転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

見つけた

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戻ると決めたが、どうやって離れていくのかが問題である。

「リリー、見て、今日はとびっきり美味しいもの持ってきたよ」

エリオットが満面の笑みで何かを後ろに隠しながらカナトに近づいていく。

ちなみにリリーとはエリオットがカナトにつけた名前である。

「ほら、これなんだかわかる?」

そう言って丸い箱のようなものを差し出した。

カナトはじとっとした目を向け、怪しげな箱を上下左右に見る。ちょうど手のひらに乗れる大きさだが、特に中から音はしない…気がする。

「開けるね」

箱がパカッと開けられ、カナトも首を伸ばして見たーー瞬間ズザザザッと後ろに下がり、テーブルから落ちる寸前で背中を向けた。

また虫かーー!!

エリオットが持ってきたのは生きた虫である。細長くにょろっと動くぷっくりボディに朝食べたパンクズが吐き出されそうになる。

絶対に出て行ってやる!!

「あれ?おかしいな。いも虫は大きすぎて食べられないからだと思ったから細い虫にしたけど、これもダメかぁ」

残念そうな声に軽い殺意が湧く。

カナトはギロッとにらんで頭突きをしようとした。しかし、部屋に誰かが入ってきた。開いたドアから姿を現したのはフィゼである。

「フィゼ、どうかした?」

「いや、なんか来てますよ」

「なにが?」

「アレスト・ロイマン・ヴォルテローノが」

その名前にカナトがビクッと反応した。

アレストが今ここに来ているのか?

長いあいだ離れていたせいか、会いたいという気持ちがあふれてしまう。

そうと知らず、エリオットが慌て始めた。

「嘘!?どうしよう、きっとまた魔女狩りのことだ」

「どうします?あなたがあの隣国のご令嬢と婚約がある限りあきらめませんよ」

「そう、だよね……。僕が同意すれば、あの家の力が使えるかもしれないし、避け続けるのは無理があるのかも」

なんの話だ?

カナトが意味がわからなく2人を見比べていると、また別のメイドが来た。

「あの、旦那様、外にトリテジア銀行の頭取が来ています。どういたしましょう?」

「あの人まで……うぅ、胃痛が」

「しっかりしてください」

「フィゼきみは簡単に言うけど、あのふたりは魔王だよ!はあ……とりあえず、トリテジア銀行の頭取をアレスト殿と同じ部屋に通してくれ」

「わかりました」

メイドが下がるとエリオットはカナトを抱き上げて頬をこすり付けた。

「リリー、僕の天使!」

やめろ!

カナトが両足でぐいっとこすり付けてくる頬を押し返すが、ほぼ意味はない。

「よし、リリーのためにも頑張ろう!」

「自分のためにがんばってくだい。というか、そんな鳥のどこかいいのか」

「何を言う!」

エリオットは食い気味にフィゼに詰め寄った。

「リリーはめちゃくちゃ賢いんだよ!すでに言葉も理解できるし、自分だけエサを探せるし、何よりあのすべてを知り尽くしたようなつぶらな瞳がたまらないでしょ!?」

「はあ……そんな魅力があるように見えないんですが」

「わかってないな~。おいでリリー」

エリオットが手を差し出すとカナトがバサバサと飛び移った。

「ほら、回って。そう!それから飛んでごらん!」

言われた通りひと通りの芸を披露するとエリオットから膨大な拍手が送られた。カナトがほこらしげに、ふんっ、とフィゼを見る。

「ほらな?リリーはすごいだろ?」

「はあ、芸くらい大道芸人の連れている猿でもできますけどね」

「きみはそういう人だよ。リリーのすばらしさがわからないなんで人生損してるよ」

「そうですかね?まあ、確実に言えることは、今すぐ接客しないとあんたの人生が終わるけど」

そう言われるとエリオットの顔色が一気に青ざめた。

「そうだった!アレスト殿のところへ行かないと!」

エリオットはばたばたとフィゼとともに部屋を離れた。

残されたカナトは窓を見て、鍵がかかっていないことを幸いに思った。

当初エリオットはカナトを檻に入れようとしたが、あまりにも暴れるのであきらめられたのである。

もう一度ドアを見てから窓に飛び移り、隙間程度にこじ開けると外に飛び立った。

屋敷の周りを飛び回って接客室を探していると、金髪白服が見えたのでビュンとその窓に飛び移った。

ア、アレストだ!!

久しぶりに見るその姿になんだか妙な安心を覚えて、一気に涙腺がゆるんだ。

今思い切りその胸に飛び込んで今まで遭ってきた不運を吐き出し、思い切りなぐさめて欲しかった。すべての辛いことを吐き出して甘えたかった。

だが、今そうするべきではないとわかる。

なのでその背姿を見つめながら会いたい気持ちを押し留めた。

全部が終わった後、もしまだ俺のこと愛しているなら…今度こそちゃんと使用人としてがんばるから!なんならああいう行為だってがんばる!だから待ってくれ!

しかし、飛びたとうする時、「どうして!?」とエリオットの叫びが聞こえた。

見ると、エリオットはテーブルに手をついて立ち上がっている。

「クローリーの処刑が明日に実行するってどういうことですか!」

エリオットは子犬みたいな外見なのに、怒ると意外と迫力があった。おそらく普段の姿からは怒るところが想像できないからだと思われる。

「すでにもとの処刑日より日程をずらしている。そのあいだに考えてくれるという話だが、返事がないからな」

エリオットが、うっと言葉につまり、視線をさまよわせた。

アレストの隣に座っている人物、フェンデルだと思われる人物も口を開いた。

「そうですよ。あなたがわざとそうしていることはお見通しですけどね。さすがにこれ以上待てません。どうかこの場でご決断くださいませんか?どのみち明日はクローリーの処刑日です。あとに控えているのは魔女の血を引いた子どもの処刑ですし、これを皮切りにたくさんの処刑予定が立つでしょう」

「あなたたちには人の心がないのですか!」

「もしセンテルブ家のご協力があれば、きっと処刑はもっとうまくいきますよ。あなたも慕われるかもしれません」

「そんなの望んでいない!私はっ、婚約者を…彼女をこのことに巻き込みたくはありません」

「では、早めに契約の続きをお願いいたします。せめてあなたが同意すれば今のところ彼女のところに被害はおよびません。他国でも魔女狩りが進め始めているのは知っていますか?」

「それが狙いですか……」

「まさか!こんなに影響が出るのも魔女の恐ろしいところですよね」

「ふざけたことを……」

エリオットが苦々しい顔でつぶやき、しかし、震える手で差し出された封筒を取った。

カナトは思わずよろけそうになる。

クローリー親子の処刑は確かシドから3日後に行われると言われた。すでにイグナスの屋敷から離れて3日以上過ごしている。ということは、エリオットが期限伸ばしてくれなかったらすでに処刑されていた可能性がある。

ク、クローリー親子が生きていてくれてよかった……。

後々そのことに冷や汗をかき、やはりイグナスのところへ戻ると決めたことは正解だと知る。

カナトはエリオットに別れも告げずにその場を飛び去った。







接客室でエリオットがなかなか封筒を開けないのを眺めていたアレストが、ふと窓を振り返った。

立ち上がって窓辺に行き、たった今飛び去っていく小鳥の姿を見つけた。しばらくしてからフッと笑い、そしてぽつりとつぶやく。

「……見つけた」














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