転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

食事

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監禁生活を送り始めて数日。

カナトは今日も頭がフラフラするのを感じていた。

どこかぼうとして、うまく物事を考えられない。こんな状態はすでに1日や2日ではない。何日も続いている。

少し頭がはっきりしてきたと思えば、時間が経てばまたぼうとし始める。

どうなってんだ……。

ベッドの上に座り、壁に背中を預けながらカナトはぼうと一点を意味なく見つめていた。

どうなっていると頭の中で思っていても理由を考えるだけの気力がない。

その時、ガチャンとドアの鍵が開く音を聞いた。カナトが「ぁ……」と顔を上げる。

「カナト、調子はどうだ?」

「アレ、スト……」

カナトが手を伸ばそうとした。しかし足枷の鎖に引っかかってベッドの上に力なく落ちてしまった。

「力が入らないのか?」

アレストは持ってきた食事のトレーを近くの棚に置き、ベッドに腰掛けるとカナトがさっき伸ばそうとした手を取った。

「……鎖の跡がついてしまったな」

指で充血した跡をなでながらその目がカナトの腕、脚をなぞっていく。

「傷跡ばかりだな。鎖から紐に変えようか。痛かっただろ?」

「いた、い……?」

「大丈夫。薬を塗ったら良くなるはずだ。それよりお腹すいただろ?食べさせてあげるから、口を開けて」

言われた通り、一秒遅れてカナトが口を開けた。

「いい子だな」

アレストは食事のトレーを引っ張り寄せて一口一口カナトに食べさせた。

「おいしいか?」

「………うん」

「よかった。実は最近おもしろいことができるようになったんだ。カナトにやってもいいか?」

「………うん」

「痛くないから大丈夫だよ」

「………うん」

食べ終えたカナトの口を拭き、アレストは軽いキスをカナトの額に落とした。そして抱き寄せ、手のひらをキスした部分にそっと当てる。

カナトはひんやりした何かが額に触れてきた気がしたが、ぼんやりしている頭ではそれがなんなのかすぐにはわからなかった。

ただひんやりした感触に目を閉じると、まぶたの裏に光る白い小鳥の姿が見えた。それが遠くから目の前まで円を描くように飛んでいると、突然黒い触手のような何かにからめられ、姿が闇の中に消えてしまった。

小鳥が見えなくなってカナトが苦しげな声を出した。

「う……っ」

「カナト、大丈夫か?苦しいのか?」

「と、り……」

「大丈夫だよ。鳥はどこかで休んでいるのだろう。疲れているみたいだから今は何も考えずに眠るといい」

言われる通り、カナトは少しずつと眠気が襲ってくるのを感じ、そのままアレストにもたれかかって寝息を立てた。










そしてふたたび目を覚ました頃、カナトの頭はだいぶ醒めている気がした。

起きあがろうとすると、とんでもない頭痛に額を押さえ、よろよろと起き上がった。

「まただ……」

眠りから覚めるととんでもない頭痛がここ最近続いている。そしてぼんやりになっている期間のこともなんとなく覚えている。

「絶対何かされている」

カナトは必死にどの時間帯でぼんやりするのかを思い出そうとした。

よく起きる時にそうなるのなら、寝ている時に何かされたのか?いやでも、そうならない時もあるし、……どちらかでいうと朝や夜あたりによくぼんやりするな。

朝と夜?何か関係でもあるのか?

だがどんな関係があるのかカナトにはさっぱりわからない。

目線をめぐらせると、ベッド側に備え付けられている棚には食事用のトレーが置かれていた。

顔を上げて壁上部の格子窓を見ると、すでに外は真っ暗だった。さらに目線を足に落とすといつもと違うことに気づいた。鎖がいつの間にか指くらいの幅がある赤い紐に変えられている。いや、縄と呼んだほうがいいかもしれない。

頭痛がなかなか引かず、かつお腹がすいてきたため食事に手を伸ばした。全部をかき込むと空の食器を重ねてトレーごと棚に戻す。

「よし、この紐ならちぎれるんじゃないか?」

しかし、どれぐらいやっても紐が切れることはなかった。そうしているうちにカナトはだんだんと頭がぼうとし始めてきたことに気づいた。

しまっ!この感覚また来た!

必死に頭を振ったりたたいたりするが、何一つ効果はない。頭はどんどん考える気力を奪い、カナトは体からだらりと力を抜いた。そのまま後ろへ倒れ、天井の一点を意味もなく見つめ始める。

おかしい…な。何もしてない、はず、なのに……。

だがぼやける思考の中でふと食事をしたと思い出した。

そうだ……食べたんだ。でも、朝と夜なのはなんで、だ……昼も食べているのに。

まさか食事とは関係がないのか?その考えを最後にカナトは完全に何も考えられなくなった。

ただ生気の欠けた瞳で天井の黒い点をぼんやりと見つめた。












翌日の朝食、カナトは食事を食べなかった。すると頭痛は残るものの、ぼんやりすることはなくなった。

やっぱり食事が原因なのか!?でもなんで……まさか、薬か?

アレストに限ってそんな……いや、あり得る。あり得すぎて疑えない!アレストなら絶対知っていて俺に食べさせたはずだ!

実際その日の昼に来たアレストが、手のつけられてない食事を見て口もとの笑みがいくばくか消えた。

「なぜ食べなかったんだ?」

アレストは新しく持ってきた食事を朝食分と並べ、ベッドに腰かけた。

「……なんか、入れてないよな?その、食事の中に」

単刀直入に訊くと、アレストはほんの驚いたように目を見開いてみた。

「よくわかったな」

あんまりにも隠す気がない態度にカナトがあんぐりと口を開けた。

「何入れたんだよ!ほとんどの時間ぼんやりしてて、頭も痛いし、何も考えられないし!」

「それが目的だよ」

「は?」

「そうするとカナトが逃げれる確率も少なくなるだろ?」

「お前……ッ!」

「カナトはすぐに逃げていく。だからそばに留めていられる方法を探したらこれに行きついたんだ。本当はカナトもほっとしているんじゃないか?」

「どういう意味だ?」

「ぼんやりしているあいだはシドもクローリー親子のことも考えなくていい。気が楽になるだろ?」

「………っ!そんなわけないだろ!」

「でもカナトは自分のせいで死んだと思っているんじゃないか?そう考えるのって辛いだろ?あの人たちの自業自得とはいえ、優しいカナトはそう思わないだろうと思って。これはきみのためなんだ」

「ふざけるな!もう一生食わない!」

「それは困るな」

アレストは食事のトレーをベッドに移し、昼食分に持ってきた果物をフォークで刺した。

「せめて何か果物でも食べたらどうだ?」

「近寄るな!」

だが次の瞬間、アレストの手が伸びてカナトの頬をぐっとつかみ、無理やり果物をねじ込んだ。

「んうーーっ!!」

「本当はこの薬は時間を開けておかないといけないんだ。だから昼食分は抜いてある。でもちゃんと食べないと、これからはすべての食事に薬を入れるよ」

吐き出されないよう口を塞がれたカナトは、涙目で陰鬱いんうつな笑みを浮かべたアレストを見た。

今回は今までと違い、アレストは本気でこの部屋で一生自分を閉じ込める気でいることにカナトは気づいた。










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