転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

決定

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なぜこいつがここにいる!?

カナトが目を見開いて固まっていると、エリオットはしっと口の前に指を持っていった。

「声を出さないで。隠れていよう」

エリオットはカナトを連れて岩の近くに腰を下ろした。

「はあ……それにしてもきみ、酷い有り様だよね。でも血は出てないみたいだし……泥遊びでもしたのかな?」

エリオットはカナトの体についた汚れを手で優しくはらった。

俺もこうはなりたくなかったけどさ、追われるからしょうがないだろ。小さいから中型の動物にまで狙われやすいし。

安心なのか、疲れなのか、カナトはどっと疲労感が押し寄せて来るのを感じた。乗せてくれる手のひらで座りやすい体制になる。

「僕さ、本当はこういうもよおし事は苦手なんだ」

ん?とカナトが休むために閉じた目を開けた。

「運動は苦手だし、人間関係だって好きじゃない。パーティーなんてもってのほかだし。1人でいるのが好きなのに、なんでこんなにも疲れるんだろう」

こいつ、動物相手に語りたくなるタイプか。

完全に聞き役のつもりでカナトはくつろいだ。

「特に最近はあのことで……いや、暗いことはやめよう。ただでさえみんな疑心暗鬼になっているのに」

あのことって、たぶん魔女狩りだよな。

カナトはエリオットの指を足でさすさすした。続きを言えという意味だが、まったく違うほうへと勘違いされた。

「もしかして、なぐさめてくれているのかな?」

ちげーよ!てっ、あー!顔近づけてくるな!

エリオットに頬をこすり付けられて手のひらから落っこちそうになる。

「柔らかいな。ふわふわだ。洗ったらきれいになるだろうなぁ。……そうだ!僕のところへおいでよ。大事にするから」

カナトがハッとした。

今はまだ首都にいるはずである。猛禽類に捕食されそうになる以外、首都から出た覚えはない。

とすればここはまだ首都のどこかであるはずだ。

アレストのところに帰るか?それともイグナスのところに戻るか?

ふたつの選択のあいだで悩み、答えが出ないうちに、エリオットのほうが決心した。

「よし、大会は例年通り棄権して帰ろう!」

だが、その時突然茂みから数人がわらわらと出てきた。先ほど、猛禽類のことで間接的にカナトを助けたあの若い貴族の男たちである。

「エリオット?なんだお前、今回も何も得られなかったのか?」

「そういうわけじゃ……」

「あ?なんだそれ?」

先頭にいた男が手のひらで死んだふりをしたカナトを見た。エリオットはさっきまで普通にしていた鳥が次の瞬間に死んでいたことに目をむいた。

「あ、あれ?なんで……!」

「ちっさいな!まあ、がんばれよ!」

男たちは笑いながら離れて行った。エリオットは必死にカナトを揺らしてなんとか呼び戻そうとした。

「なんで、さっきまではこんなに……もしかしてかなり深い傷で、それなのに気づかなくて」

エリオットの目に涙が浮かんだ。

「どうしよう……」

ぽろっと涙の一粒がカナトのお腹の上に落ちる。

本来なら死んだふりで捨ててもらおうとしたが、まさか泣かせてしまうとは思わなかった。

少しやりすぎたか?という罪悪感が湧き上がって来る。

カナトがちらっと目を開いてみた。

エリオットはうつむきながら静かに泣いている。

その姿があまりにもかわいそうで、カナトは死んだふりを続けられなかった。

もぞもぞと起き上がるとエリオットがパッと顔を上げた。

息を吹き返したカナトを見てギョッと目を見開く。

「生き返った!!」

「ぴぃ……」

「よかった!あ、もしかして、知らない人がいたから死んだふりしていたのかな!」

まあ、それでいいか。

「賢いなぁ、よく見たら賢い顔をしている」

え?賢い、顔?

今までアホっぽい顔と言われたことあるが、賢いと言われたのは初めてである。

カナトの目にキラキラとしたものが浮かんだ。

お前、案外いいやつだな!

1匹と1人が打ち解けた瞬間である。













首都、フランチェスタ邸宅。

庭でスズメに餌やりをしていた若い男の使用人が「また来た」とつぶやいた。

視線の先にはスズメの群れに混じって、1匹だけ毛色の違う鳥がいる。

スズメたちと同じように地面のパンクズを突いているが、あきらかに他のスズメを寄せつかぬよう威嚇していた。

「なんて図々しいやつなんだ」

おかげさまで使用人の立つ場所からスズメの群れと、1匹で半分に分かれている。

「あら?フィゼ、あの子また来たの?」

使用人の後ろからメイドが現れた。

「リンか。そうなんだよ。なんで毎朝飯の時間がわかるんだよ。しれっと混じりやがって」

「でもあの長い尻尾も正面から真っ白に見える体も可愛らしくて好きだなぁ!」

「あざとい鳥にしか見えないけどな」

たまに見知らぬこの鳥から、自分が可愛いのを知っているだろ、とツッコミたくなる時がある。

すると、白い鳥はふいに顔を上げた。

メイドのリンめがけて飛び上がり、ちょこんとその肩に乗る。

「まあ、見てフィゼ!飛んできたよ!可愛いねあなた!」

リンが鳥のあごをくすぐると鳥も気持ちよさそうに目を細めた。そしてちらりと視線をフィゼのほうにやる。

どこか挑発された気分にフィゼの眉がぴくりと動いた。

そういうところがあざといんだよ!クソ鳥が!

フィゼがギチギチと歯を慣らしていると、庭に続くドアの方で見え隠れする人影が見えた。ため息をついてから近づいていく。

「旦那様、何をしているのですか」

「フィ、フィゼ!」

「見たいなら近くまで来ればいいのに」

使用人というより、どこか友達じみた口調でフィゼは続く。

「あなたが連れてきたあの鳥、毎朝スズメたちとご飯の取り合いしているんですけど。ご飯あげなかったんですか」

「まさか!あげたよ!でも食べてくれないんだ……なんでだろう」

「何をあげたんですか?」

「いも虫。気に入ってくれるように張り切ってぷくぷく太った栄養のありそうなのを捕まえてきたのになぁ」

「じゃあなんであの鳥食べないんですかね」

「さあ……」

鳥とは言わずもがなカナトのことである。

カナトはまだアレストかイグナスのどちらのほうへ戻るのか決めきれなかった。しかし、ずっと迷っているわけにはいかない。体調は戻ったし、なくなった羽根も急に生えてきたし、そろそろ行かなければいけないと考えていたところである。

アレストのところへ帰れば絶対に魔女狩りを止められない。イグナスのところへ戻ればあるいは止められる。でもアレストに裏切りと思われて嫌われる可能性がある。

しかし、シドはまだ助け出せていない。となれば、戻るべきところは決まった。

もう普通に飛べるようになったし、行かないとな。








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