転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

矢面に立つ2

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カナトはユシルに教えてもらった呪文を懸命に覚えていた。万が一、写した紙が見れないなどの事態を防ぐために覚えておいたほうがいいと言われたからである。

そして、矢面に立つと約束してしばらく経った。

今日、カナトはアレストを止めるために魔女として人々の前に立つ日である。

馬車の中で緊張気味にうつむいていると、「ついたぞ」と声をかけられ、イグナスに続いて慌てて馬車を降りていった。

そして自分の体もそれに続いて馬車を出る。

「俺なんで自分の体に入ったらいけないんだ?」

「まだ時じゃない」

それ以降カナトは黙ってただ大人しくイグナスについていった。周りは娯楽施設が集まった通りであり、その中で劇場のある場所へと案内された。

劇場の中に入るのではなく、建物を回って広い空き地のようなところに出てくると、カナトは設置されている高台の上にあがるよう言われた。

そこは演目でもするためなのか、垂れ幕のある小屋みたいな設置物が見える。

「ここで何をすればいいんだ?」

「少し待て。俺がいいと言うまで、何があっても体に戻るな。いいな」

「わかっている。見るのもダメなんだろ?」

「そうだ。聞く以外、何もするな」

カナトはため息をついた。

知ってはいるが、イグナスの優しさはユシル限定のようである。小説を読むときはこんな情深い男をなぜ周りが恐れるのかわからなかったが、今は完全に理解できる。

「じゃあ、あっちの棚で待ってていいか?」

「ああ」

許可を得てカナトは自分の体の肩から垂れ幕の後ろにある少々古ぼけた棚に移った。

待つあいだカナトは漠然とした不安を感じていた。

不安をかき消すように魔女として言うべき言葉を頭の中で反復する。

俺が魔女だ。人々を惑わせたのも災害を起こしたのも……えーと、なんだっけ?

というか、災害を起こしたのはキトウなのに、なんで俺が肩代わりになるんだよ。

その時、ふと自分の浅はかな考えで肩代わりになったリアムとクローリーさんのことが頭をよぎった。そのせいでアレストも刺されてしまったのである。

カナトは必死に頭の中で言うべきセリフを繰り返し、なんとかそのことを考えないようにした。












太陽が少し傾き、カナトが昼寝からハッと目を覚ました。

外の喧騒が少し聞こえてくる。

なんだ?俺寝過ごしてないよな?

外の声に耳を傾けると、どうやらかなりの人数が集まってきている。

カナトがどうするべきかと迷っていると、イグナスの姿が垂れ幕の向こうから現れた。

「準備しろ。あと10秒数えたら体に戻れ。くれぐれも鳥の姿を見せるな、いいな」

「わかったけど、今外ってどうなっているんだ?」

せめて状況はつかみたかった。だが、イグナスは危険気味に目を細めて言った。

「こちらの言うことに従っていればいい。体に戻れば言うべきことはわかるな」

「わかってる」

イグナスがうなずいてから離れると、カナトは心の中で10を数え始めた。













外劇場に集まってきた貴族の中にアレストはいた。

あの人ならまず貴族ではなく民衆を動かすと思っていたが……。

どうやら読みが外れたようである。

アレストは周りを見回してから演劇舞台の上に目線を戻した。その目によりいっそうと冷たいものが張っていく。

舞台上には大きなギロチンがあった。そのギロチンの刃の下に手を縛られた人物が首を固定されている。その人物はアレストがよく知る人物である。

……違うな。

アレはカナトではない。

アレストにはわかる。アレはただの殻であり、中身はとっくになくなっていることを。

カナトが逃げた先だと考えられるのはイグナスのところであり、送られてきた手紙の名義は違うが、今回の招集もきっとイグナスの手筈てはずである。

舞台上にかけられている人物の体と合わせて考えると、これはイグナスの企であることは想像にかたくない。

忌々しいが、今あの体を奪い返すのは得策じゃない。ただ、どうせ壊されるなら自分の手で壊せないのが心残りである。

大事なプレゼントの外装を勝手に開けられたような気分にアレストは手をきつく握った。

その時だった。どこからともなく白い煙がカナトの周りで漂い消えていった。すると、何もないただの殻であるはずの体が突然ぴくっと動いた。

瞬時、アレストの表情に訝しげなものが浮かぶ。

死体みたいなカナトの体がまるで生気を吹き返したように、その顔が上げられた。周りの状況をつかむためかキョロキョロとし、やがて頭上にある大きな刃にギョッと目を丸くした。

カナト………?

アレは……いや、あの人は間違いなくカナトである。

アレストの中で小さな焦りがふつふつと湧き上がる。














カナトは自分がギロチンにかけられていることに気づいて思わず目ん玉がこぼれそうになった。

慌ててイグナスの姿を探すが、ギロチンのそばに立っている覆面の大男以外に舞台に人影は見当たらない。

どこにいるんだ!なんだこの状況!ガチで聞いてないぞ!

「早く言え」

カナトがパニクっていると、突然覆面の大男が小声にそう言った。

「は……?言う?」

「言うべきことがあるだろ。早く」

そうだ、魔女だって言わないといけないんだった。

「俺が魔女だ……」

「声が小さい」

「お、俺が魔女だ!!!」

一瞬の静寂後、下の方でどよめきが広がった。

「人々を惑わせたのも災害を起こしたのも全部俺だ!人々の記憶をいじったのもただの気まぐれで……えーと、俺が……俺が責任をもって処刑されるべきだ!!なぜなら俺がこの世で唯一存在する最後の魔女だからだ!!魔女狩りをするこの状況がおもしろくて言わなかっただけだ!!」

カナトが叫び終えて肩で息をして人々を眺めると、ふと周りの貴族にやや様子見をされているように気遣われている人物を見つけた。

高い背に白い貴族服、短く濃い金髪が日に照らされて輝いているように見えた。だが、その顔は見た目と違って酷く沈み、何かを耐えるように奥歯を噛み締めている。

「アレスト………」













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