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第五章
凶器
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何やら雰囲気が変になってきているのを察したカナトは、シドとレックを見比べてどうするべきかと考えた。
確実に自分が原因でこの2人が戦いそうな気がしてくる。
「シド、俺を離せ。飛んでいけば捕まらないし、お前もそのすきに逃げろ」
「お前が飛んでいった瞬間、相手がナイフを飛ばさない保証もないけどな」
ナイフを飛ばされて簡単に撃ち落とされる場面が思い浮かんだ。
「じゃ、じゃあどうするんだ?」
「時間稼ぎすると言っただろ。とりあえず近くで身を隠せ。1人で出歩くな。いいか、ちゃんと見ておけ」
言うなりシドはいつの間に取り出したのか、手に小型のナイフを握るとレックに走り出した。
「……っ!」
ギリギリで細長い針で防いだレックは、視界の端で鳥が飛んでいくのを捕らえた。
「しまっ!」
「よそ見する余裕があるんだな」
シドは絶えず攻撃を仕掛けた。
「本気かよお前!」
すべての攻撃を防ぎながらレックは鳥の影を探そうとするが、暗いうえに周りは建物が立ち並んでいるのですぐに見失った。
「本当最近ろくなことがないな!」
レックはついこの前アレストから直々に罰を受けた。理由は抜け出したカナトの追尾をしていたにも関わらず、見失ったせいである。
一方のカナトは、2人の攻防戦を見守りながら何か手伝えないかと周りから武器を探した。よくて小枝。悪くて小石しかない。
石は重すぎてくちばしでくわえられない。
「というか、事態がどんどんいやな方向へ行くな。これ本当にあの未来みたいなになるんじゃないか?」
そう思うと今の行動一つ一つが慎重になってくる。が、もう逃げている。すでにアレストのもとから逃げている今の状況、慎重なのかどうか疑問が残る。言ってしまえば二回目である。
しかし、あのまま繋がれていたとしてもきっと状況が好転するわけじゃない。なんならカナトには脳汁しぼりきっても脱出する方法が思いつかない。
そんなことを考えている時、「ああ!」とシドの苦しげな声が聞こえてきた。
シド!
カナトが物陰からのぞくと、レックに乗りかかられる形で地面に押し倒されていた。首元には細長い針が当てられて身動きが取れないようである。
「そのまま押さえつけなさい」
どこからか女の声が聞こえ、見ると、2人のことに気を取られて気づかなかったが、馬車がこちらに向かって、馬のいななきとともに止まった。
質素で簡易な見た目の馬車のドアが開き、中からメイドが1人降りてきた。
御者を務めていた人物も席から降り、メイドに続いて降りてきた高い背の人物の前で一礼する。
「カ……いえ、レックよくやりました」
御者を務めていた人物、男性使用人の衣服を着た女が地面で転がっている2人の前に来た。
降りてきた高い背の人物を見てカナトはあごが外れそうなほど口を開いた。
なんと降りてきたのはアレストである。
なんでここにいるんだよ!?
「シド、きみがこんなことをするなんて」
アレストの言葉にシドが鼻で嗤った。
「はっ……白々しいな」
「そう見えた?………うむ、カナトが見当たらないな。どこかに隠れているのか?」
カナトはそう聞くとパッと頭を引っ込めた。
見つかったらどうなる?に、二度目だぞ、今回。
「カナト、出ておいで。じゃないとシドを殺すよ」
その言葉に全身が冷やっとする。カナトが、それだけはダメだ、と出て行こうとした瞬間ーー
「出てくるな!」
シドが叫んだ一声に足がぴたりと止まる。
「このまま逃げろ!」
逃げろって、お前はどうするんだよ!見ろ!アレストの顔がめちゃくちゃ怖くなっているぞ!ついさっきまで人ひとり埋めてきたみたいな顔してるぞ!
カナトは出ていくべきか、このまま逃げるべきかで葛藤した。
しかし、そんな葛藤を弾き飛ばすようにアレストの笑い声が響いた。
「ははははは!シド、あまり僕を怒らせないでくれ。きみ1人殺したくらいどうて事ない。替えなんていくらでもいる」
「そうか。じゃあ今ここでやってみろ」
次の瞬間、シドはレックを蹴り飛ばし、針がかすめて出血した首を気にもせずナイフをアレストに突き出した。
シド!?
これにはカナトも驚いた。
だが、シドのナイフが届く前に男性の給仕服を着た女と後ろ側で控えていたメイドがシドの凶行を止めた。
それぞれ鋭い武器を構えてシドを地面に押し付け、肩に武器を差し込んだ。
「はっ、ぐっ!」
「きみは賢いほうだと思ったが、ちょっと衝動的だな」
「カナト!絶対に出てくるな!お前が見つかればアレストは迷いなく俺を殺す!」
こんな状況なのにそんなことを言えば逆効果だろ!
アレストの怒りが怖くないのか、シドは押さえつけられながらもどこか挑戦気味な目で見上げた。
「………シド、何がしたい?」
やがてアレストから底冷えするような低い声が出た。
カナトが命の危機を感じた時と似た感覚がし、全身の毛が逆立ちしそうな勢いでブワッと広がった気がした。
怒っている。完全に怒っている。
カナトは思わず両足が震え出した。このまま出ていくべきだと理性が言っている。だがなかなか足は動いてくれない。それなのに、
「何があっても出てくるな!」
シドはやはり出てくるなと言う。
「………」
アレストは無言でそばに来たレックに向かって手を差し出した。その手に細長い針が渡される。
「カナト!聞こえるか?」
その声にカナトの体がビクッと大きく反応した。
「シドは殺すつもりだ。だが、きみが自分から出てくるならば生かしておこう」
「ああ、虫の息で飼い殺しするがな」
シドが続けた言葉にアレストは冷たい笑みを向けた。
「試すか?どのみちカナトは連れ帰る。どこに逃げてもだ」
「……お前は愛した人を苦しめるだけだ。根っから人を愛するのに向かない人間だ」
「お前は向いていると?」
そう言われてシドが一瞬言葉につまった。
「……どうだろうな。とっくに誰かを愛するほどの感情が抜けきっている」
「僕は違う。お前と違ってせめて今愛せる人がいる。例え向かないとしても、絶対に逃したりしない」
アレストは片ひざをついてシドの髪をつかみ上げた。
「カナト、これから言うことはきみも聞くといい。ーー僕は何もあきらめるつもりはない。欲しいもののために手を汚すくらいよろこんでやる。だから……」
アレストは針を高くかかげた。
雲に隠れた、半分欠けた月が姿を現し、針という凶器に鈍い光を宿らせた。
アレストの顔はこの上なく気分がよさそうに微笑んでいる。
「例え憎まれても、きみの心は離さない!」
「や、やめーー」
カナトが止める前に凶器は振り下ろされた。
確実に自分が原因でこの2人が戦いそうな気がしてくる。
「シド、俺を離せ。飛んでいけば捕まらないし、お前もそのすきに逃げろ」
「お前が飛んでいった瞬間、相手がナイフを飛ばさない保証もないけどな」
ナイフを飛ばされて簡単に撃ち落とされる場面が思い浮かんだ。
「じゃ、じゃあどうするんだ?」
「時間稼ぎすると言っただろ。とりあえず近くで身を隠せ。1人で出歩くな。いいか、ちゃんと見ておけ」
言うなりシドはいつの間に取り出したのか、手に小型のナイフを握るとレックに走り出した。
「……っ!」
ギリギリで細長い針で防いだレックは、視界の端で鳥が飛んでいくのを捕らえた。
「しまっ!」
「よそ見する余裕があるんだな」
シドは絶えず攻撃を仕掛けた。
「本気かよお前!」
すべての攻撃を防ぎながらレックは鳥の影を探そうとするが、暗いうえに周りは建物が立ち並んでいるのですぐに見失った。
「本当最近ろくなことがないな!」
レックはついこの前アレストから直々に罰を受けた。理由は抜け出したカナトの追尾をしていたにも関わらず、見失ったせいである。
一方のカナトは、2人の攻防戦を見守りながら何か手伝えないかと周りから武器を探した。よくて小枝。悪くて小石しかない。
石は重すぎてくちばしでくわえられない。
「というか、事態がどんどんいやな方向へ行くな。これ本当にあの未来みたいなになるんじゃないか?」
そう思うと今の行動一つ一つが慎重になってくる。が、もう逃げている。すでにアレストのもとから逃げている今の状況、慎重なのかどうか疑問が残る。言ってしまえば二回目である。
しかし、あのまま繋がれていたとしてもきっと状況が好転するわけじゃない。なんならカナトには脳汁しぼりきっても脱出する方法が思いつかない。
そんなことを考えている時、「ああ!」とシドの苦しげな声が聞こえてきた。
シド!
カナトが物陰からのぞくと、レックに乗りかかられる形で地面に押し倒されていた。首元には細長い針が当てられて身動きが取れないようである。
「そのまま押さえつけなさい」
どこからか女の声が聞こえ、見ると、2人のことに気を取られて気づかなかったが、馬車がこちらに向かって、馬のいななきとともに止まった。
質素で簡易な見た目の馬車のドアが開き、中からメイドが1人降りてきた。
御者を務めていた人物も席から降り、メイドに続いて降りてきた高い背の人物の前で一礼する。
「カ……いえ、レックよくやりました」
御者を務めていた人物、男性使用人の衣服を着た女が地面で転がっている2人の前に来た。
降りてきた高い背の人物を見てカナトはあごが外れそうなほど口を開いた。
なんと降りてきたのはアレストである。
なんでここにいるんだよ!?
「シド、きみがこんなことをするなんて」
アレストの言葉にシドが鼻で嗤った。
「はっ……白々しいな」
「そう見えた?………うむ、カナトが見当たらないな。どこかに隠れているのか?」
カナトはそう聞くとパッと頭を引っ込めた。
見つかったらどうなる?に、二度目だぞ、今回。
「カナト、出ておいで。じゃないとシドを殺すよ」
その言葉に全身が冷やっとする。カナトが、それだけはダメだ、と出て行こうとした瞬間ーー
「出てくるな!」
シドが叫んだ一声に足がぴたりと止まる。
「このまま逃げろ!」
逃げろって、お前はどうするんだよ!見ろ!アレストの顔がめちゃくちゃ怖くなっているぞ!ついさっきまで人ひとり埋めてきたみたいな顔してるぞ!
カナトは出ていくべきか、このまま逃げるべきかで葛藤した。
しかし、そんな葛藤を弾き飛ばすようにアレストの笑い声が響いた。
「ははははは!シド、あまり僕を怒らせないでくれ。きみ1人殺したくらいどうて事ない。替えなんていくらでもいる」
「そうか。じゃあ今ここでやってみろ」
次の瞬間、シドはレックを蹴り飛ばし、針がかすめて出血した首を気にもせずナイフをアレストに突き出した。
シド!?
これにはカナトも驚いた。
だが、シドのナイフが届く前に男性の給仕服を着た女と後ろ側で控えていたメイドがシドの凶行を止めた。
それぞれ鋭い武器を構えてシドを地面に押し付け、肩に武器を差し込んだ。
「はっ、ぐっ!」
「きみは賢いほうだと思ったが、ちょっと衝動的だな」
「カナト!絶対に出てくるな!お前が見つかればアレストは迷いなく俺を殺す!」
こんな状況なのにそんなことを言えば逆効果だろ!
アレストの怒りが怖くないのか、シドは押さえつけられながらもどこか挑戦気味な目で見上げた。
「………シド、何がしたい?」
やがてアレストから底冷えするような低い声が出た。
カナトが命の危機を感じた時と似た感覚がし、全身の毛が逆立ちしそうな勢いでブワッと広がった気がした。
怒っている。完全に怒っている。
カナトは思わず両足が震え出した。このまま出ていくべきだと理性が言っている。だがなかなか足は動いてくれない。それなのに、
「何があっても出てくるな!」
シドはやはり出てくるなと言う。
「………」
アレストは無言でそばに来たレックに向かって手を差し出した。その手に細長い針が渡される。
「カナト!聞こえるか?」
その声にカナトの体がビクッと大きく反応した。
「シドは殺すつもりだ。だが、きみが自分から出てくるならば生かしておこう」
「ああ、虫の息で飼い殺しするがな」
シドが続けた言葉にアレストは冷たい笑みを向けた。
「試すか?どのみちカナトは連れ帰る。どこに逃げてもだ」
「……お前は愛した人を苦しめるだけだ。根っから人を愛するのに向かない人間だ」
「お前は向いていると?」
そう言われてシドが一瞬言葉につまった。
「……どうだろうな。とっくに誰かを愛するほどの感情が抜けきっている」
「僕は違う。お前と違ってせめて今愛せる人がいる。例え向かないとしても、絶対に逃したりしない」
アレストは片ひざをついてシドの髪をつかみ上げた。
「カナト、これから言うことはきみも聞くといい。ーー僕は何もあきらめるつもりはない。欲しいもののために手を汚すくらいよろこんでやる。だから……」
アレストは針を高くかかげた。
雲に隠れた、半分欠けた月が姿を現し、針という凶器に鈍い光を宿らせた。
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