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第五章
魔女狩りで助けた少女
しおりを挟むことの発端はその日の午後である。
カナトがしゃべりかけてくる貴族たちを無視しながらぼんやりと考え事をしていた時だった。
結局アレストから直接もう殺さないって言葉はもらえなかったな。聞けばよかったな。……というか、まだ俺のこと殺したいとか思っているのか?
ため息をつきそうになるその時ーー
「誰か助けてっ!!」
少女の悲鳴にカナトがびっくりしたように店の外を見た。その悲鳴のせいなのか、店員たちが鋭い目になり、カナトのほうへと移動する。
「な、なんだ今の声」
すぐカウンター前にいる若い、貴族のご子息らしき青年があごをなでながら答えた。
「おそらく魔女狩りですね」
「魔女狩り!?」
禁止令出されたんじゃないのか!
カナトの疑問を汲み取ったのか、貴族の青年は仕方なさそうに頭を振っていた。
「少し前に禁止令出されたとはいえ、この地域は魔女狩りが酷いのですよ。その名残でところどころに魔女狩り行為があるのです。まったく騒々しい。宰相様が直々止めるよう言ったのに、まだこのような行為を。まるで教養がない。ですよね?店長……て、あれ?店長殿!?」
カナトがカウンターを飛び越えて店の外に飛び出した。
真っ先に目に入ったのは店の右手側に、そう離れてない場所で幼い少女が大の男に髪の毛をつかまれているところである。
「おとなしくしやがれ!」
「わたしは違う!」
「黙れ!部屋の中で怪しい絵を描きやがって!お前は魔女だろ!俺の店が最近おかしいのもお前のせいだ!」
「わたしじゃない!ねずみがいるからおかしいの!ちゃんと掃除もしないくせに!だから食料をかじられるのよ!」
「なんだと!?この卑しい魔女め!デタラメばかりを言いやがって!」
男が手を振り上げて少女を殴ろうとした。その直前でカナトが叫ぶ。
「やめろ!!」
男が動きを止め、怪訝そうに振り返った。
「誰だお前!」
「誰でもいいだろ!魔女狩りに禁止令が出されただろ!なんでまだ魔女狩りをするんだ!」
男の顔が一瞬強張る。だがすぐににやっと笑った。
「確かにこいつを魔女と言ったが、別に魔女狩りはしてねぇだろ?こいつを住み込みで働かそているのに、与えた部屋で変な絵を描く上に、店の商品はよく壊れるし、こいつが何かしたに違いない!それを問いただしているだけだ!」
「いや、全部お前の憶測だし証拠ねぇじゃねぇか!」
「そうだよ!わたしはただ絵が好きなだけなの!そもそも飲食店開いて掃除もろくにしない人が何言ってんのよ!」
掃除もろくにしないと聞いて、カナトも今の店を持ち始めてから一度も掃除したことがない気がした。
あれ?俺、ひょっとしてかなり無責任なんじゃ……。
「離して!」
ハッと我に返ったカナトが男に近づいてその腕をつかんだ。
「とにかく離せ!魔女だと思うならまず……そう!浄化機関にでも聞けよ!」
浄化機関は確かアレスト側の陣営だから平気なはずだ!
「バカ言うんじゃねぇ!首都にしかない機関なのに、どうやって聞くんだ!道中の金はお前が出すのか?」
「そうなのか!?しょうがない…俺が出す!」
「お人よしなやつだな!だったらよ、このクソガキが弁償するべきものひっくるめて金出せよ!」
「強盗かよ貴様!そもそもこの子の話を聞いているとお前にも非がありそうだろ!お前の店を見せてくれるなら考えてもいい!ねずみがいるかどうか見てやる!」
「ああ?このガキは最初から俺の所有物だ!そんなややこしいことをするよりもこのままこいつから搾り取ったほうが早い!」
それを聞いて少女が暴れ始めた。
「いやだ!離して!誰か助けて!奴隷になりたくない!」
奴隷?
「黙れ!そもそもお前みたいに流れ者を雇おうなんて心優しいやつはいねぇよ!それなのに俺の店をーーおわ!」
カナトはとにかく渾身の力で男を突き飛ばした。
髪をつかまれていた少女が引っ張られて地面に転がり、土ほこりを被った。
周りが一瞬静かになり、誰かがぽいと何かを投げ出した。石である。それは少女のそばに落ちてころころと転がった。
それが合図かのように、次々と石が投げ出される。
「あっ!」
うちの何個かの石が少女に当たり、彼女から小さい悲鳴がもれる。
「おい!やめろ!危ないだろ!」
カナトが叫んでも止める人はいなかった。
「魔女だ!早く追い出せ!」
「きっと呪われる!」
「早く殺せ!」
な、なんだこれ。
人々は平民貴族関係なく石を投げていた。
「魔女狩りがそんなに簡単に終わるかよ!」
カナトに突き飛ばされた男が怒鳴り、体をはらいながらカナトの前に立った。
「見てみろ!すでにここまできている!禁止令がなんだ!貴族が何を言っても魔女がいる限り俺たちの平穏が奪われるのは変わらないだろ!」
「奪わない!だって……」
だって本物の魔女はこの世でユシルだけ……いや、今は2人か。もう1人は何をしているか知らないが、不安だからと言って手当たり次第に証拠もなく石を投げるのはダメだ!あの少女が魔女という証拠なんか出てこないけど!
「店長!もうお戻りください」
レリィが駆けつけてカナトの腕を引っ張った。
「でも!」
「これ以上はさすがに危険です。私が怒られてしまいます。ここは私にお任せください。あの少女を助けますので、店長は店の中へ避難してください」
「けど……」
「大丈夫です。もう知っていると思いますが、私はアレスト様の下僕であり、暗殺者です。しかも得意武器は拳です」
「………っ!?」
自分を下僕呼び!?いや暗殺者!?それは初めて知ったが!!
カナトが驚いているすきにレリィはポンとカナトをキシューにパスし、少女のほうへ向かった。
キシューはカナトを受け取るとお姫抱っこで店に歩いた。
「おい!キシュー、降ろせ!」
「ダメです。そもそも行動する前に考えてくださいよ。単身で魔女とか呼ばれている人物の前に出るなんて。この地域で魔女狩りが酷いと知った時点で敬遠するべきです。あと何かあった時、というか出かける時はできればレリィや他の店員をそばにつけてください。俺たちってあなたが思うよりあなたの身の危険を恐れているんですよ」
「………お前もなのか?」
「ん?」
「暗殺者なのか?」
「そうですけど」
あっけらかんと言われてカナトが固まった。
「というより今知ったんですか?店員全員暗殺者ですよ」
「はあ!?」
店に戻ったカナトは、閉店になっても帰ってこないレリィを心配していた。
「なあ、キシュー、レリィがまだ戻ってこないけど大丈夫か?」
売り上げ管理をしていたキシューが顔も上げずにうなずいた。
「大丈夫だと思いますよ。あの人暗殺より真正面戦闘が得意なので。あ、もしかして相手側の心配ですか?」
「いや、そうじゃないけど……心配したほうがいいのか?」
「さあ?」
「………。ダメた。心配だな」
「まあ、店長よりは身を守る術を知っているので大丈夫です。安心してください」
カナトが探しに行こうかどうかを悩んでいると、ドアベルが鳴った。
「レリィ!……と、誰だ?」
戻ってきたレリィの後ろに誰かがついていた。その誰かが顔を出し、それがさっきの少女だと気づく。
だが、その体はアザだらけで、顔も大きく腫らしている。
「石を投げられたせいなのか……?」
少女の視線が一瞬レリィを見た。
カナトもつられてレリィを見ると、あちらはいたって平常な様子で胸に手を置いた。
「私が殴りました!」
「……え?」
「手加減しています!」
「そういう問題か?いや、なんで殴ったんだよ!助けにいったんじゃなかったのか!」
「助けに行きましたが、なかなか収まらないので、私が率先して彼女を殴り、人々が困惑しているあいだに山に捨てると言って連れ帰ってきました」
嘘だろ、という顔をしたカナトに少女が「あの!」と声をかけた。
「今日は助けてくれてありがとうございます。あのままだとわたし、たぶん奴隷になるか、処刑台に連れて行かれたので」
「しょ、処刑台?」
「はい。魔女だと断定されれば処刑台で、人々の手で殴り殺されるのです。石や手当たり次第の物を投げられたりして、血まみれになりながら死んでいくのです。もしくは火炙りにされます。……そういう人はたくさん見てきましたから」
「火炙りって……」
少女がおもむろに人差し指でカナトの後ろにある窓を指した。
見ると、暮れゆく空と大地のあいだに、何か支柱のようなものが立てられている。カナトが前々から不思議に思っていた物だが、ずっと心に留めていなかった物でもある。
「あれが処刑台です。もともとはあんな黒い色をしていないのです。魔女たちの血で汚れて、あそこまで黒くなったのです」
そう言われカナトがぞわりとした。
「こら、アイリさん、あまりうちの店長を怖がらせないでください」
「す、すみません……」
「店長、大丈夫です。禁止令が出されているのであの台はもうじき取り壊される予定ですよ」
「そ、そうなのか……」
それでもカナトの顔色はあまり良くない。
その時、少女アイリが突然頭を下げた。
「本当にごめんなさい!」
「え?」
「たぶんわたしのせいでこのお店も魔女を助けるお店と言われて誰も来なくなってしまうと思います!だって、今までいろんなお店がそうなってつぶれたから!たぶん物も投げられるし、変な人が邪魔しにくるかもしれません!」
「え!」
カナトが固まっていると、ふと視界の端で掃除をしている店員が映った。
見渡すと、アイリの言葉を気にも留めない様子で店員たちがそれぞれ自分の仕事に専念している。キシューも売り上げ管理で眉をしかめながらペンを動かし、レリィにいたってはまだ「店長を怖がらせないで!」と言っている。
なんだかそれに心強さを感じるが、同時にいやな予感もする。
大丈夫……だよな?
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