転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

懇願

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翌日、カナトは朝から難しい顔をしていた。

朝食と昼食があるトレーをにらみながらどうすれば食べたと誤魔化せられるのかを考えた。

しかし、何を考えてもアレストに通用しない気がする。

とりあえず薬が入っていなさそうな昼食分を少し取り、なんとか空腹をしのいだ。

食事が二食分もあるから、今日もアレストは夜しか来ないと思っていたら、昼に近い時間になった時、ガチャリとドアの鍵が外れる音を聞いた。

案の定、入ってきたのはアレストだった。この部屋へ他の人が入ってくることはまずない。しかし、今日はなぜかその隣にムソクがついていた。

「カナト、昼食より朝食のほうを先に食べないと」

たった今残しておいた昼食を食べていたカナトがキッとにらんだ。

「言われた通りに朝食を取ると思うか!」

「わかっていた。だから今日はムソクを連れてきた。最近は色々と忙しいからなかなか来れなくてすまない」

そう言うが、要は一日の内に顔を出す頻度が低くなっただけで、アレストはほぼ毎日顔を見せている。

「こんな薬なんか使わないならいくらでも大歓迎だけどな!」

カナトはユシルのことを聞きたいが、今までのことを考えるとそれはこの場で言うべきじゃない気がした。

なのでカナトは慎重にならざるを得なかった。

「そうだろうな。でも今日から、ムソクが代わりに監視してくれる」

監視だってはっきり言ったぞコイツ!

「ムソク」

「……はい」

アレストはムソクの肩に手を置き、低い声で言った。

「お前はムカデみたいにならない。そうだな?」

「もちろんです。兄のようには…なりません」

「それでいい」

離れて聞いていたカナトですらぞっとするような声だった。

しかし、ふたたび振り返ったアレストは優しい笑みをしていた。

「もう行かないといけないけど、何か必要なことがあればムソクに言うといい」

「……おう」

「それじゃあ、また夜に」

アレストが出ていくとムソクもその後に続いた。ただ、おそらくムソクは外で待機していると思われる。

あいつ外で待つってことは、鍵持っている可能性あるよな?じゃないといざ何かあった時呼んでも意味ないし……よし。

ムソクからなんとか部屋の鍵をもらうとして、まずはこの足枷の紐を切らないとな。

カナトの視線がひざに置いたトレー上の皿に注がれた。

これを割ればいけそうだな。……逃げたら、今度は何をされるんだ?今度こそ本当に殺されるかもしれない。

そう思うと行動に移すのをためらってしまいそうになる。

だが、このままでは本当に視てきたあの未来になってしまいそうで、カナトは恐怖を感じた。抜け出さないといけない。

だがすぐに、逃げたらダメだ!と考え直した。

今まで逃げれば逃げるほどアレストのやり方が酷くなっていく。

何か、もっと確実な方法は……。

そこでハッとした。

アレストはフェンデルたちが協力するのはそれぞれ欲しいものがあるからと言った。そしてアレストが欲しいのは自分とだとも言った。

じゃあ、自分が裏切らないことを証明すればいいのではないだろうか?カナトはそう考え、棚で放置されている朝食を見た。昼食分のトレーと交換し、薬入りの朝食分をひざに乗せる。

「よし、食うぞ!」

カナトは決心してぱくぱくと朝食分を半分ほど平らげた。

今できる証拠はこれくらいしかない。

そして若干ぼんやりする頭でアレストが来るのを待っていると、いつの間にか眠ってしまい、目が覚めた頃誰かに抱き起こされているのに気づいた。

「アレスト……?」

「僕だよ」

「来た、のか……」

「まさか朝食分を食べるとは思わなかったよ。昼あたりに来た時は食べないだろうと思っていたけど……」

「ああ、それな」

薬入りの朝食分を半分しか食べていないとはいえ、やはり頭ははっきりと思考ができずにぼやけているように感じる。カナトは頭を押さえながらポツポツと言った。

「ほらお前、俺が欲しいって、言ってただろ……」

「そうだな」

「だからさ、これで証明になると思って……」

「証明?」

「ここから絶対に離れないし、言うことも聞く、薬のご飯も食べる……だから、もう計画とか、やめないか……?欲しいのは俺なんだろ?ずっと離れないから、この部屋から…だから……」

「それは無理かな」

「え………?」

「僕が良くてもフェンデルやブラッドたちが簡単にはあきらめないだろう。最後までやり切らないと、僕が計画を止めようとする原因であるきみを排除するかもしれない。いわば止めないのはきみのためなんだ」

「ま、待て……」

「それに、実はきみにご飯をしっかり食べてもらおうと思って特別なものを持ってきたんだ」

「特別って……」

「これだよ」

「………?ーーッ!?」

アレストがベッドに置いた、布でくるんだ何かに手を伸ばした。かけられた布をどけていくと、細長い何かが見えた。それがなんなのか、カナトが目を凝らすと、はっきりと見えた物に思わずぼんやりしていた頭が幾分正気に戻った。

「な、なんだこれ!!」

「人間の指」

「ひっ…!」

「これはユシルの指だよ」

「え、は……?」

「これは人差し指だけど、中指は辺境伯のところへ送ったんだ」

「なに、いって……」

「キトウに手伝ってもらったら、辺境伯がのこのこと来たんだ。今ユシルはちゃんと自分の体に戻っている。キトウでおびき出したら普通に出てくるし、現在キトウ自身も意識体の姿で生き地獄味わっている」

そこまで言うとアレストが優しい笑みでカナトを見つめた。

「大丈夫。必ず全員に対価を払わせる。……今日は気分がいい。カナトがあまりのもうれしいことを言ってくれるから。昼に薬食べたから、夜の分はやめておこう。僕はまだ少し仕事が残っているから、また来るよ」

「ま、待って!アレスト!」

ベッドから離れたアレストを追うために、カナトは紐に足を取られながらなんとかその服をぎゅっとつかんだ。

ふらついた足でしがみつくと優しい手つきで抱き上げられ、手の甲にキスをされながらベッドに降ろされた。

「危ないだろ?酷い怪我をしたらどうする?」

しかしカナトは手を離さず、アレストをベッドに引き倒した。

「お願いだ!もうやめてくれ!なんでもする!首輪つけるのも、拷問も監禁もなんでも言うことを聞くからさ、もうこんなことやめてくれよ!」

ぽたぽたと泣きながら懇願にも似た声でカナトはすがりついた。

「言っただろ!お前のためにユシルやイグナスのところに行ったんだ!裏切りたいわけじゃない!全部俺のせいなんだよ!お前が刺されるようなことになったのも、俺のせいで死んだ人も……全部、全部俺のせいだ……」

「カナト、そんなに泣かないでくれ」

アレストはそっとカナトの涙をふいてあげた。だがその手がぱしっと無情にはらわれた。

「俺は本気なんだよ!首輪で繋がれてもいい、お前になら拷問だってされていい。お前が言うならこの部屋から一歩も出ないし、死ぬまでお前しか見ない!」

アレストはカナトの言葉に少なからず心を揺り動かされた。

ーー死ぬまでお前しか見ない

その言葉を聞いた瞬間、ゾクッとした電流にも似た感覚が体を駆け巡った。それはアレストが願ってもないことである。だが、それがカナトが自分から進んでやりたいのではなく、あくまでユシルたちのために言った言葉だと思うと、顔に浮かんだわずかな恍惚とした表情も消えた。

やはりユシルやイグナスの存在はカナトの中で特別だ。そんな特別な存在をアレストは野放しにするつもりはなかった。

「実は言わないといけないことがある」

「な、なに?」

「実は僕が刺されることになったのは計画の一部なんだ」

「計画の、一部……?」

「そう。リアムが監視されているにも関わらず、果物ナイフを入手できるのは僕が持たせるように手回ししたんだ」

「は……?どう言うことだ?」

「国王には昔貧しい恋人がいたんだ。身分差の恋で、最後は叶わなかったけど、クローリー親子をその恋人と子どもってことにして、利用していたんだ。国王はまんまとだまされて僕にいいように使われた。最終的には爵位まで与えてくれるいい傀儡くぐつだよ」

「言ってる意味が、わからないんだけど……つまり……」

「つまり僕が刺されたことできみが後ろめたさを感じなくていい」

アレストは望んでいた感情をカナトの表情から見出そうとした。しかし、カナトはただぽろぽろと泣いて悲しげな顔をしていた。

「………」

ここまでやって、話しても待ち望んでいた感情は見当たらない。

なぜだろうか。

だまして、監禁して、守っていた人を殺して……それでもなおカナトから憎しみの感情が見えない。






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