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第五章
罠
しおりを挟むキトウを抱えたままカナトは進んでいた。キトウが間違えなければここはすでに城の地下である。
「ここらへんは俺の居住区だったからわかる。この先を曲がらずに進め!青い扉があるからそこに入るんだ!」
「何興奮してんだよ」
「この檻から出れるかもしれない!」
カナトが思い切り顔をしかめた。
本当に出していいのか?
「バカ!進みすぎだ!後退しろ!」
「え?ああ、このドア青色なのか、暗すぎてわからなかった」
「無駄話いいから早く!」
「わかったって!」
カナトが数歩通り過ぎたドアに戻り、開けて中をのぞいた。
「誰もいないな」
「いないなら早く入れ!」
「うるせーな」
不満につぶやきながらカナトはするりと侵入した。中は様々な書籍と奇妙な用途のわからない水晶玉や羅針盤、その他用具があった。
「お前ここで魔法の勉強でもしてたのかよ」
「……ああ、ずいぶんと魔法関係の書籍がなくなっているけどな。アレストが持っていったかもしれない」
「ヤバくないか!?」
「ヤバいな。とりあえず机の上に針金みたいな細長い棒があるだろ。2本取って持ってこい」
カナトが檻を机に置き、言われた通り2本の棒差し出した。受け取ったキトウがガチガチと錠の鍵穴に差し込んでいじる。そうするうちにガチャンと音が響いて錠が金属音を出しながら地面にポロッと落ちた。
「すげぇなお前」
「ふん、俺はな?それで、これからなんだけど、ユシルのところまで案内するけど途中からは自分で行け。いいな?そもそもお前をここまで助けてやったことを感謝してほしいくらいだ」
「わかったって」
キトウを肩に乗せてカナトはふたたび言われるままに進んだ。
触ってはいけない場所、気をつけるべき暗号、印など、順調に罠に引っかかることなく進めたが、突然歩いていた足元からギギギと音がして、次の瞬間には空気を踏んでしまった。
「えーー」
気がつけば体が真っ逆様に落ちていった。
「ああああああーーっ!!!」
カナトが落ちていく様を、直前で安全な場所に飛び移ったキトウが見下ろしていた。
罠の位置に来たのはキトウがわざとそう誘導したからである。
「……運が良ければ生きれるかもな。じゃあなカナト。せいぜいアレストを泣かせろ」
フッと笑って小さなカメレオンの姿が闇の中に消えた。
水の中に落ちたカナトは必死に泳いでいた。
水に飛び込むのは中学の水泳以来である。泳ぎ方などとっくに忘れたが、緊急事態のためかバタ足だけは本能的にできた。手で必死に水をかき分け、なんとか水面上に顔を出す。
「ぶはっ!ゲホッ!」
水でかすむ視線で陸地を目指して泳ぐも水のあまりの冷たさにうまく手足が動かせず、服の重さも加わりほぼ溺れかけていた。
やっとの思いで陸地にたどり着くと、そこからは指先一つ動かせないくらい疲労していた。
カナトは口を大きく開けながら、体に鞭を打ってゆるゆると手をお腹に持っていく。
いてぇ……。
冷たい水を何度も飲み込んでしまったせいで、お腹が刺激されてズキズキと痛い。そのうえ全身から震えも止まらない。
そもそもなんで歩けって言われた場所にこんな落とし穴みたいなところがあるのかわからなかった。
周りにキトウの姿も見当たらない。
あいつも水に落ちたか……?
カナトは震える体を無理やり持ち上げて、頭だけ水の中に突っ込んだ。だがどこにも見当たらない。
「ぶはっ!はあ……はあ……」
いない……沈んだか?
カナトはますますお腹が痛くなってきた気がした。両手でお腹を押さえて地面に倒れ込む。
「……っう」
冷や汗を流していると、お腹に巻いたあの布を思い出した。
カナトはなんとかお腹に巻いた布を解き、それを広げた。濡れているため重ねあったところもあるが、布に何か模様が描かれていることはわかった。
深い色で染み込んだ模様はいつぞや見たことのある魔法円とよく似ている。
呪文さえ唱えば、いいよな……?
だんだんと寒さと痛みで気絶しそうになるなか、カナトは現代へ帰ることで苦痛を解決しようとした。
だがすぐに笑って布をくしゃくしゃにして抱き込んだ。
「ダメだ……離れ、たくない……」
意識が遠のき、カナトが少しずつとまぶたをおろした。
死んだり、しないよな……………。
アレストがカナトを見つけたのは、カナトが遭難したその日である。
しかし、カナトは命も危ぶまれる高熱に侵されてすでに3日も意識がない状態が続いた。せっかく治りかけたお腹がこのせいで悪い方へぶり返し、消化に悪いものを食べればほぼ吐き出してしまう。
ろくに飲食もできないカナトの状態にアレストが陰鬱な目を向けた。その視線が顔、首、胸、お腹、脚ーー
「……いっそう、切り落とそうか」
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