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第五章
ギロチン
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カナトはこの場にアレストがいるとは思わず、つい固まってしまった。
そして2人が見つめ合っているのを垂れ幕の裏側から見ていたイグナスは、アレストの表情の変化にやはりと思った。
アレストが気にしているのは“カナトそのもの”である。例えば、体と魂を分けたとして、アレストに選ばせるなら迷うことなく魂を選ぶだろう。そして体のほうを容赦なく切り捨てる。
つまり、魂と体を合わせてカナトと認識しているのではなく、あくまで魂を、中身をカナトとしか認識しない。体へ向ける感情はただそれはカナトのものだから、愛する人の体だから執着を向けているだけである。
そして、その中身は意識体と言っていい。
今意識体のカナトが体に戻ったことを察したアレストがどう出るか、イグナスは見極めようとした。
すでに会場周りがアレストの手により火をつける準備が整っている。
空気中に混じる油とアルコールのにおい、そして火薬のにおいにイグナスは気づいていた。もしアレストがすべてを捨ててカナトを助けるために、ようやく手篭めにした貴族たちの前に出れるなら助かりようがある。逆に、カナトを捨てて計画を推し進めようならもはや手加減する必要はない。もしくは、カナトを助けたうえで計画を進めるのか。
イグナスは覆面の大男に目で合図をした。
「時間だ!」
叫んでから男は大きな斧を担ぎ上げ、ギロチンの刃を引っ張り上げている縄に狙いを定めた。
気づいたカナトがサァーと顔面蒼白になる。
「お、おいっ、本気なのか!」
小声に話しかけても大男からの返事はない。カナトの焦りがますます大きくなっていく。
こんなこと聞いてないぞ!!イグナスゥーー!!
せめて最期にアレストの顔でも見ようと目を向けた瞬間、元々いた場所にアレストの姿はなかった。
あれ?どこに行った?
周りを見渡すと、貴族たちの視線が同じ場所を見ていることに気づいた。同じように動かしにくい首でなんとか顔を向けると、コトリ、と足音が聞こえてきた。
黒い革靴が目に入り、見上げていくとアレストの顔が見え、その姿を認識した途端カナトの目に熱いものが込み上げてくる。
「アレスト……」
「カナト、きみは本当に……」
「俺……」
「いけない子だな」
仕方なさそうな口調と表情にやらかした感が一気に込み上げてくる。
そもそもカナトはこの場にアレストも来ることを教えられてない。ただ貴族たちが来るので、その前で自分が魔女だと認めればいいと言われた。
それがまさか斬首されそうな状況下でアレストの前でこんなことを言うことになるとは考えもしなかった。
「後少しだったのに」
計画のことだろうか。カナトはそう思った。もしやこれを受けて魔女狩りは止められるかもしれない。
だがなぜか不安な気持ちは消えない。
「カナト」
「は、はい」
「愛しているよ」
「え?今?……えと、俺も?」
「きみしか愛したことがない。これから先もきみだけだ」
「………」
カナトの頬に嫌な汗が流れた。
別れの言葉に聞こえるのは気のせいだろうか。
ま、まさかな……そんな別れの言葉だなんてことは……。
慈しみさえ感じられる青い瞳にカナトの不安は大きくなり、背中をゾワゾワさせた。
エリオットは今日体調を崩して寝込んでいた。
リンとフィゼが代わり代わりに来て世話をするおかげでなんとか食事がのどを通るようになっていた。
なのに、リンが何気に触れた話題に驚いて、病体のエリオットが飛び上がった。
「なんだって!?」
突然起き上がった主人に驚いたリンが、りんごの皮をむいたまま目をパチクリとさせた。
「えーっと、前に言っていた劇場が火に包まれました」
「火!?」
「は、はい……。消火はできましたが、参加していた貴族たちが重軽傷を負ったみたいです。しかも話によると元々は魔女処刑のために集まったようですよ」
「魔女……」
エリオットの中でまさかという憶測が飛び交う。
なんとなく、このことはアレストに関係があるのではないかと考えた。
「ね、寝ていられない」
「あ、ダメです!起きたらダメですよ!」
リンを押し返そうとリンゴを置いて立ち上がった。
「止めないでくれリン!アレストは間違ったことをしている!正しい道に導かないと!」
「なんでその人の名前が出てくるのですか!もう!」
2人が押し合いしているのを通りすぎのフィゼがドアの隙間から見えた。外出から帰ってきたばかりだと言うのに、さっそくその光景に頭痛を感じた。
フィゼは暴れるあまり、自分が入ってきたことにも気づかない2人の後頭部をパシッとはたいた。
「うわ!」
「いたっ!……あ、フィゼ!おかえりなさい!というか今はたいた?酷いわ」
「リン、お前こそ何やっているんだ」
「エリオットが起きようとするから寝てもらおうとしてたのよ」
フィゼがじろりとエリオットをにらんだ。
「ちゃんと寝ないで何をしているんですか」
「アレストのこと話しただろ?今回のこともしかしたら……」
「だとしても知らないフリをしないといけませんよ。これからどうなるのかわからないんですから、情勢を見て行動してください」
「でも」
「まさか本気であの人を正しい道に導かないといけないなんて思ってませんよね?あなたを脅かした人ですよ」
エリオットはどこかアレストを友達だと思っている節がある。それがフィゼを一番悩ませていることだった。友達少なすぎて色々とこじらせたのかもしれない。
「しかも今日教会へ行った時、少し雰囲気がおかしかった。リンも近頃は教会は避けたほうがいい」
「そうなの?わかったわ」
「旦那様は?おわかりか?」
「はい……」
エリオットが落ち込んだように肩を落とした。もはやどちらが主人なのかわからない。
フィゼはふたたびベッドに戻ったエリオットを見て、すっと眉を寄せた。
実はエリオットにも劇場へ行くよう手紙が来ていた。しかし、手紙はフィゼの手によって隠されたのである。あの手紙にはわざと送り主がわからぬよう、偽の名義を使った形跡があった。そしてフィゼ自身、エリオットを魔女狩りとなるべく関わって欲しくなかった。
エリオットの言う通り、アレストと関わっていることは確かだろうな。あー!なんてやっかいな!なんでこいつはアレストを正しく導けると思ったんだ!バカか!
そして2人が見つめ合っているのを垂れ幕の裏側から見ていたイグナスは、アレストの表情の変化にやはりと思った。
アレストが気にしているのは“カナトそのもの”である。例えば、体と魂を分けたとして、アレストに選ばせるなら迷うことなく魂を選ぶだろう。そして体のほうを容赦なく切り捨てる。
つまり、魂と体を合わせてカナトと認識しているのではなく、あくまで魂を、中身をカナトとしか認識しない。体へ向ける感情はただそれはカナトのものだから、愛する人の体だから執着を向けているだけである。
そして、その中身は意識体と言っていい。
今意識体のカナトが体に戻ったことを察したアレストがどう出るか、イグナスは見極めようとした。
すでに会場周りがアレストの手により火をつける準備が整っている。
空気中に混じる油とアルコールのにおい、そして火薬のにおいにイグナスは気づいていた。もしアレストがすべてを捨ててカナトを助けるために、ようやく手篭めにした貴族たちの前に出れるなら助かりようがある。逆に、カナトを捨てて計画を推し進めようならもはや手加減する必要はない。もしくは、カナトを助けたうえで計画を進めるのか。
イグナスは覆面の大男に目で合図をした。
「時間だ!」
叫んでから男は大きな斧を担ぎ上げ、ギロチンの刃を引っ張り上げている縄に狙いを定めた。
気づいたカナトがサァーと顔面蒼白になる。
「お、おいっ、本気なのか!」
小声に話しかけても大男からの返事はない。カナトの焦りがますます大きくなっていく。
こんなこと聞いてないぞ!!イグナスゥーー!!
せめて最期にアレストの顔でも見ようと目を向けた瞬間、元々いた場所にアレストの姿はなかった。
あれ?どこに行った?
周りを見渡すと、貴族たちの視線が同じ場所を見ていることに気づいた。同じように動かしにくい首でなんとか顔を向けると、コトリ、と足音が聞こえてきた。
黒い革靴が目に入り、見上げていくとアレストの顔が見え、その姿を認識した途端カナトの目に熱いものが込み上げてくる。
「アレスト……」
「カナト、きみは本当に……」
「俺……」
「いけない子だな」
仕方なさそうな口調と表情にやらかした感が一気に込み上げてくる。
そもそもカナトはこの場にアレストも来ることを教えられてない。ただ貴族たちが来るので、その前で自分が魔女だと認めればいいと言われた。
それがまさか斬首されそうな状況下でアレストの前でこんなことを言うことになるとは考えもしなかった。
「後少しだったのに」
計画のことだろうか。カナトはそう思った。もしやこれを受けて魔女狩りは止められるかもしれない。
だがなぜか不安な気持ちは消えない。
「カナト」
「は、はい」
「愛しているよ」
「え?今?……えと、俺も?」
「きみしか愛したことがない。これから先もきみだけだ」
「………」
カナトの頬に嫌な汗が流れた。
別れの言葉に聞こえるのは気のせいだろうか。
ま、まさかな……そんな別れの言葉だなんてことは……。
慈しみさえ感じられる青い瞳にカナトの不安は大きくなり、背中をゾワゾワさせた。
エリオットは今日体調を崩して寝込んでいた。
リンとフィゼが代わり代わりに来て世話をするおかげでなんとか食事がのどを通るようになっていた。
なのに、リンが何気に触れた話題に驚いて、病体のエリオットが飛び上がった。
「なんだって!?」
突然起き上がった主人に驚いたリンが、りんごの皮をむいたまま目をパチクリとさせた。
「えーっと、前に言っていた劇場が火に包まれました」
「火!?」
「は、はい……。消火はできましたが、参加していた貴族たちが重軽傷を負ったみたいです。しかも話によると元々は魔女処刑のために集まったようですよ」
「魔女……」
エリオットの中でまさかという憶測が飛び交う。
なんとなく、このことはアレストに関係があるのではないかと考えた。
「ね、寝ていられない」
「あ、ダメです!起きたらダメですよ!」
リンを押し返そうとリンゴを置いて立ち上がった。
「止めないでくれリン!アレストは間違ったことをしている!正しい道に導かないと!」
「なんでその人の名前が出てくるのですか!もう!」
2人が押し合いしているのを通りすぎのフィゼがドアの隙間から見えた。外出から帰ってきたばかりだと言うのに、さっそくその光景に頭痛を感じた。
フィゼは暴れるあまり、自分が入ってきたことにも気づかない2人の後頭部をパシッとはたいた。
「うわ!」
「いたっ!……あ、フィゼ!おかえりなさい!というか今はたいた?酷いわ」
「リン、お前こそ何やっているんだ」
「エリオットが起きようとするから寝てもらおうとしてたのよ」
フィゼがじろりとエリオットをにらんだ。
「ちゃんと寝ないで何をしているんですか」
「アレストのこと話しただろ?今回のこともしかしたら……」
「だとしても知らないフリをしないといけませんよ。これからどうなるのかわからないんですから、情勢を見て行動してください」
「でも」
「まさか本気であの人を正しい道に導かないといけないなんて思ってませんよね?あなたを脅かした人ですよ」
エリオットはどこかアレストを友達だと思っている節がある。それがフィゼを一番悩ませていることだった。友達少なすぎて色々とこじらせたのかもしれない。
「しかも今日教会へ行った時、少し雰囲気がおかしかった。リンも近頃は教会は避けたほうがいい」
「そうなの?わかったわ」
「旦那様は?おわかりか?」
「はい……」
エリオットが落ち込んだように肩を落とした。もはやどちらが主人なのかわからない。
フィゼはふたたびベッドに戻ったエリオットを見て、すっと眉を寄せた。
実はエリオットにも劇場へ行くよう手紙が来ていた。しかし、手紙はフィゼの手によって隠されたのである。あの手紙にはわざと送り主がわからぬよう、偽の名義を使った形跡があった。そしてフィゼ自身、エリオットを魔女狩りとなるべく関わって欲しくなかった。
エリオットの言う通り、アレストと関わっていることは確かだろうな。あー!なんてやっかいな!なんでこいつはアレストを正しく導けると思ったんだ!バカか!
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