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第五章
戻ってきたシド
しおりを挟む翌日午後、カナトはあり得ないものを見る目で部屋に入って来た人物を見た。
シ、シド……なのか?
入って来たのはイグナスたちに捉えられていたはずのシドである。体の露出部分に傷跡などはあるが、いたって元気に見える。そして手にはカナトの食事と思われるトレーを持っていた。
シドも先ほどからカナトを見下ろしながらどこか言い得ない表情をしている。
「……本当にカナト、なのか?」
ビクッとカナトが驚いた。
バレているのか!?いや、そもそもなぜシドがここにいる!
「アレストから聞いたが、お前……鳥だったのか?」
「もとから鳥だったみたいに言うな!鳥だったじゃなくて、鳥になったんだよ!自分からなったけどな!」
しゃべったのを見てシドの目がわずかに見開かれた。
「……鳥の中に閉じ込められたのか?」
「だから自分からなったんだよ!?それより、お前はなんでここにいるんだ?確か閉じ込められたんじゃ……」
「脱出して来た」
そんな簡単に?
にわかには信じがたい。だが、事実としてシドはここに立っている。
「どうやって?」
「ムカデが助けてくれた」
「な、なるほど……?」
でもムカデはイグナス側なんじゃ……。
カナトの中で情報がこんがらがってき始めた。
「お前こそ、いつから鳥に変身?できたんだ」
「お前が俺を檻に閉じ込めてパンクズを与えていた時からだよ」
「ああ、初めて会った時からか。驚いたな」
とはいえ、今のシドは言うほど驚いているようには見えない。
少し考えてからカナトは口を開いた。
「なあ、アレストって今何しているんだ?」
「ムソクと一緒に城まで行っている」
「城?まさかもう宰相になったりしないよな!?」
「宰相?この国に宰相という役職はない。政治は王と周りの大臣で決めている」
宰相という役職はない?でもあの未来ではあったのに……まさか、アレストが作ったわけじゃないよな?
だがあり得る気がした。カナトはアレストの権力がやがて手の届かない場所までくると、それこそ止められるわけがないんじゃないかと思った。イグナスを殺したという未来は、その権力が高くなりすぎたからなのではないか、そう考え、もういても立ってもいられなかった。
アレストが城に行くたびに邪魔するか?
「なんでそんなことを聞くんだ」
「え?あ、いや……その、気になって」
「アレストに宰相になって欲しいのか?」
そう聞くが、シドは少しおかしいと思った。カナトは「もう宰相になった」と言っている。まるで初めからなることを知っているかのような口ぶりだった。
だが、記憶の件といい、カナトが鳥になれるといい、おかしいことは絶えない。もう何を言われてもそれほど驚かない気さえしてくる。
「なって欲しいわけじゃないけど……どっちかで言えばなって欲しくないかな」
「なぜ」
「だって、どう考えても今のアレストは宰相になっておしまい、みたいに満足する気がしなくてさ」
「お前にしてはなかなか鋭いな。確かに今のアレストはそれだけで満足するとは思えない。むしろさらに何かしでかす気がする」
そう聞いてカナトの顔色が悪くなった。
「やっぱりそうだよな……」
「明日」
「え?」
「アレストが城で伯爵位を授与されるらしい」
「……なんだって?」
「アレストが念願の伯爵位を手に入れる日だ」
アレストが伯爵位を?でもアグラウは今イグナスのところにいて、譲ることはできないんじゃないのか?
原作のままだとアグラウが死んでから偽造の遺言書で爵位を手に入れるが、今は違うのか?とカナトの思考がまたからみつきそうになる。
「お前もついて行くか?」
「何に?」
「明日、アレストについて城に行くことだ」
「できるのか?」
「お前が頼めばいい」
今のアレストからOKと言ってもらえるかどうかわからないが、確かについて行きたい。できることなら伯爵位の授与を阻止したい。アレストが今以上に権力を手に入れてはいけない気がした。宰相になるどころか、爵位をもつことも危険な気がする。
だがまた勝手に行動して誰かが傷つくことになるのかもしれない。そう考えるとなんだか行動に移せなくなる。
その時、ドアがノックされた。
「カナト、ただいま」
アレストが帰ってきた。シドはちらりと視線をやってから、カナトの反応を見た。
なんとも言えないような表情でうつむいている。
ドアが開かれ、アレストとムソクが姿を現した。
中にいるシドを見てアレストが笑いかける。
「いたのか」
「………」
アレストはカナトの前まで来ると片ひざをついた。
「ただいま、カナト」
カナトはちらっと視線を向けるだけで枕の後ろに隠れた。
「カナトが喜びそうなお菓子を持って帰ったよ。食べるか?」
「………」
「城で出されるお菓子ばかりなんだ。カナトが好きなマカロンにタルト、あと焼き菓子もある。クリームたっぷりなケーキもあるよ。今の姿ならいくら食べてもお腹痛くならないんじゃないか?」
情けなくもカナトのはみ出た尻尾が反応した。
それを眺めていたシドは頭を軽く振り、空気を読んでそっと部屋を出た。廊下でドアを閉め、隣を見る。
ムソクがじっと見つめていた。
「言いたいことあるなら言え」
「どうやって戻って来れたのですか」
「すでに言ったが、自分で脱出した」
「信じると思いますか」
「勝手に想像してろ」
シドはその場を離れながら前髪をかき上げた。陰湿ぽい目で前方をにらみ、戻った記憶と偽物の記憶が噛み合わないことにイライラした。
勝手に頭の中をいじられたことにとてつもない気持ち悪さを覚えた。
「吐きそうだ」
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