転生と未来の悪役

那原涼

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第五章

アレストのもとへ1

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カナトは全身のだるみを感じながらむくりと起き上がった。

頭痛に思わず手を頭にそえたが、包帯が巻かれていることに気付いた。そして見渡すと周りが自分の知っている風景と違っていることにも気づく。

「ここ……」

今いるこの部屋は店の奥にある自部屋ではない。

「どこだここ」

カナトが戸惑っていると、ガチャリとドアが開いた。

入ってきた人物と目が合った瞬間、カナトはバッと布団の中に潜り込んだ。

アレスト!?

気を失う前の記憶が洪水のようになだれこんでくる。

そうだった!処刑台にアレストが来て、その後………その後はどうなったんだ?

「カナト、起きたのか?気分はどうだ?」

「あ……」

「カナト?」

「あ…頭が少し痛いくらいだ」

「それならよかった。……それじゃあ、ゆっくり休んでいてくれ」

ドアを閉める直前、アレストがゴホッと咳をした。カナトがぴんと耳を立てたが、ドアはすでに閉められた。

布団から出てきたカナトは閉まったドアを見つめながら眉間にシワを寄せた。

「咳?」










部屋を出ていいのかわからず、カナトは目覚めてからずっとぼうとしている。

「何時間経過したんだ?」

自分ですらどれくらい経ったのかわからない。

その時ドアがノックされ、カナトは反射的に布団を引き上げようとした。

「店長、食事を持ってきました」

「レリィ?」

「そうですよ。入りますね」

「あ、ああ、入っていい……」

レリィが部屋に入ると、ベッドの上で驚いているカナトを見つけた。

「どうしたんですか、その顔は」

おかしそうにレリィが笑う。

「お前までいるのか……」

「ふふ、いますよ」

「その……えと、ここっていったい……」

「ああ、混乱してますよね。ここは首都の屋敷ですよ」

「首都?」

「はい、アレスト様のお屋敷です」

カナトは自分が監禁されていたあの屋敷だと気付いた。

「そうなのか……」

カナトの顔色が悪くなったのを見て、レリィが明るい笑顔を作った。

「店長は愛されていますよ」

「急になんだ……?」

「アレスト様は現在魔法を使った代償に苦しんでいます。もう使ってはいけないのに、店長を大事に思うあまり、ついつい治療の魔法を使いました」

レリィの口からこうも簡単に魔法という言葉が出てくることに驚くが、その内容にも驚いた。

そういえば前に会った時もアレストが似たようなこと言ってたな。

「大丈夫…なのか?」

「アレスト様でしたら現在事務室にて仕事中です」

「は!?体悪いんだろ?」

「はい。体に代償の跡ができています。対外的には魔女の呪いと言っているみたいですけどね」

「………」

カナトがどこか物思いにふけた。

「あのさ……」

「なんでしょう?」

「アレストの部屋って、どこだ?事務室じゃなくて、自部屋のほうの」

レリィが口もとを吊り上げてフッと笑った。

「ええ、もちろんお教えしますよ」












夜、カナトは教えられた場所にたどりついた。

事務室の隣に自部屋を置いているのは、カナトが離れる前から変わっていないらしい。

その部屋にいやな思い出があるためか、入るのに少しためらいがある。覚え間違いでなければ、確か剣が二本壁に立てかけられている。

カナトは散々ためらった後、ゆっくりとドアを開け、そろりと中に入った。

ベッドが盛り上がっていることでアレストがいることを確認した。

寝ているんだよな?

忍足で近づき、その寝顔をのぞいた。確かに目を閉じて寝ている。

その頬をつんと触ってみる。反応はない。

ちゃんと寝ているようでカナトがほっと息をついた。

慎重に布団をめくり、アレストの寝巻きのボタンを解いていく。

すると、闇に慣れた目で見たものに思わず息を呑む。

アレストの右側のお腹から鎖骨にかけて広範囲にアザのようなものが広がっていた。

これが……代償?俺のせいで?

そういえば城の地下から助けられた時、異様に体の治りが早かった気がする。まさかそれもアレストが魔法を使ってくれたからなのか?そう考えるとカナトのなかでとてつもない罪悪感が湧き上がった。

起こさないように衣服を直し、布団を丁寧に掛け直したカナトは静かに退室した。







暗闇の中で寝ていたはずのアレストがふと目を開いた。

隠しきれない笑みがその顔に浮かび、カナトの指が触れたお腹を服の上から愛おしげに触った。











翌日、レリィが朝食をカナトの部屋へ持っていくと、早朝なのにもう着替えていた。

「店長、お早いですね」

「そうか?そうかもしれない……うん……」

何やら歯切れが悪い。カナトが悩ましげな顔で少し考えた後、レリィを見て言った。

「お店は大丈夫か?」

「大丈夫ですよ!キシューが代理店長として働いていますので」

「そ、そか。それならいい」

普通に考えて店に自分がいない方がいいのかもしれない。

「それと、先ほどアレスト様から言伝ことづてがありました」

「こ、言伝?アレストから?」

「はい!もし起きていたら朝食を一緒に食べないかと言っていました。難しいならまた次の機会にしよーー」

「い、行く」

「え?」

「行く……朝食に」

「本当ですか!ではこの食事をそのまま食事の場へ運びますね!」

「うん……俺は後から行く」

「わかりました。場所はわかっていますか?」

カナトがこくりとうなずく。

「ではお待ちしています!」

レリィが出て行き、カナトは深く息を吐き出した。

行くと言うが、今のアレストに会う勇気があるのかどうかを聞かれるとないとしか言えない。だが、アレストの言う通り、恨みも復讐もあきらめるのなら、むしろその恨みを全て自分が引き受けてもいいとさえ考えた。

もともと裏切ったと認識している。それに加えて殺されかけた経験やそれより前に遭ったいやな目など、自分をまったく恨んでいないと言われると逆に信じられない。

それでもなんとか緊張を我慢して食事の場に向かった。

目的地につくとドアの前で深呼吸をする。すべての恨みを引き受けてもいいと考えたそばから、また自分の席が離れていることを怖がってしまう。

意を決してノックをした。

「入ってくれ」

その声にカナトの体が硬直した。なんとか早まる心臓を落ち着かせてドアをゆっくり開けた。

上座にアレストが座っている、ということはなかった。むしろあの長い机がなくなり、テーブルが2人かけのものになっている。

「あれ?」

記憶の中の光景と違うことにカナトから不思議そうな声が出た。

アレストの対面にはおそらく自分のだと思われる席と食事がある。

「カナト、来てくれてうれしいよ」

「アレスト……」

「この部屋、どうせこれから先もきみと僕しか使わないから、変えてもらったんだ。この対面はきみだけの席だ」

「え?」

「気に入ってくれたか?」

アレストの青い瞳と合いそうになる瞬間、カナトはパッとうつむいた。

「やっぱり目を合わせてくれないな。カナト、胸はまだ痛むか?」

「……ッ!」

無意識に剣で貫かれた胸を押さえた。

あの恐ろしい光景がまたよみがえり、カチカチと歯が鳴る。

「すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ、今更何を言っても意味はないだろうから、せめてできることをしようと思ったんだ」

アレストが近づいて行き、カナトが慌てて下がろうとした。だがいつの間にか外でひかえていたレリィがバタンとドアを閉めた。

「え!」

退路を断たれたせいで明らかな焦りが顔に出た。

「ド、ドア……!開けろ!おい!」

「カナト」

「ーーぃ!」

「怖がらないで。何もしない」

差し出された手にカナトは戸惑った目を向けた。手を取ったほうがいいのかどうかを迷っている。

恨みを引き受けるとかいう決心が早くも揺らいだ。

「ご、ごめん……う、裏切る、つもりじゃ」

「わかっている。あれは僕が間違っていた。カナトは今までずっと僕のために動いてくれたのだろう?それなのに嫉妬に駆られてきみに取り返しのつかないことをした」

「………?」

「きみは何一つ悪くない。ユシルだろうとキトウだろうと、きみはただ助けたかっただけ。親しい人を思うその気持ちは間違いじゃない。それは裏切りでもない。僕の心が狭かっただけなんだ」

「そ、そんなことは………」

「きみが帰ってきてくれるなら、辺境伯の条件を呑んでもいい」

辺境伯って、イグナスのことだよな?条件?

「きみが僕のそばにいてくれるなら、この国の情勢が落ち着いた頃、僕はきみと2人で辺境伯の管理する場所へ引っ越すことにしたんだ」

「え?」




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