転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

地下観察2

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城の地下にて。

寒気漂う地下で蝋燭の光だけが頼りだった。

「つい最近までここらへんはあまり使われていないから、少しほこりぽいけど、いろんな面白い罠が仕掛けられているんだ」

説明しながらフレジアドが先頭で案内をしている。

「例えばあそこの両側の壁が見えるだろう?この足元の線まで来て、壁に隠しているブロックを押し込まずに通ると床の罠が発動するんだ。どうなると思う?天井に押しつぶされるんだよ」

これを面白いと言うのか?

カナトはこの人畜無害そうな表面上優しい王子にヤバい人間とレッテルを貼り付けた。

さらに歩いていくと、

「この先を行くともっと面白い……あ」

フレジアドの指差す先から誰かが歩いてきた。かざしたランプの明かりでその柔和な顔立ちに暗い影を生じさせ、その人が生まれ持った裏の一面を照らし出したように見える。その顔も非常に不愉快そうにしかめられていた。

あいつ!キトウじゃないか!

「王子様か。こんなところにどうした。後ろのは……アレスト!?」

近づいてきたキトウが思い切り後ろに下がった。

「なんでこいつがここにいるんだよ!」

フレジアドは笑いながら「ごめん」と謝った。

「まさかばったり会うとは思わなかった。今日はお城の案内をしていただけだよ」

「それで地下まで来るか?どうせまた何か企んでいるんだろ?言っておくけど、俺はもうお前たち側だから、何かしようとするなら魔法で殺すぞ」

「ふふ、きみにそんな力が残っているのかい?」

「………っ、誰のせいだと。あちこちに災害起こすためにどれほど消耗し切ったと思っているんだ」

「ありがとう」

「ありがとうで済まそうとするな!いいか、俺が協力する条件は一つだけだ。何があっても俺に命の危機がおよばないと保証すること。それを忘れるな」

最後の一言はアレストに向かって言われたものである。

アレストはただ軽く笑うだけで答えなかった。

キトウは顔をしかめたままだいぶ距離を空けて2人の横を通り過ぎていく。

「彼、今日はずいぶんとイラついているなぁ。たぶん道に迷ったのだろう」

「キトウに気をかけていますね。殿下」

「ん?そうかい?でもそうだね、魔法を扱える人間なんて初めて見たから、ついつい蒐集癖しゅうしゅうへきがうずくんだよ」

地下を進みながらあちこちの罠と部屋の役割を紹介され、カナトの頭では覚えきれなくなってしまった。

「どうかな、ぴぃ」

「うぇ…!?俺?」

自分が話しかけられるとは思わず、カナトから驚いた声が出た。

びっくりした……。

おそらくではあるが、フレジアドは見た目や話し方から感じる通りの優しい人間ではないはずである。顔がいい人で蒐集癖のあるキャラは総じて何かある、とカナトは思っている。特に魔女狩りに賛成しているらしい姿勢やこの地下の罠をすべて暗記していそうな様子にただの優しい王子キャラとは思えない。

何よりもアレストの言う通りならこの人も計画の参加者である。まともなはずがない。

「俺は別に……普通かな」

「やっぱりきみにとっては大したことじゃないんだね。じゃあ次は拷問部屋を見に行こうか。とびっきりの拷問具を紹介しよう」

拷問と聞いてカナトの顔が引きつった。

「いや……俺はいいーー」

突然廊下にザザザッという音が響いた。

「この音はまさか……」

フレジアドが天井を見上げながらつぶやくと、ちょうど天井の部位が移動して、隠れていた矢が見え始めた。

まるで示し合わせたかのようにフレジアドとアレストがパッと後ろ飛んだ。

降ってくる矢がカコンカコンと音をたてながら地面に落ちていく。

だが向こう側に退いたフレジアドは額を押さえて困ったような笑みをもらした。

「やっかいになった」

その言葉の意味を訊くよりも先に、立っている場所と隣の壁ごと回転して、もといた場所とは反対側の通路に来てしまった。

ぴたりとハマった壁を振り向き、カナトが数秒間フリーズする。

「ア、アレスト……」

「うん?」

「あの王子と壁をはさんで別れてしまったけど、どうしたらいい?」

「たぶん罠の一つだろう。さっき上や他の場所からも似た音が響いていたから、たぶんいろんな場所で同じようなことになっているだろうな」

「ヤバくないか?案内役の王子いないとヤバくないか?」

「確かに」

アレストがニコッと笑った。

「そんな爽やかな笑顔で言うことじゃなくないか!?」

「一生ここから出られなくなるかも」

「ワッツ!?」

「もしかしたら罠にかかって死ぬかもしれないな」

「だから笑顔で言うことじゃないだろ!!どうするんだよ!!」

「その時は一緒に死にたいな」

「しっかりしろ!死ぬ前提で話すな!大丈夫!壁の向こうにあの王子いるだろうから、壁伝いに歩けばいけるかもしれない!」

「そうしてみよう」

あっさりと提案を受け入れたアレストは壁に手を置いて歩き出した。歩きながら肩に乗っているカナトがそっと首にくっついてきたのがわかる。

柔らかい毛のくすぐったさにフッと笑いがもれた。

「おいで」

カナトは差し出された手にすぐに飛び移った。大きな手のひらに包まれて、指の隙間からほぼ明かりのない廊下を見る。

「俺たちも蝋燭か何か持ってくればよかったな」

「そうだな」

「出られなくなったらどうしよう……よくあるだろ?数年後に白骨で発見されるやつ」

「ふっ……そうだな」

「笑ってるだろ!」

「ふふ」

「お前!こんな時に緊張感のないやつだな!」

さっきからほぼカナトが1人で騒いでいた。その声が静かな地下にかなり響いていた。

すると、呼応するように小さな声が聞こえてくる。

「………ぃ、か………」

わずかに聞こえた声にカナトがビクッと固まった。アレストの手のひらに体を丸く縮こませて震え出した。

「大丈夫か?カナト」

「い、今声が……」

「僕も聞こえたよ」

「やっぱり声あったよな!?」

「やっぱり誰かいるのか!?」

ほぼ奇跡的に誰かの声が重なってカナトから「ああーーッ!?」という悲鳴がもれた。

走り出す足音がどんどんこちらに近づいてくる。

「アレスト!!何か来る!!」

「……なんだろうな」

「なんでそんなに冷静なんだよ!」

カナトはほぼちびりそうな勢いで震えていた。前の曲がり角らしき陰から橙色の光がもれ、やがて誰かが飛び出してきた。

「誰かいるのか?お前………アレスト!?」

ランプを持って出てきたのはキトウだった。

その人物の顔を見て、一瞬の空白が生まれた。数秒後カナトが怒りの遠吠えをした。

「貴様かーーッ!!!」

突然しゃべり出した何かにキトウが驚いたように周りをランプで照らした。

やがてアレストの手の中に小さな鳥が握られていることに気づく。

「と、鳥?」








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