無言の視線にカナトがじり、じりとムカデの後ろに隠れる。

「あのさ、話したいことがあるから来たんだけど、今いいか?」

「……今の俺はダメだと言える立場か?」

「ご、ごめん……でも本当に大事なことなんだ」

ため息をついてからシドが口を開いた。

「わかった。ムカデもこの場にいるのか?」

「えと、俺の監視役……」

「そうか、監視役」

シドがフッと嗤った。もともと陰湿なイメージのある目がスッと細められる。

「あんなにアレストの忠成な犬ツラしていたのに、裏切る時はけっこうあっさりだな」

ムカデの目に静かな怒気がふくみ始めた。ヤバいと気づいたカナトが慌てて前に出る。

「お、落ち着け!とりあえず俺が話す。だから少しだけ時間をくれ」

ムカデは無理やり笑顔を作っているカナトに視線を向け、それからシドを見ると黙って出て行った。

「本当に無口なやつだな」

本人が消えたところでカナトがボソリと言う。むしろシドといる時の方がよくしゃべる。

「それで、話したいことは?」

ハッとしたカナトが急いでシドの近くにきた。

「俺は裏切ってないからな!」

「お前にそれほどの智力も度胸もない。弁解しなくてもわかる」

「つまり信用されているってことか?」

「……そう受け取りたいならそれで構わない」

たぶん智力という言葉を理解しきれてないのかもしれない。シドはそう感じた。

「なんか信用とは違うな……まあいいや。それでさ、最近……ア、アレストはどう?どんな様子だった?俺のこと何か言ってたか?」

「ああ、言ってた」

「なんて言った!?」

カナトがぐんっと顔を近づかせた。

「薬飲まされて、意識がないあいだに恋人が逃げたと言っている」

「………そ、そうなんだハハハ!」

「お前だろ」

「………だって、そうしないと俺だけじゃ何も」

「なぜそうしてまでアレストを阻止しようとする。どのみちお前への気持ちは変わらないだろ。犠牲になる人たちだってお前とはほぼ関わりがないやつらばかりだ。助けようとする理由がわからない」

シドの考え方ってやっぱどこか悪役寄りだな……。

カナトは眉を寄せて地面であぐらをかいた。冷たくざらざらした地面は座り心地のいいものじゃない。だが、その冷たさとざらざらした感触がほんの心の苦しさを分散させている。

「俺はアレストにこんなことやめさせたいんだよ。普通こんなことしないだろ?それにこんなことしなくても今まで通りに暮らせばいいだろ。俺の方こそアレストがここまでする気持ちがわからないんだよ」

「やはりお前とアレストは合わないな。性格も考えも全部だ」

「……わかっている」

「アレストは最初からずっとお前を欲しがっていた。でもお前の目には特別な他人がいつも映っている」

たぶんユシルやイグナスのことを言っていると思われる。

「アレストにとってそれがどうしても耐えられない」

「確かに、今までもそう言われたことはあるけど……」

「あるけどお前はただ単に執着が深いだけで、アレストならここまでしないだろうという思い込みがあった」

「………」

「俺はお前を殺すためにずっと見ていた時期がある」

「うん………ん?」

「昔のアレストと今のアレストではだいぶ考えや性格が変わっている。昔のあいつならまだお前たちはうまくやれていただろう。だが、アグラウと血の繋がりがある実の息子が帰ってきた。周りが離れていくなかでお前しか残っていない。あいつにとってお前は何よりもかけがえのない存在だ。もうすでにアレストは昔のアレストじゃないとわかっただろ。このままお前がここにいれば、あいつは何をするのかわからない。これでいいのか?」

先ほど感じた違和感が続けられた言葉によって頭の後ろに追いやられてしまった。カナトは押し黙ったようすでうつむき、奥歯を噛み締めた。

「お前が心配していることはわかっている。だがこのままアレストのそばを離れてしまえばもう戻れない可能性がある」

もう戻れないと聞いてカナトの体がびくりとする。

「でも、俺だけじゃ何もできないんだよ……魔女狩りを止めたいのに、知らない間にお前たちに利用されるし、止められると思って行動してみれば人質にされるし……もうこれだけで俺じゃ止められないことだって、わかりきってるんだよ」

「でもアレストは今かなり危険な状態にある」

「え?」

カナトがパッと頭を上げた。

「アレストに、何かあったのか?」

「アレストに、というより、あいつの精神状態にだな。お前があと3日以内に戻らないと、クローリー親子をもろとも処刑台に送ると言っている。すでに準備に取りかかっているし、人間に味方する魔女、と言う肩書きでキトウが占いで魔女だと証言することになっている」

「そんなことになっているのか!?お、俺はどうすればいいんだ……?」

シドが顔を近づかせ、声を落として言った。

「この手枷と足枷の鍵を持ってこい。とりあえず戻らないとお前が守りたいもの全部なくなるぞ」

脅しとも取れるその言葉に、カナトが思わずぶるりと震えた。












しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...