転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

面倒な客

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アイリの言ったことが現実になったのはそのすぐ翌日である。

朝、開店早々見知らぬ女性が手ぬぐいで頬を抑えながら店の中に駆け込んできた。

ちなみにアイリは現在レリィと一緒に奥の部屋でバレないための変装作業をしている。さすがに昨日の今日で何もせずに外をうろつかせるわけにはいかない。

なので今日はカナトが率先してあいさつをした。

「いらっしゃいませー」

見よう見まねで言ったが、女性はダンッ、ダンッ、ダンッと足音を響かせてカウンターにつめ寄ってきた。

「どうしてくれるのよ!」

「……え?」

ケースにケーキを並べていたキシューがちらっと女性のほうを見る。

「この顔!あなたの店の焼き菓子をここ数日食べてから赤く腫れてきたじゃない!」

手ぬぐいをとった女性の頬には赤くブツブツとしたでき物があり、言葉通り腫れていた。

「えーと、虫歯か?」

「なわけないでしょ!この店の管理が行き届いてないんじゃないの!?」

「え?いや……それはないと思う……思いますけど」

「じゃあこれは何よ!明日は友達の集まりがあるのに、これじゃ行けないじゃない!あなたたちだよね?昨日魔女を助けたっていう人は!」

カナトが遅れて気づいた。

これはアイリが言っていた変な客か!

「まさかこれも呪いなの!?」

「どんな呪いだよ……というか、アレルギーとかじゃないのか?」

「今まで他の店の焼き菓子を食べてもこんなことにならなかったわ!弁償して!じゃないとあなたの店のせいで顔が腫れたって言いふらすわよ!」

「はあ!?」

カナトが焦っていると隣からキシューが近づいてきた。

「失礼ですが、お客様は先ほど食べ続けてからと言いましたが、もしかして複数回ご来店いただいたことがおありですか?」

「そうよ!だから何?」

「それではお名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「な、なんでよ?」

「うちではご購入いただいたお客様向けに、連続のご来店でプレゼントを送っているのです。その際に身分証明をしていただいています。そうでなくてもお名前を書いてもらい、お礼をさせていただいております。一度お名前とご購入品、もしくは購入品の名前を教えていただけませんか?これは当店の信用にも関わることなので」

「名前なんてどうでもいいでしょう?とにかくあんたの店の焼き菓子が原因としか思えないの!」

「申し訳ありません。必要なことですので。こちらも事実確認でき次第弁償させていただきます」

「……っ」

だが女性はなかなか名前を口にしない。

するとその目がケースの中にある焼き菓子を見つけた。

「それよ!」

「それ、とは?」

「私が食べた焼き菓子!あれと同じよ!」

キシューが焼き菓子の前に行ってトレーに一個乗せ、女性の前で見せた。

「こちらでお間違いないですか?」

「間違いない!これよ!」

「そうですか。お言葉から察するに、当店の焼き菓子を購入したのは少し前ですよね」

「だから何よ?」

「この菓子は当店の新作で、今日初めてお店に並べています」

「……っ!嘘よ!」

「本当です」

「じゃ、じゃあ私が食べたのは何よ!」

キシューの目が明らかに「知るかよ」と言いたげになるが、表面上はとりつくろっていた。

「他の店の商品と間違えている可能性が大きいです」

「そんなはずないわ!この店のものよ!」

「……お客様、当店は宰相様もご利用されています。制作から管理まで厳しくおこなっていますし、万が一そのような事態があれば責任持って対処いたします。しかし、お客様は名乗りはおろか、食べた菓子も見誤るため、こちらとしても対応いたしかねます」

「そんなの、あなたたちの言い訳じゃない!」

「もうすぐ他のお客さんも来られるので、どうぞ外へ。このまま粘るのでしたらこちらにもり方はあります」

女性がぐっと奥歯を噛み締め、受け入れられない様子で店をズカズカと出て行った。

それを見届けてからキシューが、はあ、とため息をもらした。

カナトは先ほどキシューが口にした“やり方”について、若干自分が想像しているようなやり方には聞こえなかった。

だがおそらく暗殺者と聞いて偏見を持ってしまったのかもしれない。

「キシュー、ありがとな」

「いいですよ別に。これからもまだこういう人が来るでしょうね」

「マジで!?」

「店長、昨日から気にかけているみたいですけど、こういう客は我々に任せればいいんですよ。どのみちこの店はよほどのことでもなければつぶれません。言ってしまえばこの領地の領主ロンドール家とこの国の宰相が後ろ盾になっていますよ。潰れてたまるかよ」

そう言うとまた自分の仕事に戻った。

カナトも何か手伝おうとしたが、座っているだけでいいと言われ、結局おとなしくすることにした。

そして朝の騒ぎなどいざ知らずなレリィとアイリが奥から店に出てきて、カナトが目を向けるとレリィの後ろに美少年がついていた。

「ん?後ろのは誰だ?」

レリィが得意げな胸を張る。

「アイリですよ?」

「アイリ!?」

「彼女にいっそう男装させてみました。顔立ちは頬ぼねや輪郭など、少年として変装しても問題ないと思いましたので。どうですか?」

「すごいな!一瞬誰だかわからなかった!」

「よかった!」

レリィがうれしそうに笑うと、アイリも「ありがとうございます」とお礼をした。

「あのこれからよろしくお願いします」

カナトが不思議そうに目をしばたたかせた。

これからよろしくお願いします?

「彼女をしばらく掃除係としてお店に置くことにしました。昨日の今日で外に放つとまた何か遭ってしまいそうで心配です」

元気いっぱいの笑顔からとても心配の色は見えないが、その言葉にカナトも同意した。

「確かに危ないな」

「ですので、彼女は基本人目につかないよう行動してもらい、しばらく様子見をすることにしました。店長の意向も聞きたいのですが……」

アイリは緊張気味にカナトを見つめた。万が一ダメと言われたらおしまいである。

しかしカナト大きくうやずいて親指を立てた。

「いい考えだな!」

アイリからホッとしたため息がもれた。








カナトがわいわいとしている様子をこっそりと遠くから窓越しに見ていた人がいた。

その人物は店員の目が向いてきた途端、通行人のフリをして視線をそらしたが、まだ店を気にするそぶりをしていた。








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