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第五章
布
しおりを挟むあの夜以来、カナトは部屋に閉じこもるようになった。
すると、夢の中でクローリー親子やシドが出てきて、死んだのはお前のせいだと指さして言われるようになった。
寝てしまえば悪夢をみるため、カナトは目を閉じることさえ怖くなった。
だ、誰か助けてくれ……。
布団を頭から被り、ベッドの上で縮こまりながら震えた。
そこでカナトは何か思い出したように周りを見渡し、あれがないかを探す。
「布……布があれば」
カナトは渡されたあの深い赤色の布を思い出した。あれを使えば現代に帰れる。
この状況から逃げたい。だがアレストから離れたくない。
とにかくいつでも逃げれるようにと、安心するためにカナトはその布をそばに置いておきたかった。
だが部屋中を探しても見当たらない。
城の地下で気絶してから布に関する記憶が途絶えている。
「持っていかれたのか?」
カナトはよろよろとドアに近づいた。
「ムソク、いるか?」
「います」
「その、俺が地下で見つかった時、そばに布ってなかったか?赤い色の」
「ありました」
「本当か!それ今どこにあるんだ?」
「アレスト様が持っています」
「そ、そうなのか……?」
アレストに言いに行くか?いや、ダメだ。今は会う勇気がない。
何より閉じこもっている間でさえ会いに来てくれない。
「その布返してくれないかどうか、聞いてもらってもいいか?」
「……わかりました」
「ありがと!」
一方で、アレストは今城の地下にいた。
とある牢屋の中でナイフを持ち、石台の上に太い針で四肢を固定した爬虫類を見ていた。
「見苦しい姿になってきたな、キトウ」
「……こ、の…ゲス……」
「きみがカナトをそそのかして地下に来させたんだな」
「だったら、なんだ……自業、自得だろ」
「それはそうだな。でもいい機会をくれた」
「………?」
「カナトはどうやら人を恨むのが苦手らしい。何をしても本人が悲しむだけで、何一つ上手くいかない」
何言ってんだ、コイツ……。
キトウが眉をしかめた。
「知っているか?カナトは今回のことで死にかけたんだ。この国で、この季節の水の冷たさを知らないようだな。もう一度水責めを経験してみるか?」
「………ッ!」
「僕は自分のものが勝手に傷つけられるのは嫌いだ。カナトはお前たちとは違う。特別な存在なんだ。例え地に落ちてドブネズミみたいに物乞いをしてもお前たちが手を出していい存在じゃない」
壁の蝋燭がユラリと揺れた。瞬間、ギランと光を反射したナイフがキトウのお腹に刺した。
「ああああ!!」
「意識体は血が出ないから後片付けが楽でいいな」
「ガッ…ハッ……!」
「お前が理由もなくカナトのところへ行くとは思えない。何をしに行ったんだ?」
「さぁ、な……」
アレストはナイフの柄を揺らしながら遊び始めた。
「ぐぅっ!」
「痛いか?お前たちがカナトの周りをうろつくから、カナトが変な気を起こすんだ。一つ一つ解決すれば、カナトはもう二度と周りなんか気にしなくなる」
「執着、魔が……ああ!」
さっきから何度もカナトの名前が出てくるな……。どれだけ執着深いんだよ。
キトウはツバを吐きかけたいが、その度胸も気力もない。続く拷問とすら呼べない加虐にもはや理性が切れそうだった。
「それで、なぜカナトに近づいたんだ?」
「はぁ…はぁ…」
「言う気がないなら……」
「アレスト様」
呼びかけにアレストが振り返った。ドアのそばにはずっと男性使用人の衣服を着た女暗殺者が立っている。
名前はミツバチである。
「お楽しみのところ、申し訳ありません。誰かが近づいてきます」
視線をドアに移すと、規則正しいノック音が響いた。
「アレスト様、ムソクです。カナトさんの探し物の件で参りました」
「入ってくれ」
ミツバチがドアを開け、ムソクを中に入れた。
「失礼します。カナトさんが地下で遭難した日、抱きかかえていた赤い布を探しているようです」
「ああ、あれか。魔法円のある布か」
アレストの目がスッとキトウに向けられた。
「あの魔法円はなんだ?」
「知るかよ……」
「きみが会いに行った理由かな?」
キトウが舌打ちしそうになった。それでも知らない存じないを貫いた。
「と言っても、魔法円があったところで今のカナトに魔法なんて扱えないか」
「お前……魔法なんて使って、ゲホッ、いいのかよ」
「ん?」
「魔女狩りに遭っても、知らねぇぞ……」
「心配してくれているのか?でも大丈夫だよ。僕は一度やると決めたことは後悔しない。そのために魔法を自在に扱えるようにするのは当たり前だろ?」
「化け、物……」
「ムソク」
「はい」
「最近カナトの様子はどうだ」
「毎晩悪夢をみるようです」
「内容は聞いたことあるか?」
「直接本人から聞いたことはありません。ただ、夢から覚める時、必ず独り言でクローリー親子とシドの名前が出てきます」
「夢の中ですらお前たちの存在ばかりなのか」
アレストの目に冷たいものが這い上がった。
「例え命の恩人だとしてもそれは過去のことになる。だからカナトもシドも裏切る」
その言葉にムソクの表情が少し強張った。兄のムカデも今裏切り者である。だからなのか、アレストが自分を信用していないことは察していた。
ムソクもムカデとアレストの間で迷っている。どちらも守りたい。だが、どちらとも敵対したくない。そんな思いがあるため、カナトがアレストとユシルたちの間で奔放している気持ちも少しわかっていた。
「本当ならユシルたちに関係するものは何一つカナトの前に出したくない。だが、カナトにも息抜きが必要だろう」
アレストはムソクの耳もとで何かをつぶやいた。
ムソクは最初こそ少し驚いたように目を見開いたが、やがてうなずいてから牢屋から出ていった。
カナトは部屋の中でずっとムソクの帰りを待っていた。
「帰って来ないな……」
その時、ドアがノックされた。
「来たか!」
カナトが開けるよりさきにムソクがドアを開けた。
「お待たせしました。こちらです」
そう言って、腕にきっちりと折りたたんで乗せられた布を差し出した。
「これで帰れる!ありがとな!」
カナトは布を奪うように抱え、バンとドアを閉めた。
帰れる?
廊下に残されたムソクが眉をわずかにひそめた。
意味なく言った言葉なのか、それとも何か意味があるのか。
ムソクはこのことをアレストに報告しようかどうかを迷った。
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