転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

新しい魔女

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アレストが来るのを待つと考えたが、1週間過ぎてもその姿を現すことはなかった。

ブスッとしたままカウンターで頬杖をつく。

カナトの機嫌が目に見えて悪いせいなのか、貴族たちも話しかけてこない。

レリィが午後のおやつをカナトの前に出すと静かに行こうとした。しかし、カナトに「レリィ……」と名前を呼ばれて不思議そうに振り返った。

「あのさ……アレストは来ないのか?」

「来て欲しのですか?」

「違う!……聞きたいことがあるだけだ」

「わかりました!会いたいとおっしゃったこと、すぐにご連絡しますね!」

「違う!言ってねぇよ!って、おい!行くな!聞け!」

しかしレリィはうれしそうにその場を去ってしまった。

くっそー!いや、それよりも、レリィの反応からするとアレストと連絡することはけっこう難しいことじゃないみたいだな。やっぱりアレスト側の人間なのか……店員も全部。

カナトの目がチラリと店内で接客に追われる店員たちを見た。

「はあ……」

それもそうか。そもそも自分のような人間のもとで働きたいなど、それこそ頭がおかしい。カナトはもう一度大きなため息をついた。












レリィが連絡すると言った翌日の夕方前、アレストがお店に姿を現した。

カウンターで今日一日の売り上げを見ていたカナトが来客かと思い、ふいと顔を上げた。

暗くなりゆく外を背景にアレストが立ち、その青い瞳と視線が合いそうになった瞬間、パッと素早くそらした。

き、来た!いや早い!

カナトが震えているとふといやなにおいを感じた。

まるで直接脳を締めつけるような、それでいて小さい針で突き刺すようないやなにおいである。

なんだ?

「カナト、きみから会いたいと言ってもらえるなんて思わなかった」

どこかうれしそうな声に、カナトは思い切り顔を覆った。

本当にそう言ったのか!

真っ赤になりながらレリィを恨み、同時にズリズリと後ろに下がった。

「カナト……」

「来るな!」

一歩踏み出したアレストがピタッと止まった。

カナトは言ってから口調が強過ぎたと反省し、目線をさまよわせた後、ぽつりと言った。

「その、聞きたいことがあるから……」

「何?聞きたいことって」

「あのさ、俺が生きて……と言うより、いつから俺がここにいるってわかったんだ?」

「きみがデオンと出会った時から」

「あいつ……っ」

やっぱりあの野郎か!あいつの兄の言う通りだな!信用ならねぇ!

「でもその前からずっと、きみが戻ってくるんじゃないかと思っていた。だからずっと探していたんだ」

「………殺そうとしたくせに、何言ってんだ。知ってるか?もし本当に帰れたなら、たぶんもう戻って来ないぞ俺は」

「反応を見ると、そうみたいだな」

「失敗したから、この世界にいるだけだ」

しばらくのあいだ沈黙が流れた。

「僕が魔法を使えることはもう知っているか?」

「………っ」

「知っているのか。やっぱりキトウは殺さないと安心できないな。でも知っているか?意識体は死なない。だが、もし本体に何かあれば意識体も消滅する。今のキトウの本体はユシルと共有しているみたいだ。実験しているといろいろと面白いことがわかってくる」

もちろんその実験の内容は口にできたものじゃない。

「な、何が言いたいんだ?」

カナトはうつむきながら冷や汗を流した。

「ユシルはイグナスのもとへ返すつもりだよ。もちろん生きたままだ」

言い方からすると、逆に生きてない状態で返したかったのかと聞き返したい。

「……返す?」

「ああ。ユシルから少し面白い話を聞いたんだ」

アレストは店内に入ってきた時から抱えていた薔薇の花びらを指でもて遊んだ。

「どうやらこの世で2人目の魔女が生まれたらしい」

「そう……何!?」

驚きの内容に顔を上げそうになったカナトが慌てて背中を向けた。

「どういう意味だそれ?」

「ユシル以外に本物の魔女が誕生したんだ。僕みたいに、他人の魔力を吸い込まないと魔法が使えない人とは違い、大自然の力で魔力がみなぎってくる本物の魔女なんだ」

「お前、他人の魔力を吸い込まないと使えないのか?」

「そうだよ。しかも使うたびに反動も大きい。最近だと、使うとすぐに倒れる」

カナトの心臓が一瞬ドクンと跳ねた。

「だ、大丈夫なのか……?」

「心配してくれてありがとう。うれしいな」

「うるせぇ!してねぇよ!それで、2人目の魔女とお前がユシルを返すつもりとどう関係するんだよ!」

「その新しい魔女が少々厄介な人物だから、影響をおよぼす前に潔くあきらめた」

カナトが一瞬耳を疑った。

あきらめた?そんな簡単にか?お前が?

「本当か?でも禁止令を出したのはつい最近だろ」

「半年くらい前にユシルがその人物のことを言ったんだ。その時は信じられなかったし、きみを失ったことで少しやけを起こしていた。でも少し信じたかったんだ。そして最近になってその人物が本当に現れた。僕じゃ太刀打ちできないし、したくもない」

アレストでさえ太刀打ちできない人って誰だよ!アレストって本作最大の悪役だぞ!魔女狩りをする残虐性を持った人物だぞ!

「…………だから、試しに来たんだ」

「は?何が?試す?」

カナト不思議がっていると、ずいと目の前に何かを差し出された。

回り込むように差し出された深紅の薔薇はよく知っているはずだった。なのにーー

「うっ!!」

カナトがその香りを嗅いだ瞬間に口を押さえてカウンターに手をついた。

苦しい!なんだあのにおい!

こんなに攻撃性の強い薔薇は初めてだった。

カナトの反応を見ていたアレストは目底によくわからない感情を宿らせた。

「……カナト」

「なんだよ!」

「大丈夫。もう魔女狩りなんてふざけたことはしない。きみの嫌いなこの薔薇も焼き払っておく。きみの嫌いなもの全て、この世から消し去るから、心配しなくていい」

その言葉からアレストの執着を感じた気がして、カナトが酷い拒絶感を覚えた。

「そこまで、しなくていい……別に薔薇は嫌いじゃないし。あと、店の菓子の味が薄いとか言うやつがいただろ。そいつにしたことはやりすぎだ!」

「よろこんでくれないのか?これで商売上の敵は1人減ったのに?」

「よろこぶかよ!寝目覚め悪いし、俺は……そういうのは嫌いだ」

「わかった。なんとかしておこう。……今日は会えてうれしかった。最近は公務にばかり気を取られていたから、きみから会いたいと言ってくれたことが救いだった」

カナトがハッとした。

今のアレストは宰相だ。この国で初めての役職なため、やることはたくさんあるはずだ。加えてレリィが言うように、この時期のアレストの足を引っ張ろうと弱みをつかみたい人もたくさんいるはずである。

「………忙しいのに、来てくれてありがとう」

アレストがふっと優しく笑った。もちろんうつむいているカナトには見えない。

「僕こそ、ありがとう」

アレストはこの日、ただカナトと話しただけで帰った。アレストからすぐ首都に戻ると聞いたので、おそらく忙しい中時間を見つけて来てくれたのだと思われる。

カナトは、この時はただ魔女狩りが本当になくなると思い、積み重なった疲労が降りたような気がした。




しかし、一度まかれた魔女狩りの火種はそう簡単には消えず、カナトはロンドール領に来てから初めて魔女狩りを目にすることとなる。


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