転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

計らい

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戻ると決心したものの、イグナスの邸宅の位置がわからず、屋根の上で羽根休みをしていた時だった。

急に大騒ぎする人々にへとへとになりながらカナトは這って屋根から頭を出した。

何叫んでんだ?

疲れで重いまぶたを無理やり開けると、下のほうで人々が慌ただしい様子でどこかに向かおうとしていた。

「本当か?」

「ああ、今から魔女の処刑が行われるらしい!」

「前回言っていたあの魔女か?」

「わからないが、ユシル・ヴォルテローノではないらしい」

人々のあいだで魔女の処刑についてあちこちに伝わり、みんな処刑台のほうへと詰め寄り始める。

カナトは疲れも吹っ飛んで思い切り立ち上がった。

魔女の処刑!?キトウじゃないならまさかクローリーさんか!!でも明日って言ってなかったっけ!?

パニックになりながらカナトは飛んだ。

夕方も少し近づいてきた頃、処刑台の上には覆面の処刑人がギロチンの近くで立っていた。

本当なのか!

もし本当に処刑するならどうすればいいと慌て、カナトは近くにアレストの影がないかを探した。

しかし、エリオットの屋敷から離れる時はまだ会話していたので、今この場にいるとは限らない。

でもなんとなく、アレストならこの場にいる気がした。

カナトは必死に目を光らせて金髪白服の特徴を人々のあいだから探し出そうとした。だがどこを見てもそんな特徴は見当たらない。

なんでいないんだよ!

処刑台の周りでざわざわとする人々の上を飛び回りながらカナトが泣きそうになる。

そろそろ疲れが溜まってくる頃、処刑人台の向こう側にフードを被った人物がスッと通っていった。カナトは目ざとくとらえてそのあとを追う。ちらっと見えた輪郭の線がアレストによく似ている。

だが本人なのかどうか確信が持てず、ついていきながら人気のない建物裏に来たところでカナトが鳴き声を出した。

「ぴぃ!!」

人物の動きがピタッと止まり振り返った。

振り返った顔にカナトはうるっと来てしまった。

「アレスト~!!」

「カナト……」

思い切りその胸に飛び込むと、大きな手のひらに体を包まれた。

アレストはカナトの小さな頭をなでながら言う。

「本当に来たんだな」

「ん?」

カナトが顔を上げた。アレストのどこかほの暗い笑顔に一瞬思考が停止してしまう。だが次の瞬間、アレストは優しく笑った。

「処刑の情報を流せばきみが現れるんじゃないかと思ったが、本当に姿を見せてくれたからついうれしくなって」

「ということは……クローリーさんは無事なのか?」

それには答えず、アレストは歩き出した。止めさせていた簡素な馬車に乗り込むと、ゆったりした様子でシートに背中を預けた。

「カナト、なぜ帰ってきてくれないんだ?」

「え?」

「薬を飲まされてから、ずっときみの帰りを待っていたのに。逃げたかと思った」

「そ、そそそそんなわけないだろ!!」

「本当に?」

「本当だ!俺ずっとお前のことだけ考えていたし!」

「それはうれしいな」

アレストはカナトを乗せた手の指でその頭をなでながら続けた。

「でも、どうして帰って来てくれないんだ?何か理由があるのか?」

「それは………」

「体もどこに置いてきたんだ?」

「うっ……」

なんて言えばいい!!

カナトが何も言えずに黙っていると、馬車が止まった。

「着いたようだな。家に帰ろうか」

「あ……うん」

再開できて感動で忘れそうになるが、アレストを止めるにはイグナスのところへ戻るしかない。

だが家に帰ろうと言われて、このままそばにいたい気持ちも湧いてくる。

邸宅内に入るとカナトは周りに人がいないのを確認して口を開いた。

「あのさ、アレスト」

「ん?」

「その、もし俺が裏切ったとしたらさ、俺のこと嫌いになるか?」

答えや相手の表情を見るのが怖くて背中を向けながら訊くしかなかった。

それを受けてアレストはおかしそうに笑ってから答えた。

「失望はするかな」

失望と聞いてカナトの体がびくりと震えた。

「そ、そうだよなぁ……失望するよなぁ……当たり前だろうなぁはは……」

どうしよう……。もし、本当にイグナスたちに協力してアレストを止めたなら失望されるだろうな。どうすればいいんだよ。

イグナスのところへ戻るか、このまま1人でどうにか止めるかの選択間で迷っていると、アレストが部屋のドアを開けた。

いつもの部屋に帰ってきたかと思っていたが、カナトは見知らぬ部屋が広がっていたことに目をしばたたかせた。

広い部屋の中央にパーテーションみたいな仕切りがある。

「部屋を変えたのか?」

「違うよ。ただゆっくりときみと話したいと思ったんだ。カナト、きみが今まで何をして来たのか話してくれないか?」

「今まで?」

「僕を眠らせてからどこで何をしたのか気になるんだ」

尋問か!どうやってごまかす!?

「えーと、その……た、食べられそうになった話でもいいか?」

「もちろん」

カナトはあえてイグナスたちの話を避けて、野生動物に追いかけられたことや、狩猟場に迷い込んだことを言った。

手振り身振りでいかに大変だったかを伝え、わざと他のことから意識をそらしてもらおうとした。アレストもうなずきながら、大変だったな、と痛ましげな表情でカナトをなぐさめた。

「うん、大変だった。羽根はなくなるし、ボロボロになるし」

よしよしとなでてもらいながら思い切り甘えた。

頭を手のひらにすりすりしていると、ふいにその手が離れた。

「カナト、少しだけ待っていてくれ」

そう言ってアレストはパーテーションのような仕切りの向こう側に消え、また戻ってくると手に紙を持っていた。

「それはなんだ?」

「気にしなくていいよ。それより、少しだけ質問をしてもいいか?」

「いいぜ!」

アレストは一瞬だけ視線を紙に落とした。

「そうだな。カナトはパンよりハムが好きか?」

なんだその質問?

思わず変な内容に首を傾げてしまう。だが一応うなずき返した。

「まあ、ハムのほうがうまいだろ。というか、パンにはさむ方が好きだけどな」

「そうなんだ。僕もだよ。次の質問だけど……」

その後も変な質問は続き、好きな食べ物から政治まで様々な質問が繰り出された。

やがてすべて終わったのか、アレストから「お疲れ」と言葉をかけられた。

「いいけど、なんでそんな質問するんだ?政治とか俺わからないし」

「いいんだよ。正しい答えが目的じゃないから」

どういうことだ?

それを聞き出す前にアレストは紙を折りたたんでポケットに入れ、そして仕切りの前に行った。

「どうでしょう?こちら側の言ったことを信じてもらえましたか?」

「アレスト?俺ならここにいるぞ」

まるであちらに人がいるような話し方に嫌な予感がする。

すると、仕切りの向こうからぞろぞろと貴族風の男たちが出て来た。

いずれも顔に信じがたい表情を浮かばせている。

ひ、人!?他の人もいたのか!普通にしゃべっていたけど、大丈夫なのか?

「まさか、本当に魔女の呪いがあるのか」

「人を動物の中に閉じ込める呪いが存在するなんて……なんて悪辣あくらつな」

「今まで魔女など世迷言だと思っていたが、受け答えを見るに、訓練されたわけではなさそうだな」

貴族たちを満足げに眺めてアレストは親しみのある笑顔を浮かべた。

「信じてもらえないのはわかっていました。しかし、皆様が魔女の犠牲になるかもしれないと思い、このまま見過ごすことはできません。社交界では親交のある皆様を助けられるのでしたら、皆様がしてくださったようにいくらでも手を差し伸べます」

その上面のいい笑顔と世辞にカナトは頭の中が真っ白になった気がした。

どういうことだ?









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