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第五章
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もはやこのままアイリと同じ姿になるんじゃないかと思った時だった。
ふと群衆の声が小さなくなり、やがて声はざわめきに変わっていく。
なんだ………。
カナトが振り返りろうとした。だが振り返った瞬間にグラッとして後ろ向きに倒れた。
「カナト!」
慌てた声に、カナトはかすむ視界でその声の主をとらえようとした。
「アレスト……」
誰なのかわかった瞬間、つうと我慢していた涙が流れる。
怖いはずの存在なのにこの時ばかりは現れて欲しかった。
カナトの体が起こされ、たくましい腕に抱き上げられた。
「もう大丈夫だ。僕がいる」
「ア、アイリが……!」
「わかっている。ちゃんときみ以外の人も助ける」
「俺……俺………」
「大丈夫。きみのしたことは正しい。何も間違っていない。誰にも文句は言わせない」
「……本当に、正しいのか?」
「本当だ」
しばらくして、カナトがやっと落ち着いたようにゆっくりとまばたきをして、やがてまぶたを閉じた。
それを見届けてからアレストは立ち上がり、言葉をなくしたアイリを一瞥し、群衆へと視線を向けた。
「禁止令を破った者への処罰は伝えたはずだ」
冷たい視線が巡らすと人々は一様に黙り込んだ。
だが意見のある者はカナトを指さしながら叫んだ。
「俺はあの魔女の元雇い主だ!その菓子店の店長は魔女に加担している!」
「だからなんだ」
「もともと魔女狩りを推進したのは宰相様ではないですか!なぜ急に禁止令を出したうえに、魔女をかばう者を助けるのですか!」
それには群衆も自身の行動を正当化しようと同調した。だが、アレストはただ冷たく言い放った。
「お前のような者がいるからだ」
「……っ!」
「この国のためを思い、心を鬼にして魔女狩りを推進し、害悪を除外しようとした。かつての劇場の火災で僕の尊属使用人に化けた魔女が死んだ。その死によって僕は呪いにかけられ、一時期酷く魔女を恨んだ。だが、そのせいで見るべきものを見誤った」
アレストの声にほんのわずかの悲惨さがにじんだ。
「魔女狩りでただの私怨で無実の人を陥れ、魔女狩りに乗じて不当な売買をする人々さえ現れた。教会がその売買に手を出したと知った時、僕はどれほど悲しかったか。だから直接現国王陛下に願い下げた。どうかこの魔女狩りを正しい道へ導くことに協力してほしいと。もう二度と無実の人々が濡れ衣を着せられることがないようにと。幸いにもフェルサジア辺境伯もこの意見に同意し、協力を申し出た」
あの噂の軍事力を持つフェルサジアの名と現国王が出てきたことで、人々は反論する気を失った。
しかしアレストはまだ追い討ちをかける。
カナトを片手に抱き上げ、もう片手で自分の服をほどいていく。シャツのボタンをとき、肩を人々の前にさらけ出す。
人々の目に触れたのは、右腹部に黒々とした、目にもおぞましいアザである。
「これは今まで魔女を殺した際の呪いだ」
人々のあいだでどよめきが起きた。
「本物の魔女を殺せばこのように呪われる。だから魔女を見つけ次第、首都で処刑するために浄化機関に引き渡すように言ったんだ。きみたちがこの呪いを受けないために。だが、こんな処刑台を作って私刑まで行うとは……」
アレストは苦しげに顔を歪めた。
言葉にしなくとも、散々魔女を殺してきたこの場所で、呪いを受けていない人々が立っていること自体それは無実の人を殺したということになる。
そのせいなのか、群衆の顔に信じがたいものが浮かび出た。
「呪いのことを告げなかったのは不必要な混乱を避けるためだった。魔女狩りと同じように、身体的特徴を呪いと間違われないために黙っていたが、こんなことにらなるとは思わなかった。申し訳なかった」
アレストはまるで群衆が無実の人を殺したのは全て自分のせいかのように引き受けた。
やがて人々のなかでアレストに同調する者が現れた。
「宰相様の気持ちはよーくわかった。実際アレスト殿が宰相になられてから、暮らしは良くなった。長年ほったらかしにされた橋の修復もされたし、出稼ぎに行くために遠回りすることもなくなった」
「それに私たちが勝手に私刑を行っただけです」
「宰相様こそ、呪いは大丈夫ですか?」
「平気だ。これは他人にうつらない。現に一番うつして欲しくない人を抱きしめているからな」
アレストは腕の中で気を失っているカナトに慈悲深い目を向けた。
「僕は彼を治療しなければいけない。この度はこの身の不甲斐なさを実感した。よって、処罰は行わないことに決めた。だが、私人による魔女狩りは許さない。これを念頭に置いておいてくれ」
そう言うとアレストは衣服を器用に整え、魔力を使用した副作用でできただけのアザを隠した。
帰りの馬車、アレストはカナトから魔力を吸い取り、魔法で治療をした。
何度も魔法を使うに適していない体で使い続けたためか、すでに限界が来ていた。
しかし、内臓の痛みに比例するようにアレストの笑みが深まっていく。
「カナト、おかえり」
まだ目覚めないカナトを抱きしめ、アレストは病的な笑みをもらした。
「ーーもう二度と離さない」
ふと群衆の声が小さなくなり、やがて声はざわめきに変わっていく。
なんだ………。
カナトが振り返りろうとした。だが振り返った瞬間にグラッとして後ろ向きに倒れた。
「カナト!」
慌てた声に、カナトはかすむ視界でその声の主をとらえようとした。
「アレスト……」
誰なのかわかった瞬間、つうと我慢していた涙が流れる。
怖いはずの存在なのにこの時ばかりは現れて欲しかった。
カナトの体が起こされ、たくましい腕に抱き上げられた。
「もう大丈夫だ。僕がいる」
「ア、アイリが……!」
「わかっている。ちゃんときみ以外の人も助ける」
「俺……俺………」
「大丈夫。きみのしたことは正しい。何も間違っていない。誰にも文句は言わせない」
「……本当に、正しいのか?」
「本当だ」
しばらくして、カナトがやっと落ち着いたようにゆっくりとまばたきをして、やがてまぶたを閉じた。
それを見届けてからアレストは立ち上がり、言葉をなくしたアイリを一瞥し、群衆へと視線を向けた。
「禁止令を破った者への処罰は伝えたはずだ」
冷たい視線が巡らすと人々は一様に黙り込んだ。
だが意見のある者はカナトを指さしながら叫んだ。
「俺はあの魔女の元雇い主だ!その菓子店の店長は魔女に加担している!」
「だからなんだ」
「もともと魔女狩りを推進したのは宰相様ではないですか!なぜ急に禁止令を出したうえに、魔女をかばう者を助けるのですか!」
それには群衆も自身の行動を正当化しようと同調した。だが、アレストはただ冷たく言い放った。
「お前のような者がいるからだ」
「……っ!」
「この国のためを思い、心を鬼にして魔女狩りを推進し、害悪を除外しようとした。かつての劇場の火災で僕の尊属使用人に化けた魔女が死んだ。その死によって僕は呪いにかけられ、一時期酷く魔女を恨んだ。だが、そのせいで見るべきものを見誤った」
アレストの声にほんのわずかの悲惨さがにじんだ。
「魔女狩りでただの私怨で無実の人を陥れ、魔女狩りに乗じて不当な売買をする人々さえ現れた。教会がその売買に手を出したと知った時、僕はどれほど悲しかったか。だから直接現国王陛下に願い下げた。どうかこの魔女狩りを正しい道へ導くことに協力してほしいと。もう二度と無実の人々が濡れ衣を着せられることがないようにと。幸いにもフェルサジア辺境伯もこの意見に同意し、協力を申し出た」
あの噂の軍事力を持つフェルサジアの名と現国王が出てきたことで、人々は反論する気を失った。
しかしアレストはまだ追い討ちをかける。
カナトを片手に抱き上げ、もう片手で自分の服をほどいていく。シャツのボタンをとき、肩を人々の前にさらけ出す。
人々の目に触れたのは、右腹部に黒々とした、目にもおぞましいアザである。
「これは今まで魔女を殺した際の呪いだ」
人々のあいだでどよめきが起きた。
「本物の魔女を殺せばこのように呪われる。だから魔女を見つけ次第、首都で処刑するために浄化機関に引き渡すように言ったんだ。きみたちがこの呪いを受けないために。だが、こんな処刑台を作って私刑まで行うとは……」
アレストは苦しげに顔を歪めた。
言葉にしなくとも、散々魔女を殺してきたこの場所で、呪いを受けていない人々が立っていること自体それは無実の人を殺したということになる。
そのせいなのか、群衆の顔に信じがたいものが浮かび出た。
「呪いのことを告げなかったのは不必要な混乱を避けるためだった。魔女狩りと同じように、身体的特徴を呪いと間違われないために黙っていたが、こんなことにらなるとは思わなかった。申し訳なかった」
アレストはまるで群衆が無実の人を殺したのは全て自分のせいかのように引き受けた。
やがて人々のなかでアレストに同調する者が現れた。
「宰相様の気持ちはよーくわかった。実際アレスト殿が宰相になられてから、暮らしは良くなった。長年ほったらかしにされた橋の修復もされたし、出稼ぎに行くために遠回りすることもなくなった」
「それに私たちが勝手に私刑を行っただけです」
「宰相様こそ、呪いは大丈夫ですか?」
「平気だ。これは他人にうつらない。現に一番うつして欲しくない人を抱きしめているからな」
アレストは腕の中で気を失っているカナトに慈悲深い目を向けた。
「僕は彼を治療しなければいけない。この度はこの身の不甲斐なさを実感した。よって、処罰は行わないことに決めた。だが、私人による魔女狩りは許さない。これを念頭に置いておいてくれ」
そう言うとアレストは衣服を器用に整え、魔力を使用した副作用でできただけのアザを隠した。
帰りの馬車、アレストはカナトから魔力を吸い取り、魔法で治療をした。
何度も魔法を使うに適していない体で使い続けたためか、すでに限界が来ていた。
しかし、内臓の痛みに比例するようにアレストの笑みが深まっていく。
「カナト、おかえり」
まだ目覚めないカナトを抱きしめ、アレストは病的な笑みをもらした。
「ーーもう二度と離さない」
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