転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

カメレオン

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アレストは泣き続けるカナトをなだめ、部屋を出て行ったあとカナトはずっと落ち込んで寝れなかった。

すでにいつもなら眠気で寝ているが、今日は衝撃すぎてまぶたも閉じれない。

本物の、指だよな………。痛かったんだろうな。イグナスも絶対にアレストを許さないはずだ。

どすればいい?カナトはひざを抱えた。

キトウがどうやって意識体になれたとか、なんでアレストがそれを知っているとか、自分がここでぼんやりしているあいだに、アレストに言ってないことまでたくさん知られている。

ユシルが体に戻れたのはいいことだが、前提としてイグナスの側で守られていなければいけない。

キトウで誘き出したということは、何かを対価としたか、脅されたのかもしれない。あのユシルがまさか自分の体を取り戻すためだけに誘き出されるとは思えない。

「ダメだ……薬のせいでうまく考えられない」

アレストの闇堕ちから主人公たちとの対立まで何一つ阻止できてない。

カナトはこんなに挫折と絶望を味わったのは初めてである。

「クソッ……頭イテ……」

ガサガサ、ガサガサ

ん?

カナトが顔を上げて周りを見た。

ベッド脇に置いたランプをとって部屋の中を照らした。

「だ、誰かいるのか?」

さっきからガサゴソとする音が聞こえる。だが他に誰かいる様子はない。

「バガお前、声出すな」

そんな小声に怒鳴ってくる声があった。カナトがビクッとしてランプを取り落としそうになる。

「だ、誰だ?」

「だから声出すな。むしろ落とせ。上だ、上」

カナトが天井を見上げた。

「そっちじゃねぇって。窓のほう!」

壁上部に嵌められている格子窓を振り向くと、そこから布のようなものが垂らされていた。

な、なんだあれ!?

幽霊なのか、と身構えていると、小さな生き物の影が格子窓の外にある布から顔を出した。

あのフォルム……。

ランプをかかげて照らすと、

「カメレオン?」

「俺だ」

「誰だよ?」

「俺だよ!キトウだ!アホ!」

「はあ!?」

「ばっ……声!」

カナトが慌てて口をふさぎ、ドアのほうを見た。

ムソクに聞こえられてないな?

「カナトさん、どうかなさいましたか」

普通に聞こえられてた!!

「な、なんでもない!」

「……そうですか」

そういうが、ドアからカチャと鍵が差し込まれる音を聞いた。

カナトとキトウが素早く顔を見合わせて、次の瞬間慌て出した。

キトウは急いで垂らした布を引き上げようとし、逆にカナトは布を隠そうと引っ張り、最後は体格差でキトウは布と一緒にベッドの上まで引っ張られて落ちた。

ムソクがドアを開けるのと同時に布とキトウが枕の下に隠され、カナトはその前でごろんと寝転がった。

「ム、ムソク、どうした?」

「いえ、変な音がしたので確認しただけです」

ムソクは部屋を見回しながらそう言い、そしてベッドに近づいて行こうとする。

「来るな!!」

ぴたっ。

「……やはり何かあったのですか?」

「まさか!その……気分が悪いんだよ!薬のせいで頭痛も引かないし、これ以上近づくとイラついて襲うぞ!!」

「わかりました。では、何かあれば呼んでください」

「うん!」

意外とあっさりに引き下がってくれたことでカナトがホッと息をついた。

ドアがふたたび鍵をかけられたことで枕の下に隠したキトウと布を引っ張り出した。

「窒息するかと思った……」

「大丈夫か?お前本当にキトウなのか?」

「お前が言ってんじゃねぇよ!普通に俺だ!それより、これ」

キトウが暗赤色の布をカナトに押し付けた。

「ユシルからこれをお前に渡せって言われた」

「ユシルから!」

「そーだよ。樹脂で魔法円を描いたとさ。いいか、俺はこれから亡命するからもう二度と会うことはないだろうけど、まあ、同じ世界の人同士、最後の情けで助けてやるよ。俺もユシルのおかげで水責めから逃れたわけだし?物は届けたから、じゃあなーーぐえっ!?」

カナトが思い切りキトウの首をつかんだ。

「待て!今いったいどうなっているんだ?」

「はい?」

「ユシルは大丈夫なのか?イグナスは?」

「……ユシルは城の地下に幽閉されている。イグナスは知らん」

「城の、地下……」

あの未来と同じだ。

「ユシルはお前に教えるなと言ったけど、あれはすぐにでも処刑行きだな」

やれやれとキトウが頭を振った。

「俺はカメレオンに変えられるし?これ意識体って言うんだっけ?最悪だよ。もう注目どうとかどうでもいいから、とにかくアレストみたいな究極のゴミクソ野郎から離れればいい」

なんならキトウの計画では金持ってそうな家に潜り込んで、知識があることを逆手にとり、珍しい動物として可愛がってもらう予定だった。

不思議と意識体はどうやらいくら酷いことをされても大丈夫らしい。血も出なければ、かすり傷もない。できたとしてもすぐに治る。キトウは水責めされて何度も死にかけたが、時間が経つと何事なく元気に治るので、終わることのない肉体の痛みと精神の責苦に気が狂いそうだった。

しかし逃げ出してしまえばもう後はこっちものだ。原理はわからないが、むしろ最強のボディを手に入れたと解釈できる。

キトウはすでにカメレオン界で無双する自分の未来像を思い浮かべていた。

人間として注目されなくてもいいな。

「ユシルの、指……」

「なんだって?ユシルの何?」

「ユシルの指は、大丈夫なのか?」

「指?別に何もないけど」

何もない?じゃあ、あの指は偽物か!?

カナトがどこか安心したように表情をゆるめた。だが、

「まあ………一つ言わなければいけないことがある」

「え?」

「かなり厄介なことだけど」

カナトもその言葉を聞いていやな予感が湧いてきた。

「なんだよ……」

「いや、さぁ……ほら、つい少し前まで手伝っていただろ?アレストたちを。んで大丈夫と言われたから自分の処刑は必要ですとか言ったわけよ。それで、リアリティ持たせるためにある程度?拷問した跡とかあったほうがいいとかなんとかアホ抜かすからさ」

「拷問されたのか!?つまりユシルの体にーー」

「声大きい!まあ、それはそうだが……最悪なのはそれじゃない」

まだ最悪なことあるのか!?

「じゃあなんだよ!早く言えよ!」

キトウが言いにくそうに目線をそらした。

「その、ある程度傷の治療ができるように?アレストに魔法を教えてくれって言われて」

「どう、いうことだ?」

「つまり、俺を…ユシルの体を拷問して“魔女として誠意を見せる”ためにするとして、でもお前は仲間だから傷の治療はしたい。で、そのためにまずは魔法を使ったほうがいいって言われたんだよ。痛みはなるべく早く治したいだろ?だから教えた」

「教えた?つまりアレストは、魔法が使えるようになったのか?」

「そーだよ。しかも学習能力がハンパなかった。すでに治癒魔法以外にも魔法が使える。俺ですらこの世界に来てから半年くらいでやっとだぞ?しかもユシルの体というハンデがある前提で。それなのにあいつはたった数日で習得した。正直魔法を使ったことのある身として、あいつを人間として見れなかったわ。俺が貸した魔力がいつの間にか増えているし」

アレストが魔法を?でもユシルが最後の魔女……そうだ、キトウが魔力を貸したって言ってたな。俺もユシルに貸してもらったおかげで意識体になれたし。

そこでカナトがハッとした。

そういえば俺、いつから意識体の姿になれなかったっけ。

カナトは何度も鳥の姿になろうとした。そのたびに失敗してしまう。てっきり薬の副作用なのかと思ったが、案外違うのかもしれない。アレストが何かしたのかもしれない。

そう考えると、カナトの体がサァーと冷えていった。

今のアレストが魔法を使えるというのはイグナスにとってかなりの脅威であるはずだ。


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