転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
170 / 241
第五章

地下観察1

しおりを挟む








部屋の中ではアレストとカナトのふたりきりである。

カナトはお菓子の誘惑に負けそうになるが、簡単に許してはならないと自分に言い聞かせて我慢していた。

だというのに、

「固形のチョコレートを使ったケーキもあるよ。特別に頼んで作ってくれたんだ」

「………」

「もちろんカナトが好きな液体チョコレートもある。マシュマロも入れてみるか?」

絶えず続く誘惑にカナトが恨めしそうな目で枕裏から出てきた。

「……言っておくけど、俺を利用したことも、閉じ込めたことも許したわけじゃないからな」

「わかっている」

「お菓子を持ってこい」

アレストがうれしそうに笑った。

「すぐに持ってこよう」

「その前に!」

「うん?」

「魔女狩りのことなんだけど……」

「それはまた時間のある時に話そう」

「こんなこと時間のある時にじゃなくて、今話さないとダメだろ!」

「魔女狩りはもう止められない」

真剣な声にカナトがぎゅっと眉間を寄せた。

「でも、お前なら止める方法はあるんじゃないか?」

「……ないよ」

「そんな………どうすればやめてくれるんだよ」

「やめない」

「なんでだよ!明日伯爵の位をもらう予定だろ?爵位が手に入るならこんなことする意味もないんじゃないか?」

「もしかしてシドから聞いたのか?言ってしまうなんてな。明日言って驚かせたかったのに」

「アレスト…俺ーー」

「何度でも言うが、爵位はもともと僕のものだ。手に入れることはなんらおかしくない。だからそれは欲しいものとは違う。フェンデルやデオンたちに目的があるように、僕の目的はユシルとイグナスを排除してきみを手に入れることだ」

「俺ならここにいるだろ……」

「心まで欲しい」

「心だってとっくにお前のものだ!」

「でも僕はそう思わない」

「なんでだよ!ユシルとイグナスのことばかり見ていたのはただ読んでいた小説の推しだって言っただろ!俺が好きなのも愛しているのもお前だけなんだよ!俺はとっくにお前のものだろ!」

「そう言ってくれてうれしいなぁ。でも、僕が欲しいのはあの2人がいない世界で、僕以外のことに囚われないきみなんだ。あの2人がいる限りきみは永遠に僕だけのものになれない」

「だから、俺はとっくにお前のものだって言っただろ………。なんでそんな考えになるんだよ。ユシルとイグナスは好きだけど、そういう意味じゃないし、愛しているわけでもないし」

「ユシルがそこにいるだけで、僕のものがどんどん奪われる。居場所も、物も、人も。きみもいつか奪われるんじゃないかと思うと怖くて息ができない。現にきみはユシルとイグナスのところへ行こうとした。そうだろう?」

カナトは言葉につまって何も言えなかった。

「本当に僕のそばへ戻る気があるなら、きみはフランチェスタのところにいない。話によるとあそこで名前までつけられていたそうだな」

完全に言い返せなくなって、相手の視線から逃れるようにカナトはあとずさった。鎖が引っ張られて小気味良くジャラジャラと鳴る。

笑顔で見つめられ、それが耐えられず背中を向けた。

「ごめん……」

「カナトは優しいから、そうする理由にも思い当たる。もう驚くほどのことじゃないけど、傷つくなぁ」

「………っ」

「明日はもう知っての通り、伯爵位が授けられる日だ。譲り受けられたものじゃなく、僕だけの爵位なんだ。ぜひきみにも祝って欲しい」

「………俺も、城について行きたい」

「一緒に行こうか」

カナトは後ろめたさにアレストの顔を見れなかった。












結果だけ言えば爵位の授与は阻止できなかった。

爵位を受けるにあたってアレストは簡単に済ませた。

国王が爵位を授与する書類と祝いの言葉をかけ、アレストが感謝の意を述べる。

その場には国王、アレストとその肩に乗っているカナト以外に王子2人も在席している。

フレジアドは先ほどからずっとカナトを凝視していた。一方のフランはアレストを今生の仇でも見る目でにらんでいる。

「アレスト、今後も我が国のために尽くしておくれ」

「はい、もちろんです」

アレストはうやうやしく頭を下げた。

国王はまだ何か言いたげな表情をしているが、息子2人がこの場にいるせいかなかなか口に出せずにいる。

その様子を見てカナトは、この優しげな顔をした国王がアレストに利用される理由がわかった気がした。

はっきりと言葉にせず、ためらいがちな態度が逆手に取られやすいのだろう。もっとも、この時点ですでに昔の恋人と息子の命をアレストに握られているなら話は変わるが。

ちらっとアレストを見る。

もうやっていそうな気がするんだよなぁ。

カナトの記憶ではアグラウが死んだ時点ですでに国王はアレストの使いコマだった気がする。

物語の中ではどの時期から昔の恋人と息子を脅しに使うのか言及されていなかったので、カナトにもわからないが、国王の態度を見るに今脅しに使われていてもおかしくない。

「アレスト」

そう呼んだのはフレジアドである。階段を降りて目の前に来ると、視線が一瞬カナトに向いてからアレストに戻った。

「少し2人で話さないか?」

「ええ、かまいません」

フレジアドが振り返り、

「父上、少し彼と話し合いたいのでお先に失礼します」

「ああ、行くといい」

だが1人だけ反対している人がいた。

「兄上!」

フランがドスドスと階段を降りながらアレストの前に来た。にらみ上げながら言う。

「兄上、このような人と2人きりになるおつもりですか!」

「フラン、言葉を選びなさい」

「魔女狩りを推進するようなやつですよ!兄上はたぶらかされています!」

こいつ、フレジアドの前だと敬語キャラになるのか。しかも魔女狩りに反対しているぽいな。

カナトは珍しいものでも見るようにじっと見つめた。

「アレスト、弟が失礼を働いて申し訳ないね。フラン、先に戻っていなさい。いいね?」

「……っ、わかりました」

フランは悔しげにアレストをにらむと長く綺麗な髪をはらって国王のそばへ行った。

フレジアドはアレストとともに城の廊下を歩きながら仲良さげに会話をしている。

「本当に授与式がこんなに簡単なものでよかったのかい?」

「ええ、これで充分です」

「そうだね。そのうち貴族のあいだに広がるだろうね。ところで、その肩に乗っているぴぃについてだが……」

ぴぃ?とカナトが顔を向ける。

そういえば前にフレジアドの目の前でアレストにそう呼ばれていた気がする。

「ぴぃがどうかしました?」

「今朝面白い情報を小耳にはさんだのだが、きみの専属使用人が魔法で鳥に閉じ込められたようだね」

アレストが軽く笑った。

「そうですよ」

「その肩に乗っている子かな」

「さあ」

誤魔化されたのを見てフレジアドもそれ以上聞かなかった。

「せっかく城に来たんだ。参観していかないかい?」

「きみは?」

アレストは直接カナトに聞いた。

カナトは少し考えてから、視た未来でユシルが城の地下に幽閉されることを思い出した。

「……ち、地下?」

答えたのを見てフレジアドは笑みをたたえたまま驚いたように目を見開いた。

「地下か……悪くないね。きみの周りには楽しいものがたくさん集まるんだな、アレスト」

「殿下の周りにもたくさん集まっていますよ」

「そうかい?それじゃあ、ぴぃが地下を見たいなら行こうか。ちょっと罠があるから、案内役を務めよう」

罠を把握して、万が一に備えてユシルを助けないと!








しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...