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第五章
被捕食者
しおりを挟むカナトは脳汁までしぼり出した気がした。
なぜならムカデとの会話が何一つ続かない。ほぼ三言以内で終わる。そのほとんどがうなずきで返され、声を出したかと思えば「そうか、ああ」といった相槌しかうたれない。
まったく心が打ち解けないことにくじけそうになる。
突っ立ったまま沈黙したカナトを見て、会話が終わったと思ったムカデは立ち上がると出て行こうとした。
「待った!!」
行こうとするその腕をつかんで無理やり椅子に座らせ、カナトは何か他に話すことはないかと必死に考えた。
ぐるぐるその場を回っているとポンッと何か思い出した顔をする。
「そうだ!俺お前の顔ずっと気になっていたんだよ!見せてくれないか?」
「ずっと?」
「そう!ずっと!ほら、昔シドから助けてくれただろ?」
「……その記憶はない。変えられた記憶のはずだ」
「そうか!……えと、じゃあとりあえず顔を見せてくれないか?」
ムカデが頭を振った。
「実はだな、アレストの側にもお前とそっくりなヤツがいるんだよ!髪色とか!」
「ムソクは弟だ」
「なるほど!どうりで………え?」
「………」
「弟?ムソクとお前が?」
小さくうなずかれた。
カナトが頭痛するように頭を抑えた。
この2人兄弟という設定だったのか!?どうりで似ていると思った!
「じゃあ、ムソクはお前が化けたわけじゃない?」
言い方はアレかもしれないが、カナトはずっとムソクがムカデなのではないかと疑っていた。
「ああ」
「マジか……兄弟か……思いつかなかった」
「帰る」
「え?もう?なあ、もう少しーー」
「シドを拘束している枷の鍵が欲しいのだろ」
カナトがぎくっとする。
「そ、そんなこと……」
「何を言われたか知らないが、予想はつく。アレスト様を助けたいならあいつの話を聞くな」
「え?いや、待てよ!なあ!」
だが今度こそムカデは出て行ってしまった。
「ダメだ。話を聞いてくれない」
何もできないまま真夜中を迎えた。
カナトは鳥の姿になってそっと部屋を出ていた。
仕方ない!こうなればこの枝でどうにか鍵開けられるかどうか試すか!
カナトの口には細い枝がくわえられている。事前にムカデの居場所を探したが、いくら飛んでもムカデは見つからなかった。
あいつどこで寝てんだよ。そもそもシドもムソクもどこで寝ているのかわからないし、いきなり現れるし。
ぶつくさと文句を心の中でもらしながらシドが閉じ込められた地下室の部屋に来る。
この地下室はフェンデルのところと同じ印象を受ける。広く、湿っぽく、重い空気がいつまでも停滞している。
その感覚に耐えられず、カナトはそそくさとドアの窓代わりの格子前に来た。
まずは枝を投げ入れ、続いて体を無理やり中へねじ込んだ。
ふんぐぅぅぅっ!!!
ポンッと弾き出されたように格子から抜け、落下寸前でなんとか翼をはためかせて体制を立て直した。
よし!無事着地!シドは?
暗闇のなか周りを見渡すと、カナトはふと何かと目が合った気がした。
じっと見つめられている感覚に思わずぞわりと全身の毛がふくらむ。
なんだ……何かいる。
その何かはゆっくりと身を起こし、カナトにじりじりと近づいた。暗闇に慣れた目でそれがなんなのかわかった瞬間、悲鳴がのどから出かかった。
猫だッ!!!!
身の危険を感じてカナトが慌てて格子から逃げようとするが、猫はそれを許そうとしなかった。カナトめがけて飛びつき、噛み付いては猫パンチを繰り返す。
カナトも必死に体をよじって、翼を駆使しながら逃げ出すが、すでに翼は羽根が抜け落ち、無理やり逃げ出したせいで体毛がボロボロになっていた。
やばいやばい喰われる!!なんで猫がいるんだよ!
必死の思いで猫に全力で頭突きをし、相手が怯んだすきに部屋から逃げ出した。
羽根が抜けたせいでうまく飛べず、何度も転げ落ちそうになりながらむやみに飛んでいった。そして気がつくと邸宅まで飛び出し、見知らぬところにいた。
周りをキョロキョロと見て目をしばたたかせる。
「どこだ?ここ」
カナトにいくら呼びかけても起きないと知らせを受けたイグナスは、体のみ残ったカナトを見てほんの一瞬生じた迷いが次の瞬間には消えた。
確かに“中身”が消えたのは厄介だが、反面、体は利用しやすくなったと言っていい。
イグナスは後ろで控えているクモに命令を出した。
「白い小型の鳥を探せ。さっき言った特徴を他の者にも伝えろ」
「はい」
捕獲命令出されたことを知らないカナトは、ボロボロになりながらどこか見つかりにくい木のの隙間に体をねじこませた。
「死にそ……」
さっきからいろんな動物に追いかけられてさまざまな逃走劇を繰り広げていた。
狐に追いかけられたり、怒ったうさぎに追い出されたり、フクロウに捕まりそうになったり散々である。
やっと休める場所を見つけて身を潜めているところだった。
野生で生きていくの大変だなぁ。
羽根がたくさん抜けたことでほとんど飛べず、まるっきり被捕食者になってしまっている。おそらく今のカナトは食物連鎖の一番下に位置すると思われる。
温かい布団を想像しながらカナトは一夜を明かした。
朝を迎えてぱちっと目を開けると、真っ先に確認するのが周りに他の動物がいるかどうかである。
い、いないよな?本当に出て大丈夫だな?
キョロキョロ見回してから、そろりそろりと外に出てきた。
自分のかわいそうな翼を見て、まだ戻らない羽根にため息をつく。体の毛にも汚れがたくさんつき、ずいぶんとみすぼらしくなっている。
とぼとぼと草陰に隠れながら歩いていると、突然上から風切りのようの音を聞き、見上げた瞬間、体に何かが食い込んだ。
「あぐぅ!?」
バサリとうらやましく思わせる艶のある翼を広げたのはどう見ても猛禽類のワシかタカである。
「ナニッ!」
こんな不運あるかよ!!
普段飛ばないような高さにすでに涙目になっていた。
「誰かーーーっ!!!」
悲鳴は誰にも届かなかった。
しかし、不運か幸運か、一本の矢が突然捕食者を射抜き、カナトもろとも下に落ちてしまった。
「ああああ"ーーーーッッ!!!」
バサボサと枝に引っかかりながらカナトがぼとりと地面に落ちた。
「うぅぅ………」
瀕死の状態で頭を上げると、複数人の足音と話し声が聞こえてきた。最後の力を振り絞ってなんとか草むらに身を隠す。
「おい、いたか?」
「いないな。こっちに落ちたの見えたけどな」
「あ、ほら!あっちの木に引っかかっているのがそうじゃないか?」
「あれだ!」
音はカナトが身を隠した草むらに近づいてきた。
草の隙間から見ると、狩り用の衣装に身を包んだ若い貴族の男たちが木を囲んで見上げている。木の上には枝に引っかかっている何かがいた。
あの鳥野郎!
すでに絶命しており、ぴくりともしない。
カナトは男たちがこっちに注意が向く前にこっそりと距離を取り、逃げ出した。
逃げながらまさかと思う。
ここって狩猟場じゃないよな!?
だがカナトの予想は当たってしまった。貴族と思われる人たちがあちこちに見え始めた。
やばい!本当に狩猟場だ!そういえば今は秋シーズンだった!
カナトはとんでもないところに落ちたと震えていると、後ろからガサリと音がした。
嘘だろ!?
振り返ると確かに人間の靴が見えた。
「かわいそうに」
だが降ってくる声はいたって柔らかく、声の主の優しさがにじみ出た声をしていた。
「大丈夫?怖がらなくていいよ。ああ……翼が酷い状態に……」
声の主はゆっくりとひざをつき、怖がらせないようにカナトを両手ですくい上げた。
見上げれば、そのトパーズのような目がある顔は見覚えのあるものだった。
エリオット・ロイマン・フランチェスタである。
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