転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

何も隠してない

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「おい、もういいだろ。離してくれないと逃げれない」

キトウがカナトの拘束から逃れようと体をよじった。

「俺はどうすればいいんだ?」

「知るかよ。こら、離せ」

「お前、今はまだ魔法使えるのか?」

「もう使えねぇげど。俺自身は魔法なんてこれぽっちも使えない。前まで使えたのはユシルの体を使っていたから。わかる?だからお前のこと助けられないし、早く離して欲しいんだけど」

「なあ、なんとか俺の足枷とこの部屋の鍵盗んでくれないか?」

「はあーぁ!?なんで俺が?そもそもアレストの野郎と関わり合いたくないからさっさとこの国を離れたいんだよ」

「頼むよ!」

「無理だーーおい、足音聞こえないか?」

「え?」

「誰かが来る!早く離せ!アレストだったらどうする!」

その時、鍵を外し、ドアを開けたのはーー

「カナト、ムソクから様子がおかしいと教えられたけど何かあったのか?」

その声にキトウは反射的に恐怖を覚え、カチッと体が固まった。

「アレスト!?いや……何もない、けど」

「本当か?」

「もちろん!」

「………枕側にあるその布、見覚えないが、どこから取ってきたんだ?」

「え?」

カナトはパッと布を見た。幸いアレストから見れば背中を向けている格好なのでキトウの姿が隠れている。上手くいけばキトウの存在だけでもごまかせるかもしれない。

カナトは小さく息を吸った。

「ああ!それか!知らない鳥が持ってきてくれた!」

「へえ、鳥の友達?」

「そうそう!!」

「腕の中のものも見せてくれないか?」

「へ?うでのなか?」

「何か隠しているんだろう?」

「いや、そんなことないけど……待て待て!」

アレストが近づいて来ることに焦り、カナトは布を引っ張り寄せてキトウをぐるぐるに巻いた。

「何も隠してない!」

ポンと丸めた布を枕のほうへ投げ、両手を広げてアレストに見せた。

「ふむ……そっか。何も隠してないんだな」

「うんうん!お前もこんな時間に起きて寝たいだろ?ほら、帰って寝ないと」

カナトがベッドを降りてアレストを外に押し出そうとするが、薬のせいで目の前が一瞬ふらつき、ひょいと抱き上げられた。

「ちょうどいい。今夜はここで寝てもいいか?」

「何?」

「ーーッ!!?」

布にくるまれたキトウがぐわっと目を見開いた。

「いや……でも……」

「何か不都合があるのか?」

「そういうわけじゃ……」

「じゃあ今日は一緒に寝よう。久しぶりだな」

「そ、そうだな……」

会話を聞いていたキトウは顔を覆いたくなった。しかし、アレストがいる手前それはできない。少しでも動けばバレる気がしてならない。

断れよ!!

キトウは自分の遭ってきたことを詳細にカナトに言うべきだったと後悔をした。

2人が就寝中に抜け出すしかない。そう決心して2人が寝付くのを静かに待った。











静かな寝息が2人分聞こえてきた頃、キトウは静かに布から抜け出ようとした。しかし、ぐるぐるに巻かれて抜け出すのにかなり難しい。

それに加えてなるべく音を出してはならない。

やっと抜け出した頃、新鮮な空気に思わず大きく口を開けて吸い込んだ。

この国が夏気候なら死んでたな。届け物はしたし、さっさと逃げるか。

アレストがちゃんと寝ているのかを確認しようしたキトウは、暗闇に慣れた目をめぐらすと一対の目と合ったことにギョッと固まった。

「ん?逃げないのか?」

「………」

アレストは起き上がって頬杖をしながら隣で呑気に熟睡しているカナトの頭をなでた。

「探す手間がはぶけたな。きみが自分から姿を現してくれるとは思わなかったよ」

「……な、なんで」

「なんで寝てないかってことか?最近はカナトと離れて寝ているせいか、慣れずに少し睡眠が浅いんだ。きみにはそういった経験はないのか?」

世間話するような口調なのに、キトウは緊張で全身から汗が吹き出している気がした。

脳裏にやられたことの数々がよぎり、体が固まって動けない。そのあいだにも体をつかまれて持ち上げられた。

「今度はどんなことをされたい?」

「……っ!」

アレストの指がキトウの目のふちをなぞった。

「もう一度目を串刺しにして水責めに遭ってみるか?それとも今度は鈍器を使ってみるか?刃物はあまり効果がなかったからな。もしくはその体では耐えられないおもりに押し潰されるのはどうだ?」

「どれも、いやなんだけど……」

「そうか?じゃあ全部試してみようか」

「………っ、もういいだろ!充分に復讐しただろ!」

「こんなことくらいで復讐になるわけがないだろ。お前のしたことは例え来世があったとしても許すつもりはない」

キトウはこの状況の打開策を考えた。だがこの体で魔法も使えないとなるともはや反抗する手立てがない。

絶体絶命か、そんな考えがよぎろうとする時、「うぅ」とカナトのうめき声が聞こえてきた。嫌な夢でも見ているのか、眉間にぎゅっとしわを寄せている。

そうだ!カナトを起こせばいい!

「カナト!うっ!」

口の中に思い切り指を突っ込まれてえずきそうになる。

声が届いたのか、カナトがもぞもぞと起き上がった。

「なんだ……?アレスト、起きたのか?あさ?」

まだ目すら完全に開けられず、それを利用したアレストは、指を突っ込んだ手でキトウの頭をつかみ、体をつかんでいた手でカナトの頭をなでた。

「少し寝れなかっただけだ。カナトは続けて寝ていいよ」

「そうか……じゃあおやすぅ……」

言い切らぬうちにカナトは布団の中に戻って寝始めた。

おのれカナトーーッ!!

キトウはバタバタと宙ぶらりんの体を揺らした。だがカナトは気づかない。

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